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インターネットお化けを愛でてください  作者: 著がみん/イラストがみん(21)
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第三章。お姉ちゃんを愛でて、めでて1

 第三章。お姉ちゃんを愛でて、めでて。


 時間は夜。月や星が太陽の光を反射して地球に輝きを見せる時。

 その輝きを遮るものが無い雲の上は非常に寒いと思われがちだが、空飛ぶクジラの背中は不思議と心地よい風が流れて暖かった。

 現在、我が家は科学では証明できない不思議な力と魔法を使って着地した森から、住宅街を目指し浮遊移動している。

 頭の髪型を団子にした――いわゆるモンブランこと新里陸は目の前に現れている操作端末で忙しくキーボードを打ち込んでいる。時々困ったように唸る。

「……あ~もー、なんでみんなドクオフしてるんすか!? これじゃ誰にも連絡取れないっすぅ~」

 俺が新里陸と同じギルドに入ることによって、その加入の知らせを仲間に連絡していたのだろう。しかしギルドメンバーの誰にも連絡は繋がらないらしい。

「シンクさんもか?」

「シンクはドクオフしてリーブリヒに帰らせたっす、今ごろリーブテューアの前にいるはずっすね」

「ドクオフ? リーブテューア? それは日本語か? モンブランはフランス語だぞ」

記録外状態ドクメントオフとウンリーオーメインサーバーが繋いである道のことをリーブリヒテューアていうんすよ、その略語っす。でも、師匠があんな頑固じゃなかったらシンクは帰らせなかったんすけどね」

「時計タイは?」

「は? そんなの持ってないっす、操作端末が使えれば必要ないっすからね」

 どうやら、操作端末を使って仲間と連絡を取ろうとしても肝心の仲間が記録外状態で連絡が取れないらしい。

 つまり、今の新里陸のように自分の相棒であるプッペンと一緒にいないということ、もしくは、

「みんながモンスターと戦って負けたっていうことっすかね……」

 そういうことになる。てか時計タイ知らんとは時代遅れだな。

「そんなことあるのか?」

「……今のところはないっす、でも危ない状況はあったすね、とにかく唯一連絡がとれた受付に行って状況を確認するのが先決っすね」

 新里陸を含めるギルドのみんなはもう二年近く戦いを続けているのだ。それでも、この状況は珍しいと新里陸は言っている。

 我が家の移動先は住宅街、大陸の中央にそびえ立つ黒いビルを目印に進んでいく。

『パパ~まだ動くのぉ~?』

「ああ、終わったら昨日のケーキ食べような」

『は~い』

 クレメルは片手でバイオリンの丸みがかっている先端を黒いビルに向けて退屈そうに地面に座っているが、それでもちゃんと魔法は発動していて浮遊移動し続けている。

 我が家を持ち上げる際に地属性の魔法や風属性の魔法を使った時も、クレメルは適当に呪文を詠唱していたがちゃんと発動していた。どうやらバイオリンを弾くことも、詠唱を正確に唱えることも重要ではないらしい。

 ただ、バイオリンは発動対象に向けないといけないらしく、クレメルはずっと片手を前に出している。

「重たくないのか?」

『ううん全然、この楽器ねハエたたきみたいに軽いの、でもさすがに飽きたなぁ~』

 クレメルの腕はずっと水平を保っている。それは魔法の効果を継続させるためには仕方ないことなのだ。

「ってなんでハエたたきに例えるんすか?」

『だってハエたたきに似てるんだもん、こっちは孫の手?』

 バイオリンの弓を振り回すクレメル。ハエたたきも孫の手も我が家にある代物だ。ジジィの遺品とでも呼べるだろう。

「とこロデ、ここハガんも売ッてもイイ場所?」

 カクカクした声。そういえば、ガーナー先生が一緒に付いて来ていた。

 近頃は無許可で商売をすると警察が対処に来るからな、自由に商売が出来やしない。

「まぁ……いいと思うっすけど、一応受付の人とダーメ……ギルドマスターに言ったほうがいいっすね」

「わかッタよ、もンブらんチャん」

「モ、モンブランじゃないっす! ちょっとー! 師匠のせいでモンブラン広まってるじゃないすか! どうしてくれるんすか! も~っす!」

 俺の体を新里陸はポカポカと叩いて抗議する。良かったなモンブラン。

「それにしてもでかいな」

 この大陸はギルドモンスターの背中ということだが、でかすぎる。黒いビルはどんどん近くに来るが、林のせいもあるのか地平線が大陸続きに見えている。

「ギルモンは魔力を持ってるっすからね、魔力抜きした魔力はクジラの中で浄化するんすよ」

 つまり、武器で吸い取った魔力はクジラに貯められる、ということか。それでこの大きさなのか。ギルモンとかいちいち略語多いな。ヤー渋のギャルかよ!

「なるほどな、ところでこのギルドモンスターは雲クジラで合っているよな?」

「そっすよ」

「じゃあ、ギルドとやらもヴォルケン・ヴァールか?」

「当たり前っす、あーそういえばちゃんと言ってなかったすね、私たちのギルドは昔のまんまなんすよ、リーダーのケーニヒや、エイトメイトにイデアール、うさ子。それにアイリさんもいるっす」

 アイリ、その名前を久しぶりに聞いた。絶対忘れる事はできないあのゲームの友達。

「アイリ……さんと連絡が取れたのか……」

 俺はアイリのことを呼び捨てにできなくて、慣れないさん付をしていた。それほど、アイリにはお世話になったりいろんな貸しがあった。

「ん? あ……そういえば師匠は掲示板で探してたっすよね、ゲームでも仲良しだっすよね……そうっすね……んー、あの後一応連絡は取れたんすけど……」

 新里陸は途切れ悪く言葉を綴る。考えごとをしながら話しているようだ。

「これはちょっと複雑になりそうっす……」

「どうしたんだ?」

「師匠、今ごろ察したんすけど……私どうすればいいかわからないっす、なので師匠にアイリさんのことを話しちゃうっすけど、いいっすよね?」

 最後の言葉が重く感じる。知るともう戻れないという雰囲気を漂よわせている。

 俺は覚悟を決めて頷いた。新里陸の顔が真剣になる。

「……アイリさんはこっちの人じゃないんす……ルスト人だったんすよ」

「アイリが、ルスト人?」

「それで……私が師匠の住んでいるところに来て、勧誘しに来たのは、アイリさんにお願いされたからなんっす」

 アイリはルスト人だった。新里陸が俺を見つめる目に嘘の色はない。

 そうなると二年前、俺たちが遊んでいたゲームでアイリは実際に現実で戦っていたことになる。

 武器を振り、モンスターを攻撃し、俺たちに指示をして一緒に冒険をしていた。画面に映るのが二次元の点と線でも、アイリには三次元に見えていて俺たちのアバターであるプッペンと協力、連携をこなしてリーブリヒを守るために本当の戦士として戦っていたのだ。

