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亮太の過去

亮太はゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。


「俺、物心ついた頃には養護施設で暮らしていたんだ。先生も友達もたくさんいたから割と楽しく過ごしたんだ。ほら、似たような境遇ってやつでさ仲良くやったよ」


私を気遣ってか、重くならないように話そうとしていたのが分かった。

亮太が話しやすいようにしてあげたいけど、いい言葉が見つからずにただ黙って聞いていた。


「小学校までは良かったんだけどな、中学に上がると施設外で仲良くしていた学校の友達なんかは俺達から距離を置くようになった。思春期だし色々と多感な時期に入ったからだろ。親がいない事への同情がこの頃になると、いじめに変わった」

「いじめ?」

「ああ。養護施設って単に親が居ないヤツばかりじゃないんだ。一時的に育てることが出来ないとか、虐待で法的に離されている人もいたよ。俺はそのどれでもなくて、本当に親が居なかったんだ。俺たちみたいなやつはいじめの標的だよ。ストレスの発散先に持ってこいだったんだろう」

「酷かったの?」

「まあ、女の子には酷だったかもな。最初は陰口だったのが、だんだん表立ってきて物を隠されたり壊されたり。基本的に先輩のお下がりでやりくりしてたから馬鹿にされたりさ」

「・・・」

「ある日、その的が俺に向いた。何処から仕入れた情報か知らないけど、伏見ん家は一家惨殺されたんだって。一人だけ逃げて生きてるんだぜって。一家惨殺されるには理由があるから、あいつの親はかなりヤベぇことしてたんだ、罰が当たっんだよって」

「え!酷いっ!」


「俺、さすがに死んだ家族の事を言われるのは許せなくって、傍にあった掃除用具で殴ったんだよね。その後が大変でさ、警察は来るは相手の親は怒鳴り込んで来るはで。施設長は庇ってくれたけど、世間はそうじゃない。親が居ないからろくな人間には育たない、なんて可哀想な子供だろうって」


亮太は淡々と話すけれど、話すたびに私を抱きしめる力が強くなっていくのが分かった。私はその腕に手を重ねる事しか出来ない。


「俺たちは18歳を過ぎたら施設を出なければならない。進学したいものは奨学制度を利用したり、働きながら通信課程を受けたりと独り立ちをしなければならないんだ。俺は警察学校への進学を決めた。理由はなんだと思う?」

「理由?・・・」

「俺の家族の事件を調べるためだよ」

「っ!」


亮太は中学時代のいじめの後、噂の真実を知りたくてある日こっそりと施設長の部屋に忍びこんだ。厳重に管理されてある棚を解錠し、自分の個人観察記録表を取り出した。

施設(ここ)に来た日付や理由、その時の自分の健康状態が明記されたものだそうだ。


「本当だったんだ。一家惨殺事件は俺が1歳半の冬に起きていた」

「…ぇ」

「その時点でも未解決ってなっててさ、俺が犯人を絶対に見つけてやるって決めたんだ。俺には不思議な力があるだろ、でも当時の事件だけはどんなに念じても分からないんだ。人の心が読めたり癒やす力はあっても、肝心な自分の過去や未来を探る事は出来ない!」

「亮太」


亮太は怒りからか微かに体が震えていた。どんなに能力をコントロール出来ても、能力の種類が違えば役に立たない。

彼の心の嘆きが痛いほどに伝わってきた。


「ごめん重いけど、もう少しで終わるから」

「ううん!話して、亮太が話せる事なら全部」

「ありがとう。で、警察官になったんだけど、下っ端な俺は事件らしいものは扱わせてもらえない。やっと任せてもらえるようになった頃には、【時効成立】でなんの捜査も出来なくなってた」

「でも、時効って廃止になったんじゃ」

「死刑に値する程の事件に対してはそうだけど、俺の家族の事件は経緯も犯人像も見えないものだったらしくて、それには値しなかった。ひょっとしたら、親父がトチ狂って殺った事かもしれないしな」

「・・・」


トチ狂って殺った事かもしれない・・・それを否定できなかった。

なぜならば私の両親はそのおかしな人に殺されたからだ。


「家族ってものを俺は知らないだろ。奏の家に行っておばあちゃんに会った時に思ったんだ。離れて暮らしていても、その人の事を想って生きているんだって。たまにしか会わなくても、変わらない笑顔で迎えてくれるんだって知った」

「うん。お祖母ちゃんはいつもそう。私が寂しがらないようにしてくれてるの」

「俺に出来るか分んねぇけど、こんな俺でもっ、いいなら」


亮太が言葉を詰まらせた。その瞬間、私は腕を解き振り向いた。

彼は口をへの字に結んでいて、それは涙を我慢しているようで心臓がギュッと掴まれたように痛んだ。


「亮太!あなたじゃないとダメなんだよ。強がりで捻くれてて、頑固で、泣き虫な私には亮太じゃないとコントロール出来ないの!」


言い終わると、思いっきり抱きついた。

私にだって彼を慰めたり癒やすことが出来るはずだよ。一人で暗闇の中に閉じこもったりしないでって気持ちを込めて飛びついた。


ー ゴッ! 「痛ってぇ」


「あ、ごめん!大丈夫?痛かったよね。本当にごめん」

「っう。それ、本当にごめんの態勢じゃねえぞ」

「えっ?あ!」


私は亮太に馬乗りになっていて、傍から見たら今から襲うぞの態勢になっている。なんて事してるんだろ私!

慌てて降りようとしたら腰を両手で押さえられ

「傷害事件で訴えられたくなかったら、責任とって」と言われた。


「責任?」

「そう。頭の痛みがなくなるような事、シて」


最後のしてがシてに聞こえたんだけど、気のせいじゃないよね。

亮太の顔をじっと見るけど、あの悪戯な表情はない。

片方の腕をクイッと引かれる。それって・・・


私は亮太の顔の横に腕を突いて、初めて自分から唇を寄せた。

出来るだけ優しく、私の思いが伝わるように。


チュ、チュと軽く上唇と下唇を交互に触れた。

前に亮太がしたように、唇の合わせを舌先で横にスッーっと撫でてみた。するとふわっと唇が開いた。


「んっ」


これまた30年生きてきて初めて自分から舌を入れた。

どうしようっ!この後、どうするんだっけ??これまで相手任せに自分だけ気持よくなっていた事に今、気づいた!


入れっぱなしで私は固まってしまった。


「ブッ、ハハハッ。おまっ、もしかして自分からは初めて?」

「ムッ!だったら何よ!」

「怒んなよ。俺が、教えてやる」

「・・・(そんな真剣な顔で言うの、反則)」


さっきまで何ともなかった心臓が、ドキドキ、バクバク鳴り始める。

私、多分、顔が真っ赤だ。


「ほら、来いよ」


今度は後ろ頭を引き寄せられて、唇が重なった。

何度か唇で食んだ後、舌が隙間からスルッと入ってきた。中を探るように動いて、私の舌を見つけると絡みついて来た。付け根から尖端を撫でたり吸ったり、歯列をぞわーっとなぞったり。


「ふっ、ん」


息苦しいけれど、とってもとっても気持ちが良かった。

あれ?薄っすらと目を開けたら亮太の顔が上にあった。

(亮太、凄い色っぽい顔してるんですけど!私、負けた)


「バーカっ!男に色っぽいとか言うな」

「だって、それが素直な感想です」


亮太はふわっと笑ってゴロンと私の隣に寝っ転がった。

右手がギュッと握られた。


亮太も辛い思いをして、今、此処に居るんだね。

出会えてよかった。そう思った。

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