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君が帰る場所は俺の腕の中

目の前には会いたいと願った人物が立っていた。

でも、だからって今すぐ会いたいわけではなかったから、正直言うと戸惑っている。

もう少し気持ちを落ち着かせて、自分の頭を整理してから帰ろうと思っていたのに。

なのに目の前の亮太はめちゃめちゃ不機嫌な顔をしていて、拳を握っている。


(えっ、私なにかした?スマホは無視したけど)


悪寒が走った。とても嫌な予感がする。


「あれ?」

「あれって何だ、あれって!」

「やだ、なんで怒ってるの?」


亮太は仕事帰りか、仕事中なのか不明だけれどスーツを着ていて首から例の紐が見えている。

例の紐というのは警察手帳を下げている皮ひもの事。

無造作にスマホを内ポケットにしまった亮太は、今度はその手を腰の後ろに回した。

何かの捜査途中だったんですか?と聞きたくなるような装備をしていた。

腰のベルトは普通のそれじゃなくて、無線とかその他もろもろ警察グッズがかかっていた。


― チャリッ 鉄が擦れる音がした。

― ジャカッ えっ!


「えぇぇー!!なんで、どうして亮太っ。こ、これっ」


わたわた慌てる私に冷ややかな視線を向けると、私の荷物をベンチから取り上げた。

ぐいと引き起こされ私は無理やり立たされた。

私の右手には銀色の冷たい輪っかが嵌っている。反対の輪っかには亮太の左手が・・・。


「て、て、手錠!!!」


亮太は右肩からジャケットを脱ぎ、手錠がかけられた左腕に巻き付けてそれを隠した。

ぐいぐいと引きずるようにして亮太は公園を出た。

大股で進む彼に置いて行かれないように私は小走りになる。手は繋がれているので置いて行かれる事はないけれど、距離が開くと痛い。あっと言う間にマンションに帰って来た。


玄関のドアを開け、押し込まれるようにして自室に戻った。


「待って、待って!何これ。私何もしてないし、むしろされた方だし。なのに・・」


パニックと恐怖で気付けば私は泣いていた。

手首は擦れて赤くなっている。痛い、でも痛いのは手首じゃなくて心だった。


「奏!ごめん。許してくれ」


亮太はそう叫んで私を正面からきつく抱きしめた。構えていなかったせいもあってドンと顔が胸に当たる。

「苦しいよ」と訴えても体は離してもらえず、「離して」と言うと更に力を入れられた。

その強い力とは反対に亮太の体と声は震えていた。


「ごめん、ごめんな」


こんなに謝られるような覚えはない。なに?どうしちゃったの亮太。


「亮太?ねえ、顔、顔見せてよ。見えないと不安になる」

「・・・」

「お願い」


亮太は抱きしめる力を緩めて、顔を私に向けた。相変わらずのしかめっ面でちょっと笑えた。


「んふっ」

「笑うなよ」

「だって、なんでそんな顔をしてるのよ。怒りたいのはこっちです」

「ごめん」

「だから、ごめん以外が聞きたい」


亮太は困ったように笑って、ちょっとだけ顔の緊張を解いてから静かにベッドに座った。手は繋がれたままなので私も一緒に隣に座った。


「俺、警察官なのに奏を監禁しようとした。手錠して動けなくして、鍵かけて何処にも行けないようにしようとした」

「・・・」

「奏が帰って来なかったらどうしようって考えたんだ。そしたら俺の中に眠っていたどす黒い感情が湧き出て来て、誰の目にも触れないように俺だけのものにしてしまいたいって思ったんだ。一人になりたくない、奏だけは傍に居て欲しいって」


亮太は手錠で繋がれた腕を上げて「ごめん痛かったよな」って言って鍵をさした。パキッっとあっけなくそれは解錠されて私は自由になった。隣で亮太は項垂れている。


「とんだ警察官だわ。監禁って、すごい世間を騒がせるニュースになっちゃう」

「ごめん」

「でも、同意のもとならちょっと変わったプレイになって罪は問われないね」

「・・・え?」


亮太が私にだけは傍に居て欲しいって言った。それがとても嬉しかった。

こんなに感情的に彼が表現してくれた事に、私は喜びを感じていた。

もう変態とでも何でも呼んで。


「亮太の事が好きだから、許してあげる」

「奏」

「私の彼そう言うプレイが好きなのって言っちゃうからね」

「そういうプレイって・・・」

「ねぇ、私の事好き?」

「っ。俺、奏が、好きだよ」

「ふふっ。やっと言った」

「俺っ、奏の事、愛してる」

「わぁっ!」


最後の「―る」の所で後ろに押し倒された。ベッドの上だから痛くはない。

でも驚いて変な声を出してしまった。亮太は私の肩口に顔を埋めたまま動かない。ただ、穏やかな息が私の首にかかっている。


「俺、ダメだ」

「え?なに弱気になってんの。何処にもいかないよ」

「此処がおまえの家だから。奏が帰る場所」

「うん」

「俺の・・・腕の、中」

「うん」


なんかちょっと感動して涙が出てきたじゃない。もうっ。

私は亮太の背に腕を回してギューッて、大丈夫だよって気持ちを込めて抱きしめ返した。

腕がパタンと力なく落ち、ずっしりとさっきより重みを感じた。


「・・・」

「ん?亮太?」

「・・・」


寝てる!! この人、寝てますけどー!

スースーと穏やかな寝息を立てて、亮太は私の上で眠ってしまった。なんてことだ。

もしかしたら眠れなかったのかな?

仕事で夜通し走り回ったの?それとも私の事を考えて眠れなかったの?

後者だったら嬉しいな。


頑張って亮太を隣に転がした、ゴロンって勢いよく転がったけど起きる気配はない。

なによ、本当に憎めないやつ・・・。

寝顔を見ていたら私まで眠くなってきちゃった。

だって、私もあんまり眠れなかったから。もちろん亮太の事を考えてだよ。


投げ出された亮太の手首にはまだ手錠が付いたままだった。

何故か私はもう片方の手錠の輪っかを取って、また自分の手首に嵌めてしまった。


取りあえず目が覚めるまでプレイ続行という事で。


「あー、真希さんに謝らないとなぁ・・・」そんな事を考えながら、私も目を閉じだ。



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