彼も能力者?
そして、退院の日となった。
迎えに来るって、どうしよう。なんでこんな事になったんだっけ?
一度、落ち着いて頭を整理したい。
「ううっ」
「なに頭抱えてんの」
「出た!」
伏見さんが私の不用意な一言に機嫌を損ねたのか、片方の眉をピクンッと上げ私の前に立った。
腕組みをしてギロリと睨んでいる。
「すみません」とつい反射的に謝る自分が恨めしい。この人年下なのにぃぃー。
「荷物はこれだけ?清算は終わったの?」
「ハイ、オワリマシタ」
伏見さんは荷物を持つと空いた手で私の手を掴み(今度はちゃんと手を握って)、病室を出た。
きちんとナースステーションに立ち寄り「お世話になりましました」って頭下げる。あまりにも自然だったので私も習うよに頭を下げた。なんと、手を繋いだままで。
「森川さんお大事にね。そして、お幸せに」
「ありがとうございます。・・・えっ!?」
お幸せにに驚いた私に「キョドるな」と耳打ちされ、引き摺られるように病院を去った。
本当にこれから伏見さんの家に連れて行かれるのだろうか。
「嘘に決まってんだろう、バーカ」な展開を切に願い、彼の車に乗った。
「・・・」
「・・・」
さっき後ろに乗ろうとして「は?前に乗れって」と助手席を指されカチコチな状態で座っている。
警察官だからかとても丁寧に運転をするなと思った。
急加速や急な発進はしないし、必ず黄色信号でゆっくりと減速をする、
(わぁ、男の人の運転ってイイよねぇ。ハンドル握る手とかシフトに置かれた手とか・・・)
つい見とれた自分に身震いし、口が悪いけどカッコいい伏見さんから目を逸らした。
「ちっ!」
「!!」
「あいつ、信号無視しやがって」
「え?さっきの車?」
「こっちが黄色で止まったんだ、まだあっちは赤だろ。見越し発車しやがった」
「・・・(え、まさか?追いかけたりしないよね)」
そのまま車は青信号を待って交差点を真っ直ぐ進んだのでホッとする。こんなところでカーチェイスなんてされたら堪ったもんじゃない。
「なにホッとした顔してんだよ」
「えっ、分かりました?」
「あんた分かり易いんだって。それから前も言ったけど、敬語いらない」
「いやなんか威圧感たっぷりだからつい【です、ます】になるよね。仕方ないでしょ」
「俺、交通警備隊じゃないから追っかけないよ」
「なんで分かったの」
「・・・もうすぐ着く」
な、流した。私、声に出してないよね?
警察官って職質するから観察スキルがすごいんだろうね。考えてることまで分かるんだから。
あ、でも分かり易いって言われたな。顔に出過ぎるのかな、気を付けよう。
こうしてついた場所は以前私がやらかしたマンション、じゃなかった!
「ここっ、何処?」
「あ?俺ん家」
「前来た時と違う気がするんだけど。あれ?」
「引っ越した」
「へぇ・・・引っ越したんだ。なんで!」
その問いには答えることなく、車は地下の駐車場へ入った。無言のまま伏見さんは私の荷物を持ち、ついて来いとでも言うように私の目をみて「ん」と入り口に顔を向けた。
なぜか顔が赤かった・・・気がする。
「お邪魔します」と恐る恐る部屋に上がると「これ、一応渡しておく」といってチャリと言う音と一緒に鍵を渡された。
「合鍵・・・?」
「あれだ、監禁じゃないんだ。自由に出入りしてくれ」
「え、だったら自宅に帰り」
「一部屋、空けてある。いいように使って」
「・・・」
2LDK、対面式キッチン、バスルームは乾燥機能付き、ドラム式洗濯機、広めの洗面台にトイレ。
全部屋バリアフリー、ベランダに手洗い場完備、家具全て設置済み。
与えられた部屋を覗いてみた。・・・セミダブルのベッドだ。クローゼット広っ!
小さなテーブルとドレッサー、姿見鏡まである。
「何これ」
「・・・」
「ってか、なんでさっきから、ちょいちょいスルーするのよ」
「俺、不規則だから基本的にはあんまり家に居ない。ここなら目の前駅で濡れずに通勤出来る。地下道通ればスーパーも直結だから」
「そういう問題じゃなくて、え!私、ここから出勤するの!?」
「会社には連絡済。でも安静の為、1週間はあんた休みだからな」
「ちょっと・・・頭、整理させて」
一方的に同棲する方向になっている。しかも会社に連絡済。
それは、あれか。婚約者のフリが原因か?・・・・なんで。
これは罪にならないのだろうか、誰か教えてください!お願いします!
「おい」
「なにっ!」
「っ・・・。悪かったよ、こういうやり方して」
「・・・(なによ、急に)」
「俺知ってるんだ。あんたの不思議な能力の事。だから心配なんだ、あんたの心と体が」
「言っている事の意味が、分からない」
伏見さんは厳しい表情をして座り込んだ私の隣に腰を下すと、私の頭に手を乗せた。
そして目を閉じると「あんたも目閉じて」と言った。
逆らう気持ちは全然湧かず、言われる通りに目を閉じていた。
(あ、温かい。イライラした気持ちが凪いでいく…)
体がふわんと揺れるから倒れないように床に手をついた。
「我慢しなくていい、力抜いて」
「ん」
その瞬間、完全に力が抜けて倒れた。伏見さんの腕の中に。
抗えない・・・穏やかな空気に包まれているみたいで、思わず「はぁぁ」とため息が出た。
背中をポンポンとされる。
不意に首を曲げて伏見さんの顔を確かめたら、信じられないくらいに優しい笑みを浮かべていて驚いた。
「ヒーリングって知ってる?」
「んー、何となく」
「俺にはそういう能力があるみたいなんだ」
「へぇ」
「犬、猫にしか効かなかったんだけど、あんたには効くんだな」
なんですと?聞き捨てならない言葉が聞こえましたが。
でも残念ながら反論する力は無かった。
「今から、見せてもらうから。あんたが背負った荷物」
今度はぐにゃぐにゃの私の体を横抱きにして、左手を握ってきた。
そしたらっ、目の前が暗転した!
「や、ちょっと!」
「大丈夫、実体験じゃない。夢、だから」
そして、次々と今までの全部が脳裏に蘇った。
これはいったい!?