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危険人物!?

あれからは平和に業務をこなし、終電を見送って仮眠を取った。

眠ると一日の復習のような夢を見る。


構内のざわつき走る男の子、追いかける母親、救出・・・・。


「はぁ」

(寝るのが嫌になるわ。同じこと夢の中でもさせないでよ、疲れる)


一度、心療内科に通った事があるけれど、睡眠を助ける薬とかの所為で起きられなくなった。仕事に支障をきたすので通院を止めてしまったけど、慣れたらなんてことはない。

ただ、溜息は毎回ついてしまうし、愚痴ってしまう。

体調が悪くなるという事もないので、良しとしよう。


「始発列車、通常通りです」

「了解しました」


引き継ぎをして早番の人と交代を済せた。ロッカーで着替えていると後輩がこう言った。


「森川さん、今日のVIP聞きました?」

「ん?詳しくは知らないけどSP付がどうとかって」

「そうなんですよ。どこかの政治家さんらしいです」

「なーんだ。ハリウッドスターじゃなかったか」

「ねー。残念ですよね。政治家ってことはおじさんだし」


彼女は私の4年後輩で田畑結城(たばたゆうき)さん。明るくて仕事もさばけるいい子だ。


「わっ、外はピリピリしてる」

「本当だ。やだなぁ」

「結城ちゃん頑張れ。じゃあね、お疲れー」


今日は土曜日、通勤客は少ない。私服に着替えた私は再び改札を通った。

駅職員だから、ではないが電車通勤なんです。

トントンとリズムよく階段を上がって、7番ホームへ上がる。同僚やクリーンスタッフに挨拶をしながら、ホームの北側で電車が入るのを待った。


―― キーーンッ!


(うわっ!なにこの耳鳴りっ。痛っ)


異常な耳鳴りに驚いた。こんなに激しくなったことは曾てない!


「やだ、何よ・・・」


周りを見ても特に気になる人はいない。なのに耳鳴りは鳴りやまない。

すると、自動販売機の影から全身真っ黒な男性が現れた。

上下黒のスーツに黒の革靴。ネクタイまでも黒っ!

よく見ると、腰には何やら機具が装着され耳には後頭部から伸びたイヤホンを挿していた。


「あっ、もしかしてSPの人?」


僅かに上半身が張って見えるのは防弾チョッキか何か?

保護対象者を安全かつ迅速に目的地に運ぶ為、使用するホームの下見でもしているのだろう。

ゴミ箱から自販機の裏まで綿密にチェックしている。


(もしかしてあの人に何か起こるとか?それってヤバい感じ?)


彼に何か起こるとしたら、保護対象者を護るための犠牲が考えられる。という事は、銃弾に倒れるとか刃物で刺されるとか・・・爆弾っ。


「でもなんで?予兆が聞こえない、見えない」


いつもなら少し先の会話が聞こえてきたり、映像が見えたりするもの。でも今回は激しい耳鳴り以外は変わった事が起きない。

私は2年前の事を思い出した。あの日も確か耳鳴りがひどくて対象者を特定できなかった。

結果、サラリーマンはホームに転落し列車にはねられてしまった。


(誰?何が起こるの!?教えて、繰り返したくない。誰にも死んでほしくない!!)


―― キーン!「うっ、痛いっ。頭が揺れる」


「・・・か?」

「・・・」

「おいっ!聞こえるか!」

「はっ!」


耳を抑えて座り込んでしまった私は誰かに声を掛けられた。見上げるとそこに居たのはさっき私が見ていたSPだった。

短髪の黒髪は前に垂れないようにカッチリと整髪剤で整えられ、シャープな顎のラインと鋭い眼光。薄い唇、少し尖った耳、きりっとした眉・・・おお!イケメンじゃん。


「大丈夫ですか」

「すみません。大丈夫です」

(あっ、耳鳴り治ってる)


「ならいい。早く離れた方がいい、もうすぐ此処は騒がしくなる」

「・・・はい」


彼はすっと立ち上がり、足早に去って行ってしまった。意外とそっけない。

なぜかちょっぴり残念。


(SPって、ラガーマンみたいな体格の人だと思ってたけど。彼って、細身だね)


そんな彼の背中を見ていたら、例の白黒映像が見えた。


太ったおじさんが襲いかかり、彼が素早く対応しあっという間に押さえ込むと言う映像だった。


(なんだ、悪い事は起きないじゃん。ん!?)


左足を庇いながら警護を続ける彼の姿が見えた。

私は気付くと体が動いていて、さっきの彼に声をかけていた。


「あの、左足気をつけて下さい!」


ギョッとした顔をされたけど気にしない。言うことは言ったので、心残りはない!

私はくるりと方向転換し、彼のもとから離れた。


フォーン…電車がホームに滑り込む。

私はそれに乗り込んで自宅へ帰る・・・はずだった。


「えっ!?」


なぜか首根っこを掴まれて後退させられた。閉まるドア、発車する電車、それを見送る私。

そんな私に手を挙げる車掌の河上さんは、笑っていた。


「どういう事?」

「それはこっちのセリフだ」


振り向くと、何とあのSP!わっ、背高いなっ!

眉間にシワを寄せてググっと顔を覗きこまれた。


「ひいっ!」と思わず片目を瞑る。


「任務完了まで俺の言う事を聞け」


ぼそっと低い声で呟き、そのまま私はロックオンされてしまった。


(え、なに?もしかして私、危険人物扱い!?)


失礼なっ、ギッと睨むと「フン」と鼻を鳴らされた。


(な、な、なぁぁ!!嫌なヤツ)

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