「アイリは……俺に会いたいと、言っていたか?」

「……それは聞いてないっす、というか男だと思ってないんじゃないすかね?」

 そして、新里陸が俺の住む町に来た理由は俺をギルドに勧誘すること、それをお願いしたのはアイリだということ。

「じゃあ、アイリは今どこにいる?」

「今は連絡がつかないんで分かんないっすけど……でも、アイリさんはメインサーバーを守るのが専門の仕事なんっす」

「それは……ルスト人だからか?」

「そうっす、強いルスト人は教会に雇われて働くんっすよ、さすがに勤務し終えたらちゃんとギルドのホームに帰ってくるっすよ? ただ、私たちの世界で一緒に働くことができないだけで……」

 アイリの仕事はメインサーバーを守ること。メインサーバーはモンスターが通って俺たちの世界に来ていると説明していた。ということは、アイリはそれを食い止めているということだ。

「なら、今の時間もその仕事をこなしているのか?」

「それは……えーと……いえ、もう帰って来ている時間っす、でも……」

「それなら操作端末でメッセージは送れないのか? ゲームでは送れたはずだ」

「無理なんっす、いや他の人は出来るんすけどアイリさんはルスト人すから、フレンドリストで見る記録状態もわからないっすし、メッセージもアイリさんには操作端末が表示されないっすから今すぐ確認することはできないんすよ……」

 俺は新里陸にそう言われるが自分の操作端末を用いてフレンドリストを表示させた。そこには、かつてゲームでフレンド登録を済ました人たちの名前が書かれている。そのほとんどが名前の横に記録外状態を表すバッテンが付いていた。

 その中でアイリの名前を探す。平仮名もカタカナもローマ字もちゃんと見る。その中にアイリーンという名前があった。

「アイリさんはアイリーンという名前、本名で登録してるっす」

 そのアイリーンの名前の横には何も書かれていない。

「リストじゃわかんないっすよ、アイリさんにメールすれば部屋に届いて見てくれるはずっすから、でも帰宅してないんすよね……」

「なぜ分かる?」

 新里陸は俺の問いに人差し指を向ける。大陸の中央にそびえる黒いビルを指さす。

「あそこに住んでるんすよ、ルスト人が住む高層タワー、モンスターの侵攻から生き延びたルスト人はあのビルに住んでいるっす、アイリさんは最上階からちょっと下っす」

 そこは黒い、ただ黒かった。黒いのは電気が付いていないから。真っ暗で誰もいないから。それを新里陸は先に察していた。

「やっぱりなんかあったんっす……」



 住宅地はビルと同じく真っ暗だった。街灯だけが灯っていて誰もいる気配がない。

「押す(ドルックン)」

『ていやー』

 ズガガガガガン、と大陸の土に我が家を沈めさせる。我が家は大陸の東地区三〇番地と書かれている場所に着地した。そこがこれから我が家の新しい住所になる。

『ケーキだーー!』

 早速、仕事を終えたクレメルは先に我が家に入ってしまう。俺も続いて入ると我が家の中は相当揺らされたのにも関わらず居間のテレビも、棚の中の皿も、仏壇に飾っている写真でさえ何一つ動いてなかった。何も起きてなかったかのようだ。

 俺は昨日の誕生日ケーキを切り分けてこたつテーブルの真ん中に用意する。昨日の残りなのでサイズはでかい、イチゴが二つずつ乗っている。

 それはクレメルの分と俺の分だ。さらに、俺には今日買ったモンブランケーキがある。贅沢に誕生日ケーキとモンブランケーキが俺のおやつだ。

 こたつテーブルの北にクレメル、東に俺、西に新里陸が座る。南側はテレビがあるからだろうか? 誰も座らない。

 誕生日ケーキが北と西に持ってかれた。俺はモンブランケーキを自分に寄せる。

『いただきまーす』

「いただくっす~」

「……いただこう」

 モンブランケーキにスプーンを入れる。はたしてその中身はなんなのか、俺は今日一日ずっと疑問に思って生きていた。それがようやく明らかになるのだ。一口目の甘いモンブランクリームを食べて、二口目でモンブランケーキの中へスプーンが侵入、プルンとしていて柔らかい感触がスプーン越しに伝わる。一体何が? 俺は二口目のマロンソースを舐めて、三口目でそいつをついに確認した。

「プ、プリンだと……!」

「ていうか、こんなのんびりしてていいんすかね、私も腹が減ったんで助かるんすけど夜の甘いものは太るんすよね~」

 と新里陸は俺の分の誕生日ケーキを食べながら文句みたいなことを言う。まるで、これから俺に料理を作らせて夜のご馳走も食べたいと言っているようだ。

「これを食べたらそのテユアーというところにいくぞ」

「テューアす、ともかく了解っす。それと受付にも寄るっすよ」

『りっちゃん、見てみてー』

 そう言ったクレメルのケーキはイチゴの乗っかっている生地の部分を残して、他の生地を食べていた。確か昨日もそうやって食べていたな。

「……よ、よかったすね」

「おーすごいな~クレメルは芸術の才能があるかもな~なでなで~」

『一つ目は失敗したんだよ、えへへ』

 俺は似合わない猫なで声でクレメルを褒めてやる。

 クレメルは褒められて最後にイチゴを食べてから、下の生地を食べた。どうやら、好きな物を最後に残したのではなくただ純粋に遊んでいたようだ。

 みんなが食べ終わると、台所で三つの皿を洗う俺に新里陸が近づいてきた。やっと俺の分のケーキを食べたことを謝罪しに来たのか。

「師匠」

「どうした?」

「その、私子供って苦手なんすよね、あーいう時ってどんな返し方すればいいかわかんないっすよ……だからその……別にここが居心地悪いとかじゃないっすよ? むしろこれからも……」

 どうやら、さっきのクレメルの芸術作品にコメントが打てなくて困っているようだ。

 俺は皿を洗い終わり、着ている水玉エプロンの布で手を拭く。ならば師としてアドバイスしよう。

「問題はモンブランとクレメルの相性だな、クレメルから距離感を縮めてきているというのにちゃんとした言葉を返せないのは悪循環だ」

「わ、わかったっす」

「ああいう時は素直に自分の気持ちを言えばいいんだ、かわいいとかよくやったとかな、それと言葉に詰まらないことも大事だ、じゃないと相手に不快感を与えるからな、レスポンスを早くだ」

「了解っす!」

 気を引き締める新里陸。こうして教えているとゲームで遊んでいた頃を思い出す。俺が師匠で新里陸が弟子だった。

 そうして腹八分目の軽めの食事を済ませ、我が家を出るともう時刻は八時を過ぎて深夜に移行している。

 いつもはクレメルの成長のためにこの時間でおやすみなのだが、今日はそんな訳にはいかない。

 ギルドメンバーの記録状態はオンになっていない。新里陸の反応を見る限り、これは事件の予感がする。

「受付にあの猫みたいな鳥と黒いフクロウを持っていけば報酬をもらえるっすよ」

「あれはカラスだけどな、持っていったらどうなるんだ?」

「引き取られるっすね、訓練して才能があったらフェーカーンのようにモンスター申請所で使われるっす。でもあれは鳴き声がフクロウっす」

「訓練か、さぞ厳しんだろうな……黒色はカラスだけどな」

「持っていけなかったら写真でもいいんすよ? 報酬は払われないっすけどどんなフクロウかは分かるっす、どうするっすか?」

「じゃあそれで」

『じゃあそれで~』

 クレメルが俺の声真似をする。もっと、もっと無感動に言うんだ!

