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認めたらあなたの気持ちを教えてくれますか?

「・・・」

「・・・」


トクン、トクン、トクン…さっきまで速かった胸の鼓動が、不思議と穏やかに打ち始めた。

他人の心臓の音を聞いて、自分の心臓がリズムを整えるなんてとても不思議で仕方がない。張り詰めた神経が解されていく。


私は意地を張っていただけだ。だけどツンツンしているこの男、伏見亮太に反抗してしまう。

本当はとっくに気づいてるのに、彼に惹かれているって。好きに、なっちゃってるんだよ。

でも・・・。


「起きてるか?」

「うん」


返事をすると、伏見さんは私の背中に回っていた腕を解いた。頭の上から「くくっ」と笑う声がして、反射的に顔を上げた。

彼は上から私の顔を見て、その長い指で少し下を指差した。


「ん?」

「あんた、出ていくって言った割にはさぁ。くくっ」


(うわっ!私、いつの間にぃ!)


爪の色が変わるほど、伏見さんのシャツを握りしめていた!言ってる事とやってる事がおかしいよっ。


「ごめんっ」


離そうとしたんだけど、力入れ過ぎて逆にどこに力を入れたら外れるのかが分からなくなってしまった。


(えっと、人差し指ってどれ?いや、親指が先、か?)


「指、外れなくなっちゃった。あは、はは」

「そんなに力いっぱい握るか?あり得ないんだけど。あんたバカ?」

「バカって言うな。神経が混乱してるだけっ」

「悪い、手伝う」


口ではあんなに罵っていたのに、実際に触れる手は驚くほど優しかった。指を一本づつ外して、やっと離れた私の手は伏見さんの掌に包まれて大人しく納まっていた。


「血行をよくしてやる」

「ありが、と」

「あんたの手冷てえし、ちっちぇよ」

「・・・知ってる」


ほわほわ温かい気が指先から流れ込んで来る。心の何処かで、このままずっと包んでいて欲しい、離さないで欲しいって思ってしまう。

これはもう、末期症状ですな。


「なあ」

「はい」

「ここを出る理由は」

「理由はって、自分の家あるし。それにっ」

「ん?」

「私がここに居る意味が分からない。伏見さんがなぜ私を置いているのか、婚約者だなんて嘘ついたのか・・・全然、分からない」

(それに、私の気持ちが限界)


伏見さんは私の手を離したかと思うと、顎に手を添えられグイッと上向かされた。

黙って、じっと私の目を見ている。

(ちょっと、こんなのドラマでしか見た事ないんですけど!)


「知りたければ教えてやる」


顎を下から持ち上げられていると言葉を発することが出来ない。しかも何故か外すことも出来ない。


「・・・」

「でも俺は言葉では言わない。あんたが素直になれば、それ相応に答えてやる。俺の(なか)読んでみなよ」

(読む?伏見さんの心を?・・・どうやって!)


「んふっ・・・んんっ!?」

「目、開けたまま?」

「ふわぁぁっ、何してんのよー!」

「キス」

「・・・」


ダメだ、もう降参しよう。だって、なんだか体中が熱くって、さっき落ち着いていた心臓がヒートアップしている。

ドクドクドクドクドクッッッ・・・・・


「死ぬ」

「色気がなさすぎ。目は開けたままで、台詞がそれ?彼氏、いたんだよな」

「いたよ!あんたよりも優しい人がねっ」


そう言うと伏見さんは眉間に皺を入れ、少し首を傾けた。


(俺より優しいヤツなんて、いないよ)

「えっ!」

(俺は、あんたの事を護ってやれる。傷ついた心もからだも癒してやれる)

「伏見さんの声?」


伏見さんは頬骨を上げて笑った。目なんて見たことないくらいに優しく細められていて、こんな顔も出来るんだって驚いた。そして、その顔がまた、近づいて来て・・・今度は目を閉じた。

