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お祖母ちゃんは何でもお見通し

亮太に実家の話をしたら、車で行く事になった。

田舎は公共機関の数も少ないので車なら日帰りも可能だ。

朝の8時半、朝礼と引き継ぎを終え駅を出た。

今日は駅前で待っていてくれるらしい。


ロータリーの近くまで来ると、退院以来見てないかった彼の車が近づいてきた。窓を開け「お疲れ」と言う亮太はサマになる。

(今日は一段と爽やか青年だね。お祖母ちゃん対策か?)


「余計なこと考えるなよ」

「え!また聞こえた?」

「いや。…なんか、言ったのか」

「言ってません!」


いつもと変わらぬやり取りで高速に乗った。天気も良くドライブ日和、運転する亮太もご機嫌の様子。

サングラスをかけているので表情が読めない。

その分余計にドキドキしてしまう自分に苦笑しつつ、助手席を堪能した。



二時間半のドライブが終わり、田舎の国道を走り懐かしき我が家へ帰って来た。

父が死ぬ前に新築した家は二階建ての現代建築で、今はお祖母ちゃんが一人で住んでいる。

ほぼ一階でしか生活をしていないけど。


「ただいまぁー」

「お帰り。よく来てくれたね。さあ、お入り」

「初めまして、伏見亮太と申します」

「おや、想像よりもいい男だね」

「お祖母ちゃん!」


穏やかなお顔を亮太に向け、どこか悪戯っぽい表情を私に向けた。

お茶目なお祖母ちゃんだ。これで今年80歳を迎えるのだから。


「ああそうだ。お茶の葉を切らしてて頼んだのがまだ来てないんだ。奏、取って来てくれるかい?」

「そうなの?分かった、駅前の商店だよね。亮太、車貸して?すぐ戻るから」

「え、俺が行こうか」

「大丈夫だよ。亮太さん、こう見えてもこの子は田舎っ子だからね。十八の時から運転してるから」

「そう。田舎は車が必須。じゃあ、後で」


私は急いで家を飛び出した。あの二人の対決を見れないのは損だからっ。



* * *


―亮太視点―


奏がお茶の葉を取りに行くために飛び出してからすぐ、お茶が出された。

どういう事だ?おばあさんは何もなかったように俺の前に座りなおした。

(ボケてはいなようだけど・・・)


「くっ、くっ、くっ。亮太さんも正直な人のようだね。私はまだボケちゃいないよ」

「!?」

「奏からは何も聞いてないだろうから先に話しておこうかね。私はね子供のころから霊感が強くてね。聞きたくない事、見たくない物、知りたくない事が勝手に脳に入ってくる体質だった。それが可哀想な事に孫の奏に遺伝してしまったようで。実の子に出なかったから安心していたんだけど、隔世遺伝ってのを忘れていたよ」

「・・・」

「私の方が霊感が強いんだけどね、どんなに強くても役には立たないもんだ」

「それは、どういう事でしょうか」

「あの子の両親を助けることが出来なかったからだよ」


おばあさんは奏が戻る前に俺に全てを話すつもりだ。恐らくおばあさんは俺の能力に気付いている。

だから俺みたいな若者にも真剣に向き合ってくれているんだ。

普通だったら霊感なんて信じるわけがないからな。


奏が高校生の時、父親は単身赴任で離れていた。母親は時々、父親のもとに通い世話をしていたと。

ある日、父親の同僚の息子の結婚式がありそれに夫婦で出席することになっていた。

母親が出発する前日、おばあさんは二人に死が迫っている事を知る。忠告をしたが、霊感など全くない奏の母親は気に留めることなく行ってしまったのだと。


「その時、奏も気付いたようでね。結婚式には行くなと母親に言ったんだけどね、もう出た後だった。次の日の昼過ぎに警察から電話があって、二人とも死んだって」

「死因はっ」

「出血性ショック死だって。式場に無関係な男が刃物を振り回しながら入ってきて、手当たり次第に刺したそうだよ。よくあるだろ?誰でもよかったから人を殺してみたかったって。あれだよ」

「・・・そんな」

「その日の晩、奏は見たんだよ。その壮絶な場面を夢の中で。娘を置いて先立つ二人の想いが強かったんだろうね。それ以来あの子は変わった。自分に助けられる可能性がある人は絶対に救うんだって」

「それで、あんなに一生懸命ホームを走っていたんですね」


俺が唯一、見る事の出来なかった奏が過去に体験した記憶、それは両親の死。

おばあさんはゆっくりとお茶を口に含んだ。


「亮太さん。あなた、家族は居ないね」

「はい。お察しの通り、俺には家族と呼べる者が居ません。孤児院で育ちましたので」

「亮太さんなら奏の事を護ってやれるだろ?」

「はい。俺は彼女を全力で護ります。彼女と一緒に幸せになりたいんです」

「それは安心だ。あなたは能力を制御出来るようだからね。あの子に教えてやって欲しいくらいだ。無鉄砲なところがあってね、全く私の話を聞かなくて困る」


そう言っておばあさんは優しく笑った。

俺はまだ自身の生い立ちを奏に語ったことがない。隠しているつもりはないが、機会を見つけられないでいたんだ。彼女の前だとどうしても強がってしまう。


「それにしても、二人とも頑固だね。もう少し素直になるといいんだけどね」

「っ!そ、それは自分でも分かっているのですが」

「いいよ、いいよ。だから合うのかもしれないからね。これで私も安心してあの世に行ける」

「行かないで下さい。彼女が、奏が寂しがります」

「そうかい?」


おばあさんの顔や手には当たり前だけどたくさんの皺があった。

この人もきっと、たくさん苦労をしてきたんだろう。俺なんかよりたくさん。


「ただいまー!お待たせっ・・・え!飲んでるじゃない、お茶!」

「そりゃ、一杯くらいは出せる程度は残しておいたさ。お客さんが来るって分かってたんだから」

「もうぅ」


奏はおばあさんの笑顔に支えられて来たんだろう。それを俺が引き継ぐよ。

俺、家族の繋がりとか、家族愛とかよく分からないんだ。

でも、奏が悲しい時や苦しい時は傍に居てやりたいって思う。そして俺が持って生まれたこの能力はきっとおまえを癒してやれるはずだから。


「奏、さっさと結婚したらいいじゃないか。ばあちゃんもそう長くは待ってられないよ」

「おばっ・・・・!!」

「あらまぁ、真っ赤だねぇ。羨ましいねぇ」

「・・・(勝てねえな、黙るに限る)」

「あ、今晩は泊まって行きなよ。高速道路、止まるからね」

「え!どういうこと」

「勘だよ、勘」


その日の夕方、雨が降り濃霧を理由に高速道路は通行止めになった。


(おばあさんの霊感は半端じゃないな。それにしても奏って中途半端で、可愛いヤツ)


「なんか言った?」

「・・・いや」


おばあさんの近くに居ると感覚が研ぎ澄まされるのか、奏から溢れる波動は強かった。


「二階の部屋、使いなさい」

「はーい」


(久々に他人ひとに泊まるな・・・、悪くない)

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