「ていうかその格好でいくんすか? まぁ、まだ制服が無いから仕方ないっすけど」

「別にいいじゃないか、な?」

『かわいいよ? ね?』

 俺の服装は変わらずの水色、水玉模様のエプロン。これはクレメルが選んでくれたお気に入りのエプロンなのだ。その下にはなんの取り柄も無いジーパンとシャツの私服。

「まぁ……いいっすけどどっかのお手伝いさんみたいすね」

 そう言って、新里陸は自前のカメラを構えクレメルが猫を抱く姿とカラスをモフッている姿を写真に納める。

 俺はカラスが熱くて近寄れなかった。アーホーホーと暴れている。 

「そういえばークレメルちゃん、病院向かう時にこの猫の言葉分かってたすよね? それってフクロウの言葉も分からないっすか?」

「だから、カラスだと何回言えば分かる! 辛っすぅとか言ってたくせに!」

「それは関係ないっすー! 師匠はもう少し譲歩する性格だと思ってたっす!」

『んー、んー? あほほ?』



『こ、こわいよぉ~』

「だ、大丈夫だ、俺もこ、こわいからな」

『パパぁ~』

 クジラの背中に広がる大陸、東地区の住居は一〇軒ほどで人がいる気配はない。まるでゴーストタウンを連想してしまう。その家のどれもがこの大陸で建てたものなのか日本様式ではなく、屋根や壁が曲がりくねっていて魔女の家みたいだ。それがさらに恐怖心に拍車をかける。街灯の明かりも電柱ではなく、細い鉄の棒がまっすぐ突き立ち天辺に傘のついたデザイン、黄色いネオンの光を放つ電柱となっている。

 黒いビルに近づくたびに白い霧のような雲のようなモヤが俺たちの周りを包んでくる。後ろにあるだろう我が家はもう闇の中に飲まれた。湿った空気が体を通り抜ける。

「おーーい! 誰かいるっすかーー? 返事しくださいっすーー!」

 新里陸が叫ぶも帰ってくるのは静寂。やはり誰もいないようだ。

 家々を通りかかるたびにチャイムを鳴らし訪問するが反応なし。まだ寝る時間でもないだろうに。俺とクレメルは寝ちゃうが。

 歩いていくと遊園地の入り口のように檻で囲まれた場所に出会う。

「お、あれが受付っす、ガウナさんっていう人がいるんすけど……って」

『……グスッ、こ、こあいよぉ~グスッ……パパぁ~トイレいきたいよぉ~グスッ』

「お、おい、今なんか通らなかったか? ガサガサ音を立てた……白い半透明な……」

「……このビニール袋っすか?」

『はやくあそこいこうよぉ~』

「そうだな急ごう、じゃないと背中から噛まれてしまう……」

 絶賛恐怖中の俺とクレメルは新里陸の言う受付、つまりゴールを見て少し安心した。恐怖メーターが下がっていく。

「……わぁっす!!」

『きゃあぁぁぁぁぁあ!!』

「うわあぁぁぁぁぁあ!!」

 突然、新里陸に似た大きな声と地面を強く叩く足音が俺たちの後ろから聞こえて、恐怖メーターがぐーんと上がって体にしがみつくクレメルと共に受付ゴールに走り込んだ。

「どんだけビビリなんすか……」

『グスッ……だって……だってぇ……』

「俺は口もない足もないというか実体のないのがお化けだと思っていたでも違ったんだお化けには口があるその口はもみあげまで薄く切り広がっていて叫ぶのに適していたさらにいえば人を噛むのにも優れていて後ろから肩にかぶりつき血を吸うそうすることで仲間をどんどん増やしチュパカブラ――」

「どんだけ想像力沸かしてんすか!」

「お連れの方は大丈夫ですか?」

「あ、構わないんでこの状況を説明してくださいっす」

 新里陸は怖がる俺とクレメルをよそに、受付のガウナさんという人に話しかける。

 ガウナさんは料理をしているのか木の棒ででっかいツボをかき回し煮ている。液体の色が美味しそうなクリーム色だ。

 俺はいい匂いに釣られ顔をあげると、ガウナさんは褐色肌に、程よく切り揃えた黒髪、八重歯が特徴な人だ。その顔には見覚えがあって、ゲームでミニゲームのクイズを担当していた人だったなと気づく。

『パパぁ、トイレ、トイレ~』

「すいません、トイレありますか? 女子トイレです」

「え? はい、この先をまっすぐ行けばトイレがあります」

 そう言って、ガウナさんは受付のすぐ隣にあるトイレを案内してくれて、俺とクレメルはそこに一緒に入っていく。

「トイレ、されるんですか?」

 ガウナさんにそう聞かれる。もしかしたら、俺が女子トイレに入ることを危惧しているかもしれない。

「もちろん俺はしないぞ、クレメルがするんだ」

「そうですか……いえ、それではいってらっしゃいませ」

 なにやら、意味深な空気を漂わせるガウナさん。俺は足にしがみつくクレメルと共にトイレ(ゴール)を目指した。

『きゃぁぁっぁあ!!』

「うわぁぁっぁあ!!」

「なんでトイレに行くのにも怖がってんすか! あーもー!」

 新里陸がついてきてくれたおかげでなんとか俺とクレメルは用を足せた。でも、戻りはついてきてくれないのかトイレの前に新里陸の姿は無く、先にクレメルが怖さに震えて俺を待っていた。俺だって怖い。

「え、あれってミミズクなんすか? ……それじゃこのチョウチョをお願いするっす」

「フランメファルタですね、回収ありがとうございます、では報酬をどうぞ」

 再び戻ってきた受付では新里陸が捕まえたあのチョウチョを受付に差し出していた。

 ガウナさんの声はとてもはきはきして聞き取りやすい。どこぞの女子アナみたいだ。

 受付のガウナさんは報酬と言って一〇〇〇〇〇〇円はあるだろう札束を渡していた。

「そんなに儲かるのか」

「これっすか? 日本円じゃないっすよ、ゴルドっす。日本円に換金すれば五、六〇〇〇〇といったところっすけど」

 その札にはリーブリヒ国王が描かれていて日本円ではないのが確認できた。

 それでも高い。一体につき万単位とは……やはり儲かるんだなこの仕事。

 新里陸が五〇〇〇円もするサツマイモを追加で頼んだことや、大型スーパーで二〇〇〇〇円もするお会計を代わりに払ったことになんとなく理解が出来た。

「こちらのモンスターはシュバメッツェとウーフーラーベーですね」

 ガウナさんはモンブランが撮影したファルコンとカラスの写真を見てそう答える。

 子猫の体をした燕がシュバメッツェ、焦げた体をしているカラスのように黒いフクロウがウーフーラーベーだそうだ。

 モンスターの名前はウンリーオーのミニゲームで遊びながら覚えていた。目の前にいるガウナさんがその司会役だったりする。クイズ全般はアイリが得意だったのを覚えている。

「それじゃあ、状況を教えてくれっす」

 俺たちがやっと揃ったことで新里陸は状況の説明をガウナさんに求めた。

 ガウナさんはツボの中の液体をかき回す手を止めて話してくれる。

「現在、マイスターとプッペンの皆様はルストに現れたレイドボス、ドラッへを討伐するために先立ち、こちらにはいないのです」

 淡々と状況を説明するガウナさんのその顔には真剣さが伝わってくる。

「レイドボスというとみんなで倒す敵ということか」

「でも、ゲームみたいに人数制限は決められてないっすよ。ここにいるみんながゲームを通して集まっているっすから、でっかくて共闘できる強いボスはそう呼んでいるだけっす」

