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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第3部:世界の終りで待っている
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第89話:はっきり言えば自業自得です


「……とはいえ、さすがにこれはキツイ」

 

 学内に居づらくて、昼休憩は図書室に逃げ込んでいた。

 昼食時にも開放はされているが、利用者は本が好きな子に限られている。


「はぁ。分かっていたけど、俺ってヘタレだね」


 自分の精神面の弱さを思わず自嘲してしまう。

 他人の視線がやけに恐ろしい。


『大和猛はシスコンの変態だった』

『妹に手を出す最低の兄』

『あんなゲス野郎にだけはなりたくないな』


 影口を囁かれ続けている、この現状。

 

――こうなりたくなかったから、俺は撫子への愛を躊躇していたともいえる。


 自分が傷つきたくない。

 そんな保身が妹への愛をブレーキさせてたのも事実だ。


――俺ってやつは覚悟が足りてなさすぎる。


 自分の愚かさが悲しい。


「こうなってしまった限りはしょうがないけどな」


 引き返せないならば、前へ進み続けるしかない。

 撫子の事は恋乙女に任せている。

 彼女が傍にいる限りは撫子に対して、何か攻撃をされることもないはずだ。


「ここで時間つぶしでもしているしかない」


 適当に本を眺めながら、時間が過ぎていくのを待つ。

 すると、ふいに心配そうな声と共に、


「――こういう時に、どうして私を頼ってくれないの?」


 猛にそんな言葉をかけてくれた、女の子。


「淡雪さん?」


 いつしか猛の背後には心配そうな顔をした淡雪だった。


「暗い顔をしてるは貴方らしくないわ。こっちに来て」


 彼女についていくと、図書室の奥にある小さなテーブル席につく。


「ここは利用者が少ない場所だから落ち着いて話ができるわ」


 その配慮に感謝しつつ、彼らは席に座り話を始めた。

 淡雪にだけは事情を知ってもらい、理解者でいてもらいたい。

 理解してもらえるかどうかは分からないけども。


「……これだけは聞かせて欲しいの。貴方が好きな女の子は撫子さんなの?」

「キミから軽蔑されるかもしれないけど、本当の事を言う。……そうだよ」

「やっぱりね。前から気づいてはいたわ」

「淡雪さんには想いを知られていたんだな」


 当然と言えば当然なのかもしれない。

 彼女は猛に最も近い“友人”と言える相手だったから。


「だって、貴方と一緒にいてもいつも妹さんの話ばかりするんだもの」

「すみません」

「毎度、比較対象にされるのはちょっと寂しかったわ」

「ごめんなさい」


 言葉の端々に鋭いトゲがあるのは気のせいではない。

 淡雪に謝罪をしつつ、彼は自分の気持ちを正直に話す。


「妹でも、好きな気持ちが止められなかった。その結末がこれだ」

「はっきり言えば自業自得です」

「……はい、そうですね」

「でも、それとこの噂は別物。ひどい噂の一人歩き。暴走してるわ」

「誰の恨みを買ったのやら。いや、だとしても……」


 非難されるだけの理由はある。

 他人には到底理解されることのない、そんな荊の道を歩んでいたのだから。

 

「俺はどうすればよかったんだろうな」

「自分の気持ちを押し殺して、違う誰かを好きになっていればよかった?」

「分からない」


 撫子の代わりを誰かに求めてたとしても。


「淡雪さんの言う通り、そんなことをしても、長続きする自信もない」

「人は自分の気持ちに嘘はつけないものよ。それが大切な想いならなおさら」

「……嘘はつけない、か」


 淡雪はそっと猛の手の上に自分の手を重ねてくる。


「貴方が撫子さんを好きって思った気持ちは間違いじゃないわ。人を好きになる気持ちはどうしようもないもの」

「ありがとう、淡雪さん」

「けれど、現実は優しくなんてない。厳しくて大変なんだから」

「……思い知っているよ」


 どこかで楽観視して、乗り切れると思っていた甘い自分がいたのも事実だ。

 猛はその手の温もりを感じながら、弱い自分を恥じるしかない。


「私ができる範囲でなら協力してあげたい」

「……気持ちだけ受け取っておくよ。淡雪さんに迷惑はかけられない」

「どうして?」

「恋乙女ちゃんとは違い、一度は俺と恋仲の噂になっている。この状況ではキミにまで非難の矛先が向けられる、それだけはダメだ」

「貴方は私と結衣の間に会った壁を取り払ってくれたわ。感謝もしている、恩義もある。それに、友達なら困っていたら助けになりたいのは当然でしょう?」

「淡雪さん……」


 そこまで猛の事を信頼してくれていたとは思わなかった。


「貴方達の力に私はなりたいのよ」


 優しい微笑みを前に彼は静かにうなずいた。

 彼女の優しさを頼りにしたい。


「ありがとう」


 その時だった、猛の携帯電話が着信音を告げる。


「誰だ? ……公衆電話? 今時、珍しいな」


 ディスプレイに表示されていたのは、『公衆電話』の文字。


「誰かしら。出てみる?」

「出るしかないだろう」

「嫌がらせの電話かも?」

「だとしても、無視するのも面倒くさいことになりそうだ」


 相手が誰か分からずに電話に出てみると、


『――大和猛君』


 それは少女の声だった。


『これは最後通告よ、妹との恋愛を解消しなさい』


 名も知らぬ少女は声を震わせながらも、猛へ警告する。


――まさか、犯人からの?


 電話の相手は今、まさに猛達を追い込んでいる相手からだったのだ――。


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