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素直になれる、かも。

お祖母ちゃんのは勘ではなく、霊感だ。

きっと亮太も分かったはず。二人は何を話していたんだろう。

そんな事を考えながら布団に入った。


翌朝はよく晴れていた。


「おじゃましました」

「お祖母ちゃん、またね」

「気おつけてお帰り。ま、亮太さんなら安心だね。警察官だものね、奏の事をよろしくお願いします」

「はい」


ん?なんだこの感じは。妙に信頼しあっているんだけど、やっぱり私がいない間に何かあったんだ。


「奏。亮太さんなら分かってくれるよ。あなたも亮太さんの事を理解しようとしなさい」

「え?」


お祖母ちゃんは何が言いたかったのか。私に亮太のことを解かれと言っていた。確かに、知らない事だらけかもしれない。


「ねえ、亮太」

「ん?」

「帰ったら、話が聞きたい。亮太の事、教えて」


亮太はチラリと私に目を向けて「ああ」と返事をした。

今更だけどドキドキする。私の知らない亮太をもっと知りたい。


* * *


帰りは順調に車も流れ、見慣れた景色に移り変わった。自分が毎日走り回っている駅の前を通り過ぎようとした時、日曜日の人が多い中を救急車が間を縫って駅前に入っていった。

休日はこう言ったことがよくある。あまり気にしないように信号を見ていたら、


「うっ!(頭が、痛い)」

「どうした、顔色が。まさか、予兆か?」

「でもっ、耳鳴りじゃなくて頭痛なのっ。痛ったぁ」


ズクン、ズクンと血管が波打つように痛みが走る。予兆ならこの後に何か見えるはず。

ーー血!?・・・駅の構内の、女子トイレ…霞んで見えない


「奏。車停めるぞ」


目の前のコインパーキングに亮太は車を入れた。


「何か見えたのか?」

「っ、肝心の部分が見えないのっ。イッたぁい。なんで、おかしい」

「奏、触るぞ」


亮太が私の頬を包み込むように両手で支え、額をコツンと付けた。

すると、霞んでいた景色が急に開けてハッキリしてきた。


女の人が倒れている。お腹を押さえて、血が!血が脇から流れている。

あっ!?あの女の人、この間事務所で休んでもらった人だ。


「亮太!あの人確か妊娠してるのっ。この間、駅で倒れて、私がっフォローして。どうしよう!彼女、どうして血まみれなの!?」

「落ち着けよ!今、救急隊が行っただろ?大丈夫だって」


心臓がバクバクして、息苦しくなった。こんな事は今までになかった。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「奏。俺を見ろ。俺の目、見えてる?見て」

「りょ、うた。はぁ、はぁ、苦しい。背中、背中を刺されて…あの人を返してって。きゃっ」

「奏!」


私は亮太の肩に体を預けて呼吸を整えようと試みた。亮太が背中をゆっくりと擦る。


「大丈夫だ、俺の心臓の音を聞くんだ。考えるな、息が整うまで目を閉じて」

「亮太」


トクン、トクン、トクン 亮太の心音が、

トクン、トクン、トクン 私の心音と重なる。

怖くない、大丈夫、落ち着いて、私はひとりじゃない、ここには亮太が居る。








「大丈夫?」

「う、ん。ごめん、もう大丈夫」

「強がんなよ」


口では大丈夫だと言ってはみたものの、まだ指先が震えていた。亮太のシャツを握った指の爪は色をなくしている。その指を亮太はそっと両手で包み込んだ。

冷えた血管に温もりが送り込まれて来る。次第に私の指先は色を取り戻していった。


「亮太、お祖母ちゃんみたいだね。なんでもお見通し」

「なんだよ。ばあちゃんと一緒にすんな。俺、まだすっげー若いんだけど」

「ふふっ。だね」

「どうする。様子見に、行く?それとも帰るか」

「私が行っても何も出来ないよ。もう起こってしまった後だもん」

「分かった。帰ろう。・・・その人、生きてるから。お腹の赤ちゃんも、生きてる」

「本当?」

「ああ」

「ありっ・・・がと」


亮太が言った言葉は慰めや誤魔化しじゃないことは分かった。彼の能力はお祖母ちゃん並だと思う。

私なんて中途半場で感情に左右されて、全然コントロールできない。

家に帰るまでジワジワ溢れてくる涙をこぼさないように、何度もハンカチで押さえた。

窓の外の景色はいつもと何も変わらないのに、自分だけ少し何かが変わっているような気がした。



「おい、着いたぞ」

「あ、うん。運転お疲れ様」


亮太は私の荷物も持ってくれた。

玄関のドアを開けて部屋に入ると、なんだか安心する。この空間は本当に心地がいい。

私と亮太の空間だから?

余計な雑音は一切混じり込まない。セーフティゾーンのような場所だ。


「私、自分の部屋。解約しようかな」

「えっ」

「なんで驚くのよ。勿体ないじゃない、家賃。あっちの部屋引き上げて、この部屋の家賃半分負担する。そしたらお互いに経済的でしょ?」

「奏がそれでいいなら」

「此処、居心地がいいんだ。安らぐ。どうしてだと思う?」

「なんだよ急に」

「亮太がいるからだよ」

「・・・」

「亮太の傍なら私、怯えなくても強がらなくてもいいのかなぁって...うわぁっ」


急に後ろから飛びつくように抱きつかれた。右肩の所に亮太の顔がある。

ぎゅうぎゅう締め付けてくる。


「ちょっと、苦しっ」

「煽ってんじゃねえよ」

「え、煽ってないっ」

「煩ぇ、動くな」


ぎゅうぎゅうし終わったと思ったら、首の所でスリスリしている...ちょっと!くすぐったい!

これ、わざとなんじゃ。


「りょ」

「なあ、俺の子供の時の話、聞いてくれる?」

「え、うん」


急に真面目なトーンでそう囁かれた。

亮太の過去。どんな風に育ったんだろう。なぜか「ドクン」と心臓が跳ねた。


「俺、家族は居ないんだ。孤児院で育った」

「―――ぇ」


亮太は私を抱きしめたままフローリングに座った。私は亮太の脚の間に収まっている状態だ。多分、このまま顔を見ないで聞いた方がいいんだよね?


私は黙って、その先の話を待った。

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