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本当に焦らしていませんっ。

今、中華料理を食べている。

目の前の青年は「一回食べて見たかったんだよな北京ダック。一人じゃ食えねえだろ」と言いながら、育ち盛りの少年のようにバクバクと頬張っている。


「あれ、もう食わねえの?」

「いやなんか、亮太見てたらお腹がいっぱいになっちゃった」

「・・・そう、か。もっと食ったほうがいいぞ。体力使ってんだから」

「うん」


(あれ?珍しく言い澱んだ。しかもっ・・・顔、赤くなってる!なんで?)


気持ちいいくらい食べて飲んで、私たちは帰宅した。

中国のビールって味が薄いから度数も低いと思ったんだけど、普通に4.7%あってほろ酔いだ。

もちろん痛い目にあった過去があるので、一杯しか飲んでいません。


「酔ってねえか?」

「ん?酔ってないよ」

「・・・嘘つけ、酔ってるぞ」

「なんでそう言い切れるのよっ」


相変わらず言い方がツンツンしてるし、上から物を言ってくるし。

まあ、背が高いってのも半分はあるけれど。


「だって、おまっ・・・」

「だって何?」


あんたの方が酔ってるんじゃないのと問いたくなった。だってあの亮太が言葉を詰まらせるなんてありえないからね。「だって」と言った後、亮太は視線を下に向けた。つられて私も当然見た。


「・・・」

「・・・ぁ」


私はいつの間にか亮太の手を握っていた。どこから手を繋いだんだろう。


「ごめっ」


ごめんと言って手を放そうとしたら、ギュッて握り返された。もちろん心臓もギュンって鳴った。

恥ずかしくて顔を上げることが出来なくなっちゃったよ。どうしよう。

亮太は何も言わない。言ってほしい!こんな時こそ何か言って!


「亮太?」

「んー」

「なんで何も言わないの」

「悪いかよ」

「悪くないけど・・・気持ち悪い」

「おいっ!」


亮太はキィッと私を睨んで、その後当たりをきょろきょろと見渡した。そして近くの公園にグイグイと進む。駅までもう少しなのに、なんで寄り道するんだろう。


「あのさ」

「うん」

「俺、あんたに試されてんのかな」

「はあ?」


眉間に皺を入れた彼は不服そうにそう言った。意味が全く分からない。


「あんたさ、俺の忍耐をわざと試してとことん焦らしを入れようとしてるだろ」

「ごめん、意味が分からない」

「だからっ!俺、この間、好きな女は抱きたい年頃だって言っただろ」

「何言ってんの!こんな所でっ。ってかそんな言い方だったっけ?」

「あゝー!くそっ」


イライラが頂点に達したのか、「くそっ!」とか言って頭をガシガシ掻きだした。そんなことしたらせっかくイケてる髪型が台無しになっちゃうよ?


「・・・」


亮太の座った目が私をじとーっと見つめている。これは嫌な予感しかしない。

目の前の男は口角をググッと上げて不敵な笑みを漏らした。

『カツッ』と後ずさる私の靴のヒールが擦れる音がした。一歩下がれば、一歩前進してくる。

距離は一向に開かない。


(何この追い詰め方!犯人になった気分っ。)


ゆっくりではあるけれど、一歩ずつ下がっていたら膝裏がベンチに当たってその勢いで座ってしまった。

そこには上から見下ろす男・・・ヤバっ。

目の前の男もとい、亮太の動作は無駄がなく流れるように早かった。

ベンチに座る私の後方背もたれに片手を置き、片足は私の足にぴったりくっつくように並べ、もう片方の手は私の肩を掴んだ。掴んだ手は拘束力のあるものではなかったのに逃げられなかった。


「んっ」


キスでした。このひとキスしてきたっ!?

すぐに離れると思った唇はいっこうに離れる気配がない。苦しくなった私は亮太の胸を押し返そうとした。その瞬間、手首を掴まれ動きを封じ込まれてしまった。さすが警察官!


「ふはっ」


我慢できなくなって酸素を求めて開けた唇、それを待っていたようにスルッと侵入してくる舌。

ちょっと、こんな所でこんな濃厚なキスするんじゃないわよ。

誰か来たらどうする、あんた警察官でしょ、通報されたら笑えないぞなんて思考もだんだん薄らぎ、まんざらでもないように受け入れる私がここにいる。


気付けば手首を握っていた手は後頭部に回され、亮太は片膝をベンチについていた。

私はそんな彼のシャツの裾を、力の入らない指で掴んでいた。


(必死だな!わたしーーーっ)


「んんっ・・・っあっ。はぁ、はぁ、はぁ」

「はぁ、はぁ。奏っ」


離れた唇の代わりに耳元で名前を呼ばれてギュッ抱きしめられた。

どうしよう、まずいって脳が言っているにも関わらず体は嬉しそうに抱きしめ返していた。


「ん、はぁ。亮太っ」

「奏」


ゆっくりと亮太が隣に腰を下して私の肩を引き寄せる。

公園は外灯がポツン、ポツンと立っているだけで誰一人通る影はなかった。


「分かったか?変に焦らしを入れたら、容赦しないからな」

「だから、焦らしてないのに・・・」

「・・・」

「酔ってる?」

「・・・かもな」


「かもな」とか言いながら、頭をコツンとぶつけて来た。

素直なのか。そうじゃないのか分からないけれど。伏見亮太、けっこう可愛いかも。


「おまっ、誰が可愛いだ!」

「ちょっと読まないでって」

「読んでねーよ。勝手に入って来るんだって」

「ああ!」

「煩ぇ、なんだよ」

「あのね、お祖母ちゃんが会いたいって、亮太に」

「・・・今、言う?」


ちょっぴりシラケた空気が流れてしまったけれど、思い出した時にと思って・・・。


「ごめん」

「はぁ」


溜息をつきながらも、家に帰るまで手を離さないでいてくれました。


* * *


「取り敢えず、休みが合う週末見つけて行くぞ」

「え!行ってくれるの!?」

「仕方ねえから行ってやる」


と、恩着せがましく言うけれど、顔はほんのり赤くなっていた。

だから何でそこで赤くなる。

亮太の赤くなるツボがよく分かりません。


シフト表と合わせた結果、なんと!?次の週末で、私の夜勤が開けた土曜日と日曜日だった。

亮太は連日の追いかけっこ(本人曰く)で、強制的に有給取らされているらしい。


「意外と早くあったね」

「だな」

「お祖母ちゃんの力かも…」

「は?」

「さて、寝ますか。おやすみなさい」

「おい!」


お祖母ちゃんから見た亮太はどんな風に映るのだろう。

あれ?孫婿って言ってなかった!?

まぁ、会ってからのお楽しみ。お手並み拝見ですね。

次回、お祖母ちゃん登場です。

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