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好きが増えて困る。

今朝はなにやら外が騒がしい。

寝る前に天気予報は確認したけれどやっぱりか・・・

カーテンを開けると雨は弱いものの、風がとても強かった。スマホで運行状況を確認すると始発は5分遅れと表示されていた。


「亮太!ごめん、私もう行くね」

「ん?何?なんかあったのか」


眠そうに頭をくしゃくしゃ掻きながらリビングに現れた亮太。

なんなのよ、その無防備な感じ・・・キュンってなるじゃないかぁ。

彼の過去を知って、彼が震えるほどの弱い部分を垣間見てからは以前に増して好きが増えてしまった。

『どうしてくれよう!』『どうもするな』と自分で自分に突っ込む。


「風が強いんだよね。たぶん遅れとか出るから、早めに行って手伝おうと思って」


外の様子を確認した亮太は「おう。気をつけてな」と私の頭をポンッと撫でて行った。


ちょっと、いちいちキュンキュンさせないでよ。

これじゃあ私が餓えた狼。そんな馬鹿な事を考えながら家を出た。




「おはようございます」

「お、森川おはようさん。始発から遅れが出てるぞ」

「はい。そう思って早めに来ました」

「さすがだな。朝礼前に悪いけど遅延証明書頼む。通勤ラッシュ始まったから」

「了解しました」


前日の晩から準備はしているようだったけど、実際何分遅れで運行するか分からない。

朝の状況を見て、取りあえずは15分遅れで作成。

その後、最大に遅れが出ている路線の時間に合わせて作り直しをしなければならない。


改札が賑やかになり、職員に適当な枚数の遅延証明書を渡す。

事務所に戻り現在の運行を確認。・・・わっ、風速15メートルかぁ、ヤバいなぁ。

このまま風速が20メートルにまで達すると徐行運転となる。最悪運行中止だ。


「森川、遅延30分!」

「はい!」


朝礼をする暇はなく、朝上がりの人も残業で対応に追われた。

結局、遅延60分までとなり午前9時20分、運転見合わせとなった。取りあえず通勤客はなんとかしのげたけれど、今度は一般旅行客の対応に追われる。


「新幹線はどうなりますか?」

「はい。新幹線受付窓口か、あちらの職員にお尋ねください。同じように遅れは出ておりますので」


乗り継ぎ客の問い合わせに追われる。

在来線と違ってまだ運行はしているが速度規制の為、遅れが出ている。風速30メートルにもなればこちらも運行見合わせになるだろう。

そもそも線路が違うので規制も違う。途中駅で停車ともなれば車内でで足止めってなるよねー。まるで他人事だ。


やっと15分休憩にありつく。

スマホを見ると、亮太からメッセージが来ていた。


― 列車止まったな。大丈夫か?

― うん。取りあえず天候回復を祈るのみです


たった一行のやりとりなのに、心配してくれる誰かがいて、心配する誰かがいることに安心する。

心配なのに安心するって変なの。

ふと思った。いつも亮太は私の事を気にかけて、何かあったら助けてくれる。

それに甘えて頼り切っていたけれど、彼もあの特殊な能力があるんだから私みたいに悩んだり、辛い思いをしているんじゃないのかって。

私は一度も彼の仕事の大変さや愚痴を聞いたことがない。

もしも本当にこのまま彼と一緒になるのなら、支えられるだけじゃなく支える側にもならないと。


そんな事を考えながら、仕事に戻った。


結局、夕方まで電車は止まり、動き始めたのは帰宅ラッシュに入るギリギリの午後5時半頃。遅延を回復するのは難しく間引いて運行した。

特急列車も運休が出た。

混雑も凄い為、他の私鉄やバスの路線図なども配り、できるだけお客様の分散に努めた。


「はぁぁ、やっと休憩だぁ」

「森川さんお疲れでーす。もうヘロヘロ」

「結城ちゃんもお疲れ」


私達が泊まりで重なることは珍しい。いつもなら女子トークで盛り上がるところだけれど、お互いに疲れすぎて労うだけで精一杯。


「あー、目を閉じたらすぐ眠れますよ」

「だね~、でもまだ寝ちゃダメ。あと終電だけ」

「りょーかいでーす」


はぁ、亮太は今頃何してるかな?

そう言えばあの人、私がいない時って何をしてるんだろ。


「おっ、乙女二人が転がってらぁ」

「お疲れ様です」


休憩室は男性社員と同じ。おじさん達も疲れてますね。


「あー、ヤベ。疲れすぎて収まりが悪りぃや」

「何の収まりが悪いんですか」

「えー、セクハラとか言うなよ」

「言いませんよ。何ですか?」

「疲れすぎると逆にコイツがギンギンなんだよって、バカ言わせんな」

「あー、お疲れ様です」


わははと笑い飛ばしている女子二人が痛い。

キャッとか言うのとを覚えよう、もう遅いけどね。


亮太も疲れすぎたらギンギンなのかな?若いからね、そりゃここのおじさんよりはね。・・・っ、バカ。


(あーもー、これじゃあ私が欲求不満みたいじゃない!)


帰ったらもう少し亮太に優しくしよう。

仕事の愚痴とか聞いて、で甘えさせてあげよう。

甘えてくるとは思えないけど。


もう何かにつけて、亮太、亮太だな私の頭は。今更ながら恋する乙女になった気分で格好悪い。


「はぁ」

「も、森川さん?」

「ん?何、結城ちゃん」

「溜まってます?」

「何が」

「欲求」

「え!」


せめて恋してますね?と言わせたかった。

私、そんなに欲求不満に見えますか?


大人になりすぎると「恋してます」って思われないのか。

残念…。


このまま始発まで悶々として過ごすことになるのでした。


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