 ドラッへはドラゴン系モンスターということだ。ゲームの時に使っていた呼称は現実になってもそのまま使っているみたいだ。

「そして、先ほど最後の救援部隊を向かわせたのですが、そちらも応答途絶。いまだ安否が分かっておりません」

 それは、やばいのではないか? 俺はここに来たばかりなのであんまり出しゃばったことは言えないが、ガウナさんの言っている事は向かった人達、つまりはギルドメンバーが全滅したと言っているように聞こえる。

「……確かルストには通信不安定地帯があるっすよね?」

「通信不安定地帯?」

「操作端末が使えない場所っす、操作端末機能はここ、受付から発信している特殊な電波っすから、それを受け取れないと操作端末自体開けなくて魔法の呪文の確認やメッセージが見れなくなるっす……」

「はい、しかしその場所はルストでもかなり奥地の方で、今回の戦地はルストテューアから三キロほど離れたところなのです、そこが通信不安定地帯になる事は……」

「それに、もしそうだったら、そこから抜けてそれを既に伝えているということっすよね……」

「これは最悪の予想ですが、テューア付近が通信不安定地帯となってしまった……ということなのでしょうか……」

 考え込むガウナさんと新里陸。あのクリームシチューはいつ食べさせてもらえるんだろう。俺はそればかり考えていた。

『それなら僕らが行って確かめればいんだよ!』

 それにしびれを切らしたのかクレメルが提案を挙げる。

「それじゃ、救援部隊と同じく二の舞喰らうだけっす」

「いや、行こう、クレメルの作戦に俺は逆らえない」

 いつもは俺たちの話を聞いているだけのクレメルがそう言ってくれる。それに、俺はさきほど「クレメルのしたいことはなんでも叶えてやる」と宣言していた。

「は?」

 何言ってんのこの人? みたいな顔をする新里陸を置いて、俺はクレメルの手を引いて一緒に歩き出す。

『それじゃ、レッツゴー!』

「ゴーゴー」

「ちょっと待ってくださいっす! なんでそんな軽いんすか! いくつもの部隊から連絡も来てないんすよ! ちゃんと作戦立てて向かわないと……」

「モンブラン、俺はもう待てないんだ」

 俺は早くアイリに会いたかった。

 あれから二年。あのゲームで最後の時を一緒に過ごしたアイリ。掲示板でずっとアイリの帰りを待っていた俺は、精神が先に折れてインターネットをやめた。

 早くアイリに会って、最後に交わしたテキストの文字化けした言葉を知りたかった。

「そこにアイリがいるなら、それだけが俺の行く理由だ、俺はアイリに会いに行く」

「……そうっすね、確かに師匠はそんな人だったっす……でも、師匠ネカマじゃないっすか……ゲームではアイリさんのことを姉みたいに呼んで、接していたっすけど、師匠ネカマじゃないっすか! アイリさんは私に! 師匠をどうしても連れてきて欲しいって言ってたっすけど! でも師匠ネカマじゃないっすか! 会ってどうするんすか! ここは冷静に次の手を考えるべきっすよ!」

『ネカマ』新里陸にそう呼ばれるのは二回目だった。

 最初に呼ばれた時、俺は怒って綺麗な新里陸を我が家から追い出した。でも、それでも新里陸は怖がりもせず諦めもせず、俺のドアを叩いた、魔法で吹き飛ばした。

 それが、アイリからのお願いだったから。

 俺はネカマだ。それは違いない。でも、俺は行かなければいけないんだ。そんな俺でもアイリは俺を待っているんだから。

 ――あの時のように。

「俺は行く、たとえネカマだということがバレても、それをアイリになんと言われようと、俺はアイリに会わなければ行けないんだ」

「……師匠、アイリさんに会ったらなんて言うんすか? バカみたいなこというんすか? クレメルとイチャイチャするんすか? お姉ちゃんって笑って抱きつくんすか?」

 怒ったような口調で喋る新里陸。その顔もきっと怖い表情だろう。俺は背中を向けて言った。

「考え中だ」

「バカっす、そんな考えなしでモンスターにも勝てるわけないっす! もう、勝手にするっす!」

 そうだ、俺はバカだ。でも、こればかりは譲れないんだ。バカでいること、そう見せないと無理矢理にでもここから先へ行けなさそうだから。

 クレメルが俺の手を引っ張る。その笑顔には純粋な探究心が窺える。目指すはルストという世界、どんなことが待っているか分からない。きっとクレメルにはそれが楽しいのだ。

 そうして、俺と新里陸は別れた――っとその前に。

「おーい! モンブラン! ルストに行くにはどうればいいんだーー!」

「……そのまま……まっすぐ行けばルストテューアがあるはずっすーー! 師匠はマジでバカっすーー!」

「ありがとーー! モンブラーーン!」

『ありがとーー! りっちゃーーん!』

「超バカっすーー! なんでお礼なんかいうんすかーー! 空気読めないマジで超バカバカっすーー!」

 バカバカ言う新里陸。モンブランは噴火してしまって手がつけられないレベルに達していた。

 そうして、俺とクレメルはまっすぐ進んだ。その先には光るアーチが二つあった。

 結局、ガウナさんの料理は食べられなかったな。



 道の先にある二つのアーチの中は片方が緑色で、もう片方がピンク色をしている。水たまりのように波紋が動くアーチの外観はかまぼこの断面のようだ。

 この二つの内どちらかがルストテューアというルストに繋がる道なのだろう。

『すごい綺麗~』

「ああ、夜だからかもしれないな、ん?」

 アーチに近づくと、その目の前に一人の男性が腰を下ろしている。全体的に緑が多い和服、立派な松の木が描かれた柄。ごっつい体を持つあのシンクさんだ。

「お主は……」

 シンクさんは俺たちに気づいたようで顔をこちらに向けてくる。その顔にはたくさんの傷跡。その声も低くて怒声のようだ。どこぞの雷おじさんのような人だ。

『あ、あのこわい人だ……』

「……大丈夫だ、俺が説得する……」

 クレメルが俺のズボンをギュッと握り締める。俺はそれを守るように前進した。

「シンクさん、本当にあの時は失礼をした、この度同じギルドに加入した暮井京太だ、よろしくな」

 そう言って、俺はシンクさんに手を差し出す。それを握り返してくれるシンクさん。その顔は愛想のいい笑顔でヘラッとしている。

「はっはは、我は気にしとらんでござるよ、それより我のマイスター殿と一緒ではないのでござるか?」

「いや、モンブランとは受付で別れた、どうやら作戦を立てて他のメンバーからの連絡を待つのだそうだ、ギルドメンバー全員が全滅したら困るからな、一人でも生き残ってギルドに残ってくれた方が安心する」