上からの圧迫感はすごい。やっぱりこの人背が高いんだと改めて知らされた。


「聞かせてくれ。俺の事をどう思っているのか」

「どうって、そっちが先に言ってよ・・・なんで、私ばっか」

「言っただろ、あんたか素直に言えば俺も答える。けど、2回もキスされといて分からないって鈍感にもほどがある」

「鈍感じゃない!だっておかしいでしょ?別にときめいた出会いでもないし、どっちかと言えば乱暴だったし。なんの段階も踏まずに婚約者だの同棲だのってあり得ない。もしかしたら騙されてるかもしれないのに・・・罵られたり、優しくされたり・・・いちいち反応する自分が嫌。疲れたから、帰りたい!」


素直じゃない。本当は好きになりましたって言えばいいだけだ。

一気に捲し立てたら、どっと疲れが出てその場にへたるように座り込んだ。


「あのさ、俺も捻くれてて言えた義理じゃないけどさ。あんたが言った仮定抜きにして、俺の事どう思ってるか教えてくれ。本心が聞きたい。それ次第では、ちゃんと解放してやるよ。二度とあんたの前に現れないって誓う」

「う・・・っ」


よく分からないけど泣けてきた。私が本気で拒めば消えるって・・・

これだけ強烈なインパクトを残しておいて消えられたら、私はどうなるんだろう。2回目のキス、目を閉じて受け入れたじゃない。なのに大嫌いだなんて言える?

抱きしめられて安心したとか、手を繋がれてドキドキしたとか、離れると寒さを感じるとか。

この人の体温って心地いいなとか・・・・今更、っでしょ。


私は無意識に蚊が泣くような声で「・・スキ」と言っていた。伏見さんは「聞こえない」と言って屈んで私の顔を覗き込んできた。もう一回言えって無言の圧力を感じた。

なんだか気配とか雰囲気で分かるようになった自分に笑いが出る。


「ふふっ。なんかムカつく」

「あ?そうじゃないだろ」

「うん、好きだよ。私は伏見亮太が好きだよ、年下なのに態度デカくてムカつくけど・・・好き」

「・・・っ」


開き直った私は強かった。だから伏見亮太の気持ちが知りたかった。

誤魔化しでもなく、同情でもない本心を。


「私は言ったよ。だから聞かせて、あなたの気持ちを。私をどうしたいの?」


何を考えているのか! お・し・え・て!

正面から睨みつけてやった。一瞬彼は怯んだけれど、口角を上げて嫌な笑みを覗かせた。


「へぇ・・・。俺の事が好き、なんだ。年下なのに態度がデカくてムカつくけど好きなんだ」

「復唱するなっ!!」

「俺の気持ち教えてやるよ。年上なのにお人好しで、すぐ顔が赤くなる30のくせに初心うぶで、意地っ張りで、騙され易くて、他人の為に必死にホームを走るあんたが・・・」

「あの、不名誉な形容が多いんですけど」

「俺、優しいだろ。そういうあんたがいいって言うのは俺だけ(・・)だ」

「だけ・・・じゃないと思うけど」

「俺だけだよ。俺にしか、奏の事を護れる人間はいない」

(今、かなでって言ったーー!)


へたり込む私を引き寄せて、優しく包み込むように抱きしめられた。

今までで一番、優しい抱擁。やだ・・・負けた。


「でさ」

「うん」

「俺の事、伏見さんは止めてくれ。一応、婚約者なんだよ俺達」

「あ!その件だけど」

「名前・・・呼んで」

「亮太、クソ亮太!」

「あんた、いちいち挑発的だな!さっきさ、私の事どうしたいの?ってのもそうだろ」

「・・・」

「黙んまりか。じゃあどうしたいか教えてやるよ。20代の男が好きな女を抱きしめてるんだ。その後どうしたいかお姉さんなら分かるだろ?」

「!!」


なんだ!この男っ、態度と口がまるで正反対!


「だめ!絶対にさせないっ!おやすみっ」


案外するりと拘束は解けた。その隙に素早く部屋に逃げ込んだ。

亮太が追いかけてくる様子はない。・・・あれ、ちょっと寂しい?


でも、簡単にさせないんだから。焦らしてやる!とことん焦らしてやるぅぅ。

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