「そうでござったか……」

 そうだと、新里陸がここに残るという理由を俺は考えている。新里陸が生き残っていれば俺がやられても次があるからな。

 もし、新里陸が一緒についてくるといったら俺は止めていただろう。それは師として当然の判断だ。

 シンクさんはすでに状況を知っているのか、似合わないため息なんかをついた。

「お主らはこれを(くぐ)るのでござるか?」

 これ、とはルストテューアのことだろう。シンクさんの声はさっきより低い。

「ああ、通らせてもらう」

「この先は、誠厳しいと聞いてるでござる、それでも潜るというのでござるか?」

「ああ、邪魔をするというなら容赦はしない」

 俺はシンクさんの声音や口調がすごく味方が裏切りそうな、実力を試しそうな台詞なので身構えてしまう。クレメルも強い眼光でシンクを睨む。返す言葉も戦いを連想させてしまう。

「なら頑張るでござるよ、我はマイスターのところに行くでござる」

「ああ、そうしたいならそうしろ、俺は俺の道を行かせてもらう」

「お主たちなら、きっと万事うまくいくでござるよ、その面構えはあの時によく似ているでござるからな」

 あの時?

「ゲームのことか?」

「そうでござる、ゲームでもクレメル殿は幼稚で可愛くござった、しかし戦闘では頼もしく幾度も窮地を助けられたでござるからな、我はクレメル殿、そのマイスター殿にご恩があるのでござるよ」

『んー?』

「では、頑張るでござるよ」

 そう言って、俺が来た道をのしのしと歩いていくシンクさん。その大きな後ろ姿はとても魔法使いとは思えない。

「なぁ、クレメル。ゲームでシンクさんのこと覚えているか?」

『ゲーム……って? パパが遊んでたやつだよね、ごめんなさい僕わかんない』

「そうか、ならいいんだ、じゃ行くか」

 眼前に緑とピンクに光る二つのアーチ、どちらを潜ろうか。

「おーい! シンクさーん! ルストに行くにはどっちを潜ればいいんだーー!」

「緑でござるよぉぉーー!」



 緑の光を放つアーチの先は先が見えない。試しに息を吹きかけると波紋が広がり、指で触れてみると水のような感触でぬるく、水滴は指にくっつかなかった。クレメルが先に飛び込んでいく。

 俺も続くように潜ると中は広大な機械洞窟だった。下水道とか地下施設みたいに床は網目状の鉄格子、横幅二〇〇メートルはある大きな通路、横の壁は細かったり太かったりする色とりどりのケーブルがびっしりと張り付いている。天井も一体どれくらいの高さがあるかうかがい知れないが鉄色なところを見るとそこも機械なのだろう。

 俺は操作端末を開いて魔法を確認する。この先が通信不安定地帯だったら操作端末は使えなくなるからだ。それとメールが来ていた。宛先はガウナさん。件名は「これからお世話になります」だそうだ。

 精一杯、ガウナさんのはきはきした声を想像して内容を読んでみる。

 ――ルストテューアは緑色をくぐってくださいませ。それに武器の装備、魔法名の暗記をお願いします。操作端末が使えなくなると確認もできませんからね。ルストに着いたら操作端末の確認、連絡をお願いします。転送装置はテューアの奥にあるので認証画面が現れたら、Ja/Neinという文字が出てきますのでJaにタッチしてくださいね。それでは、お気をつけていってらっしゃいませ。

 どうやら、ルストに行く手順を書いてくれたようだ。俺は「モンブランを任せた」と返信した。

『なんか怖いね』

 ガウナさんに言われたとおり操作端末を弄り、クレメルにバイオリンを持たせる。戦闘態勢を整える。

 無音無臭な機械洞窟に二人っきり。いままでは新里陸がついてきてくれていたからどんな事にだって対処ができたが、これからは二人でなんとかしなければならない。

 機械洞窟の奥には緑に光る六芒星が描かれた魔法陣があった。それが転送装置というものなのだろう。

 そこには、アイリやヴォルケン・ヴァールのみんながいる。連絡がないということは全滅している可能性が高い。

 どちらにせよ、緊急事態が起きていることは変わりないんだ。

「安心しろ、俺とクレメルならどんな敵でもけちょんけちょんだ」

『うん! けちょんけちょん!』

 テューアの奥にある魔法陣に足を乗せると認証画面、利用規約めいた長い文が現れる。それはベータとか小文字のaやuの上に丸い二つの点がある変な形の英文字で書かれた外国の言語だった。訳がわからないがとにかく下にいってJaを出した。

「ジェイエーはこれか」

『じぇいえー?』

 利用規約にはいい思い出はないが、ガウナさんの言うことなら大丈夫だろう。これを押せばルストに転送される。深呼吸して鉄の心臓に息を吹きこむ。

「それじゃあ行くぞ、準備はいいなクレメル」

『らじゃじゃー!』

「よし……ラジャJaジャー!」

 首を歌舞伎のようにぐるんぐるん回してラッフェくんの物真似をするクレメルの笑顔を確認し、俺も首を回して同じく叫びながらJaの文字にタッチ。その瞬間、俺の視界は白く染まった。

 それが眩しくて反射的に目を閉じてしまった。

 目を開けるとそこは黒い霧が立ち込める場所だった。周りを見渡すと大きな三階建ての宿屋のような家と、青い色をした巨大なアーチがあった。そのアーチはテューアに似ていたので同じものだと考察。しかし、波紋のように広がる光りがなくて向こう側がそのまま透けて見えるので機能はしていないようだ。

 早速、操作端末を開こうと指を振るが反応なし。推測だが、俺たちの周囲を包む黒い霧のせいで通信不安定地帯になっているようだ。


『がぁぁぁぁああ! んんっ……がぁぁああぁぁ!! んんっ……』


 突然、大きな唸り声が上がる。それはワイルドかつマイルドでダンディな雄叫び。その方向を見ると黒い霧の中にうっすら大きい影が暴れているのが見える。これがガウナさんが言っていたモンスターだろう。うっすら見える頭の影はドラゴンだ。

 次の瞬間、視界が真っ白になる。何事か、と思った頃にドッシャーン! という音が聞こえて雷鳴だと気付く。近くに雷が落ちたようだ。

『きゃあぁぁ!?』

 クレメルがその場でうずくまり俺の脚に抱き付いてくる。雷鳴に驚いたのだろう。俺も心の中では驚いているが感情を表に出すことはなかった。クレメルの前では気丈でいたいからかな。

 そんなクレメルを抱えて雷鳴の正体を探ろうと黒い霧の中を進んでいくと、十数人の杖や弓を構えた人たちと出会う。その人たちは魔法や必殺技を真剣な顔で、必死にドラゴンにぶつけているようだ。

 そのうちの一人、金髪の頭に鼻と口元をバンダナで覆った、紺色のスーツを着た青年を捕まえて話しかける。大きな箱の中を探っていて矢筒に矢の補充をしている。

「おいあんた、今どんな状況か教えてくれないか!?」

「どんなって、見ればわかるだろ! もう後がないんだ!」

 今の俺の装いは水色、水玉模様のエプロン姿。とてもじゃないが戦場に行く勇敢な戦士の姿とは程遠い。

 だからだろう。青年は矢筒を抱えて戦場に向かう。後がない、というのはなんとなく分かる。

 おそらく、あの青いアーチにたどり着いたら負けなのだろう。そこが俺たちの世界と繋がっているというならばモンスターが潜ると転送装置を伝って俺たちの世界に現れてしまう。

 俺は走っていく青年を追ってどうにか情報を聞こうとする。青年は立ち止まり厚手のグローブを穿いた手で弓を構える。

「くらいやがれぇ! パンツァーミンダン!」

 紫色の炎のように揺れる光を先端に灯らせた矢を射出。何百メートルもの先の霧の中にうっすら見えるドラゴンの頭を的確に打ち当てる。『んんっ……』という短いうめき声が上がり、頭の影が暴れる。これが射的だったら見事としか言いようのない命中精度だ。俺も負けないようにクレメルの肩をつかんで前に出す。

「俺たちも行くぞクレメル! 光り輝く弾を! リヒトボール!」

『んー? 何するの?』

 クレメルの持つバイオリンが光り輝き、その先をドラゴンに合わせる。すると小さくて黄色っぽい蛍のような光を放つ極小の玉が宙を漂って周りの瘴気を掻き消していく。光の玉は瘴気を食べるように膨らんでいき、風に乗って上空に飛んでいった。周りを覆っていた瘴気は晴れて、空には緑色の青空が広がり陽光が差し込む。

 どうやらルストの世界の空の色は緑色らしい。ナメクジの星を思い出す。

「な、なんだそれ……今のは光の支援魔法? まさか、クレメルなのか?」

 隣にいる青年が期待はずれの顔で驚きの声を上げる。今使った魔法に見覚えでもあるようだった。ていうか攻撃魔法じゃないのか……

『クレメルって僕のこと?』

 青年は俺の下、クレメルを見てさらに仰天。

「その恰好……やっぱりクレメルなのか! うおークレメルだー!」

 青年はそう叫んで持っている弓を手放し、顔を覆っているバンダナを外し、両手を広げてこちらに近づいてくる、クレメル目指して手を伸ばす――それを俺はパチンと頬を叩いて阻害する。

「触るな! 腫れものが!」

「え……すんません」

 青年は反省したようで大人しくなる。クレメルが『あっ……』と声を漏らす。

『僕この人知ってる! あの肉食系男子だよ! テレビの特集でみたもん! グイグイ行くんでしょ!』

「いや、こいつはロールキャベツ系、キャベツの中はぎっしりお肉だ、きっと……!」

 クレメルは彼のことを思い出したわけではなく、彼のようななんとか系男子がいることを思い出した。期待していた青年は肩をうなだれて俺を見る。

「まさか、あんたがクレメル……ヒェンのマイスターなのか?」

「俺はクレメルのパパだが?」

 マイスター、そんな偉そうな名前で呼ばれるほど俺は立派じゃない。それにマイスターなんかよりクレメルのパパである方が俺には性が合っている。

「そ、そうなのか……ならあんたは俺を知っている……はずだ、たぶん」

 俺の体を足のつま先から頭の天辺まで見て、ぎこちなくそう言った青年の顔は美形といっても過言じゃないほどイケメンで、その紺色のスーツと合わせてみるとどこぞの王国貴族の王子様に見えなくもない。金髪の時点で明らかに日本人ではなかった。

「…………まさかな」

 俺の脳裏に一つだけ青年に当てはまるものがあった。クレメルを知っていて、金色はドットの点で見れば黄色。でもそれは大方間違っているだろう。あいつとは性格が全然違うし、何よりクレメルに抱きつこうとしたやつだ。知り合いでも仲良くなったらクレメルとお近づきの関係になってしまう。それだけは――

「俺だよ、エイトメイトだよ、クレメルも久しぶりだなぁー!」

 エイトメイトはクレメルにバチコーンと大きくウインク。

「やはりエイトなのか……」

 エイトが俺たちのことを理解してくれると、矢を打ちながら早速この場の状況を説明してくれた。俺とクレメルも聖属性の魔法で応戦しながら彼の話を聞く。

 黒い霧に包まれているドラゴン――あちらの言語に言い直せばドラッヘの正式名称は『暗黒龍種フォイルニースドラッヘ』

 ウンリーオーの最終時間にエイトとシンク、アイリに俺の四人で戦いに行ったのが懐かしい。そいつは歩けない足と飛べない翼で頑張って地面を這いながら、あの青いアーチ――ゼーレステューアを目指しているという。

 苦戦している理由は二つ。まずフォイルニースドラッヘのHPに底がないこと。ゲームでのモンスターの強さのランクは体長で決まっていて小さかったらクライン級、大きかったらグロース級となる。例えれば、我が家の周りにいるシュバメッツェやウーフーラーベーがクライン級、この前戦ったチョウチョがグロース級となる。

 それなら眼前のドラゴンはどちらに属するかというとどれにも属さない。俺がいない間に新しい強さのランクが設定されたようだ。その名はゲジュペン級。ギルドモンスターと呼ばれていたあの雲クジラの大きさがそれに当てはまる。その体力は底がなく魔力抜きで魔力切れを狙わなければ勝てないらしい。

 二つ目はフォイルニースドラッヘがアンデット系だということ。アンデット系は傷が再生していくので攻撃の手を止めずに再生速度を上回る速度で攻撃しなければいけない。それをあの大きさのモンスターに敢行しているのだ。みんなは頭を集中攻撃しているが、ドラッヘの下半身から伸びてくる数十本もの先端がスコップやツルハシの形状をしている尖った尾がそれを邪魔する。それが原因で頭の再生を許してしまう。

 聞くところによるとかなりの強敵のようだった。

「だからケーニヒとアイリや懺血ざんけつ、イデアールの四人が尾と対峙して麻痺で動きを止め、後の俺たちが弱点の頭を担当しているんだ。でもそれが何分もつか……俺たちも必死に攻撃しているんだが、正直手応えがねー……」

 そこでアイリの名前が出てくる。それとケーニヒや懐かしい名前も。

 ケーニヒはヴァルケン・ヴァールのギルドリーダーで、雷の必殺技を使いこなす奴だ。それならさっきの雷鳴もケーニヒが引き起こした雷だと頷ける。

 フォイルニースドラッヘの体は大きすぎるために、頭がある上半身と十数本の尾が生えている下半身の二つに分けて戦っていた。元々、マグマの沼に生息するモンスターなのか西洋の竜ではなく、東洋の龍の姿をしている。その長細い体は蛇とも言える。しかし、尾の部分が十数本に別れていて尾ビレのような役割をしているというのだから生態系は魚類かもしれない。

「アイリはそこにいるのか……エイトすまないが――」

 言おうとする俺の胸に、エイトは厚手のグローブを穿いた拳を突き立てて、さぞモテるだろう口角ではにかむ。

「いいぜ、ここは俺たちに任せろ、お前とアイリが揃えば俺たちが頭を攻撃しているうちに倒しちまいそうだ、クリアーは早いほうがいいからな」

 なんてイケメン力だ。俺が女子だったら「H!」と叫ぶだろう。でも、その行為が許されるくらい眩しい金髪と整った顔が憎たらしい。

 俺とクレメルはエイトに背を向けてアイリがいるというドラゴンの方へ走っていく。

『またねーー!』

 あれはおばあちゃんの墓参りの日だったか、男は背中で語るものだとジジィは言っていた。俺はエイトの拳に背中を向けて答えた。


 俺とクレメルには聖属性の加護でもついているのか、走るたびに周りの瘴気が消え失せて道が見えていく。それで気づいたんだが、瘴気の濃さはフォイルニースドラッヘの尾、つまりは排泄部分から溢れているようでこれはオナラの一種なんだと思い知らされる。道理でエイトがバンダナで鼻と口を押さえていたわけだ。

「クレメルは平気か?」

『んー? トイレはさっきしたから大丈夫だよ?』

 今の俺とクレメルは記録中状態という絆みたいなもので繋がっている。このおかげで魔法の発動やクレメルの考えていることがなんとなく分かってしまう。さらに、この状態とやらにはもう一つ上があるらしい。ジュンパッパパラリラとかなんとか言っていたが、そこまでいくと一体どんな現象が起こることやら……

 いや、確かその現象は確認しているはずだ。昨日、新里陸が我が家に来た時の姿は大人びた感じの着物の似合う美女の姿だった。ということは俺とクレメルが――

『パパ! あそこに誰かいるよ!』

「あれは……!」

 そう言われて俺は考え事を止めて目を凝らす。クレメルがバイオリンを向けて指差す先には、亜麻色の髪を頭の下だけ三つ編みで一つに束ねてぶら下げている少年が立っていた。その姿は王様が着るような赤い布地に白のもふもふした毛が襟首に付いたマントを羽織り、新里陸と同じ黒を基調とした雲柄の制服を着込んでいる。

 それは遠目から見ているから小さくて、近づく度に大きくなるはずなのに、いくら近づいても、

『ちっちゃ!!』

 と身長一二〇センチにも満たないクレメルに言われるほど、そいつの背丈は小さかった。一〇〇センチもないんじゃないか? もう幼稚園児並みだ。

『君は……クレメルヒェン?』

 その声は声変わり前の少年の声音だった。こちらを振り向く顔で確信がついた。

「あんたがケーニヒなのか……こんなチビだったのか」

「あん? てんめー誰に口きいてんだ、あそこ焦がすぞ!」

『ちょっとダーメ! 下品だからやめなよ』

『あそこ?』

 クレメルはあそこが気になるようだが、あそこがどこだろうと焦がされるのはゴメンだ。

 そして、この小さくて生意気そうな奴が俺たちのギルドリーダー『ケーニヒ』に違いない。

 ところで、さっきの下品なことを言った声は二〇代後半の女性の声で、ケーニヒの口から発せられたがどういうことだろう? ケーニヒは二人一役を買っているのだろうか? それにしても感じが変わりすぎだ。まるで二重人格のよう。

「あんたがクレメルだね? 初めましてというのも変だけど、あたしはダーメ。このヴォルケン・ヴァールのギルドマスターを努めてんのさ」

「ギルドマスターだと?」

 そんな役職はなかったはずだ。ギルドはリーダーが最上級職だったはず。まさか俺がいない間にまた新しいルールが生まれたのか。

『彼女が勝手にそう名乗ってるだけだよ、僕はケーニヒ。ギルドリーダーは僕になっているから、必然僕のマイスターであるダーメもその権限を持ってる』

「ケーニヒ……お前のマイスターてじょ、女性だったのか?」

 ゲームでのケーニヒはギルドリーダー。ヴォルケン・ヴァールの創始者でみんなの頂点に立ち、みんなを先導する役職を持つ人だ。その外見は小さいが、強くて頭が切れて、みんなの人気者で、特に女性プレイヤーからは絶大の人気を誇っていた。どこぞのホストのようにいつも女を侍らせていた。

「それが……それが中の人が女だったなんて……!」

「てめーもネカマだろうが」

「さらにショタコ……」

 俺が危険用語を言おうとすると、ケーニヒはマントを広げてその布の内側に隠している様々な形状の刃を象っているナイフに手を伸ばし、それを俺の喉元に押し当てる。そのかん、瞳の瞬きも許されることのない一秒の半分。いつの間にか肩に乗っているのだからビックリだ。雷のような速度だった、いや実際にバチバチと周りの大気や地面が焦げて、俺の体もピリピリしているので電気でも発生させていたのだろう。

 どうやらダーメの心の地雷を踏んだようで、俺のネカマと同じ類の危険用語だと気付く。俺も新里陸に「ネカマ」と呼ばれた時は我を忘れて我が家から追い出してしまった。しかし、今は何度ネカマと呼ばれても頭に血が登ることはない。

 成長、したのだろうか。

『お兄さん、見たところ記録中状態だし戦いは慣れてないんだよね? 今の僕とダーメは共感状態だから、下手なことしたらダーメに殺されるかも知れないよ』

 そう言って、ケーニヒはナイフを仕舞い肩から降り立ち、先ほどのただ立っている状態になる。その目線の先にはドラッヘの大きな影。尾と呼ばれる部分がうねうねと動いている様子が見える。

 つまり、共感状態は二人が一心同体になった姿を言うらしい。ゲームで言い変えればプレイヤーであるダーメ(本名?)とアバターであるケーニヒが混ざって、お互いのパーツを組み合わせた姿。だから新里陸もエイトもあんな姿なのだろう。

『パパ、アイリは?』

「それは俺も気になっている、その前にあんたはこんなところでただ立っていて一体何をしてるんだ?」

 みんなが必死に戦っているのにケーニヒは尾から一歩退いたところで立っている。それが何もしていない感じ、傍観しているだけに見えた。

「ただ立っている訳じゃない、確かにあんたから見ればそうかもしれないけどね、あたしにだって限界があるんだ、今はこうして休んでないといけないんだよ」

 限界。確かに雷鳴の音はケーニヒの攻撃なのでさきほどまで戦闘に参加していたのだろう。戦っているのか。そう考えると、ケーニヒのその立ち姿は苛ついている様にも見える。力を持っているのに振るえない。怪我をしたせいでベンチの中で仲間の応援をしている選手のようだ。

『でも口は動かせるからなんでも聞いてよ、て言っても今は緊急事態だからこの状況のことだけにしてよ』

 そりゃそうだ。ここで空気を読まずに、僕たちのギルド、ヴォルケン・ヴァールってどんなところ? とか雲クジラの上にある学校では何を習うんですか? などという事を聞いたら今度こそ喉を掻っ切られるだろう。

『なんでそんな小さいの?』クレメールゥ!

「小さい子供が好きだからね、特にクレメルは歓迎してやんよ」

 ということだ。俺は首を防御しながら冷や汗を掻く。この人ロリコンなのかー。

「アイリはどこにいる!!」

 この場の空気を支配しているケーニヒ、いやダーメに勇気を振り絞って聞く。アイリは尾と戦っているはずなので、聞かずとも分かっていたことだった。

『アイリさんは尾と戦っているよ、攻撃パターンも見切ったようだし防ぐだけなら彼女とほか二人に任せられる。問題はこのドラッヘを止めるだけの戦力が僕らにないこと……はっきり言っちゃえば無謀なんだよ、足止めしかできていないんだ』

「アイリが……一人で」

「でもま、ここは死守する防衛ラインとは限らない。多少ゼーレスには被害が出ちまうがそこで倒せばいいっていう考え方もある」

 防衛ライン? ゼーレス? そんなの俺には関係ない。俺はクレメルの手を取って、ドラゴンの尾が暴れる場所へ向かう。背中からダーメの声が掛かる。

「待ちな あんた死ぬよ? いくらクレメルの能力の恩恵を得ていても所詮生身の体。一撃で屠られちまう、今出て行ったら確実に――」

「それがどうしたっていうんだ! アイリが戦っているなら俺も戦う、アイリの力にならないでなにが仲間なんだよ!」

 今の俺がアイリの手助けをしても邪魔になるだけだろう。それぐらいわかっている。でも、それでも俺はここでじっとしてられないんだ。あの時、新里陸を置いていった時のように俺はバカ一直線で走っていった。

 それを遮るように白い閃光。ケーニヒが雷の速度で回り込んで俺を通せんぼする。

『今のお兄さんの姿じゃ死にに行くようなもんなんだよ!』

「じゃあどうしろと! 俺はもう待てないんだよ! あれから二年も経って、その間みんなは戦ってて! 俺はといえばクレメルと遊んでいたんだぞ! いまさら戦うなと言われて退きさがる訳に行かないんだ! 俺だって役に立ちたいんだよ!!」

 そんな俺の反論にケーニヒは拳を構えた。

「それなら、いまここで! あんたの力と、その意思を示しな! 言って聞かない愚かな奴は死んだほうがマシさ!!」

 ケーニヒの掌が紫に光る。バチバチと音を上げて姿を消し、俺の懐に一瞬で潜り込んで腹のど真ん中に掌底を打ち込む。電撃が俺の体の中を流れて、衝撃で骨盤がイカれて、内蔵が潰れて、口から血を吹くという生涯で一度も経験したことのない痛みを味わう。交通事故で車に轢かれた人の気持ちが痛いほど分かった。絶望感にも似た無気力な気持ちが体を襲って、地面か空宙かも分からない所に体を預けて生死を彷徨う。

『パパァーー!』

 クレメルの甲高い声。俺はその声に手を伸ばす、握られる手。麻痺で感覚がほとんど死んでいるのかそこから俺の手が動くことはなかった。固定される俺の視界にクレメルの泣き顔が映り込む。泣いてる顔なんてすごい久しぶりに見たな。

 もうずっと、クレメルが笑っている顔しか見てないのに……

「ふふっ……クレ……ル……俺は……」

 笑っているぞ。最高にカッコいいイケメンな顔で。お前が笑顔と名付けてくれた、アホヅラのマヌケヅラと言ってくれた笑顔で……

『パパになにするの! パパをいじめたら許さない!!』

「これはあんたの未来の姿さ、あの尾と殺り合ったらいずれこうなっちまう、あたしはそれを先に教えただけ」

『……やりすぎだ、ダーメ、はやく治癒魔法を……』

 クレメルがバイオリンの先をケーニヒに向ける。そうすることで魔法を使い攻撃しようとしているようだがそれは叶わない。

『ふぇるべぇん! ヘーヘンベーヘンベーベンベン――オルカンオルカン!!』

 詠唱が滅茶苦茶なんだ。俺のように、もっと無感動に……もっと冷静になるんだ……

 それならばと、クレメルは弓を投げ捨てバイオリンを両手で持って鈍器のように使い、ケーニヒの体を殴り叩こうとする。それをケーニヒが――中で操作しているダーメが無情に容赦なく弾き飛ばす。クレメルの小さな体を投げ飛ばして俺の前にやって来る。俺の胸ぐらを掴みあげてくる。

「この程度の気持ちなのかい? あんたが抱いていた意思とやらは、ここで終わんのか!?」

「………………ふっ」

 まさか……俺はまだ、

「アイ、リも……」押し上がってくる血で喉がいっぱいなのに舌が動き声が出る。

『ぱぱぁ……!』

「クレメル、も……」手に感覚などないのに動いてその赤いマントを掴み返す。

『まさか、こんな状態で……!』

「みん、な……」クレメルが宙にふらつく俺の足に抱きついてきて確かにある重さを感じる。

「何が言いたいんだい!」

「誰も……救えてなんかいないんだ!」

 アイリは俺を待ってくれている。新里陸が俺を勧誘しに来た理由はアイリに言われたから。だからアイリは今でも俺のことを心配して待っていることが分かる。

 クレメルが泣いている。ボロボロな俺を見て、仇敵に立ち向かっている。そして、俺が死にそうだから俺にしがみついて最期の瞬間でも俺の隣にいようとしてくれている。

 みんなが苦しんでいる。新里陸がみんなの帰りを待って、エイトが弓を引いて、ケーニヒが立っていて、アイリが戦っている。

 その状況を救えるのは俺なんだ。俺がなんとかしないといけない。理由は、

「俺の世界を! 俺がいても許される世界は! 俺が守っていきたいから!」

『僕も守りたいよぉ! パパと一緒にぃぃーー!!』

 瞬間、白と青の光が俺を包み込んでいく。同期率が上がって頭の中にクレメルの考え、思想、野望、愛情が伝わってくる。俺の一七年という短い人生と、それよりもっと短い二年というクレメルの記憶が垣間見える。

 俺はクレメルのどんなことだって知っている。髪色の理由、瞳の青、ロザリオの想い、法衣の闇耐性、パンツの色……

 でも、クレメルは俺を知らない。おばあちゃんのこと、クソジジィのこと、ウンリーオーのゲームでのこと。俺はクレメルのことをなんだって知っているのに、逆にクレメルは俺のことを全然知らないんだ。

 それが答えだった。クレメルは俺の記憶を本を読むように、扉を開けるように、読み上げては俺を見上げる。

「クレメル、ごめんな。いままでずっと教えてやれなくて……」

『ううん、僕はパパのこと大好きだから、パパの隣にずっといれたらそれだけで、幸せなの』

「そうか……なら俺の口から直接教えてやる、少し長くなるけどな。だから今は、まだ待ってくれ」

『らじゃじゃ』

 クレメルは首を回す。ラッフェくんの物真似だ。クレメルの小さな体を抱いて空に掲げる。

 白と青の光の中で、クレメルの法衣と俺のエプロンが混ざり合う。俺の髪が空色に染まり、瞳が青く輝き、装いは水色、水玉模様のエプロンの機能を持った純白の儀礼服に生まれ変わり、ロザリオが眩い太陽のように金色を放つ。体は俺で、色合いはクレメル。それが俺たちの共感状態の姿だった。吹っ飛ばされたバイオリンも手の中にあり、傷ついた体なんて魔法で無かった事になっていた。

「許さんぞ! フォイルニースドラッヘー! 『コテンパンに懲らしめてやる!』」

『え、ちょっと! もう行くのかい!? ていうか性格変わってない!?』

 ケーニヒが俺を止めようと動きを見せるがダーメがそれを制した。

「せいぜい頑張りな、あんたはあんたの道を真っ直ぐに進みやがれ!」

 そんなこと、お前に言われるまでもない。今の俺はいつもより前が見えている。その調子で、アイリの元へと地面を蹴って跳躍し空を飛んでいった。

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