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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第2部:咲き乱れるのは恋の花
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第56話:ホント、夢を見てるだけの子供だわ


 結衣に招かれて須藤家にお邪魔していた。

 猛は淡雪と対面すると、プライベートの姿にどこか照れくさくなりながら、


「お邪魔してます、淡雪さん」

「なんで、猛クンが?」

「ダンスしてたら大和さんに会ったの。ついでに連れてきちゃった」

「結衣ちゃんのダンスを見に行ってね。お誘いを受けてきました」

「そ、そうなんだ。いきなりだったからびっくしたわ」


 突然の来訪ながらも、受け入れてはくれたようだ。


「でも、今はお祖母様もいないからいいけど……結衣、勇気があるわね」

「お姉ちゃんが喜ぶと思ったんだもんっ」

「貴方の反抗期はお祖母様に向きすぎてない?」

「私の倒すべき相手はお祖母ちゃんだと思うのですよ」

「絶対に負けて泣かされる」

「そ、そんなことないやい」


 中々に手ごわいラスボス攻略の様子。


「別に連れてきてもいいでしょ、お姉ちゃんの元カレさんなんだし」

「それは……まぁ、そうなのだけど」

「今も仲がいいんだって聞いてるもん。お姉ちゃん、友達少ないからねぇ」


 妹のおでこを「余計なお世話よ」と軽く指ではじく。

 

――淡雪さんもお姉ちゃんをしてるらしい。


 さりげないことに微笑してしまう。


「どうぞ、猛クン。お茶でも淹れるわ」


 応接間と思われる部屋に案内される。

 

「高そうなツボとか掛け軸と飾られて、緊張します」

「ホントにお値段がすごい奴は蔵にあるらしいよ。お宝官邸に出せそうなのとか」

「これだけ古い家だとお宝も多そうだな」


 結衣は「売りたいよねぇ」と不謹慎発言をする。

 いいお値段が付きそうな感じで期待が膨らむ。


「ホント、懲りない子。ごめんなさいね、結衣はおバカさんで。疲れるでしょ」

「い、言い方がひどいっ。うわーん」

「結衣ちゃんらしくて可愛いと思うよ。淡雪さんはクマさん好きなんだ」

「え? あ、うん……あんまり見ないで。恥ずかしいから」


 クマさんスウェットを手で隠すように淡雪が照れる。

 

――可愛いぞ、淡雪さん。


 さりげない仕草に見惚れてしまいながら、


「これだけ広い家だと維持も大変だろ」

「そうね。普段はお手伝いさんがいたりするから、そちらは任せっきりよ」

「家政婦さんがいる家か。想像以上にお嬢様なんだよなぁ」

「ねぇ、お姉ちゃん、水ようかんでいい? 私、和菓子の中ではこれが好き」

「ちょっと、少しはお行儀よくしなさい」

「いいじゃん。難しいことは言わないで」

「まったく、結衣は……。猛クン、お茶を淹れるから待っていてね」


 淡雪の淹れてくれた日本茶と一緒に水ようかんを食べる。

 この組み合わせは和風な雰囲気だと格別だ。


「……美味しい。この甘さ、すごくお茶に合う」

「私は食べ飽きたよぉ。和菓子、もういい。ケーキの方が大好き。シュークリームとかの方がお茶菓子にはいいのに中々、家じゃ食べさせてくれないしぃ」

「お家柄そうともいかない、と」

 

 結衣にとってはこの堅苦しさからは解放されたいようだ。

 その様子に呆れた声で淡雪は言う。


「……結衣はもう少し自重しなさい。貴方も須藤家の人間なんだから」

「私はケーキを食べても文句を言わない理解のある旦那さんをもらって、悠々自適な生活を送る予定だからいいもんねぇ」

「ああいえば、こういう。反抗期な子め」

「だって、須藤家から早く逃げたい年頃です」

「結衣~っ。いい加減にしなさい」

「あ、淡雪さん。落ち着いて。お仕置きはよくない」

 

 今にも結衣のほっぺをつまもうとする不満げな彼女を止める。

 暴力に訴え出るのはよろしくない。

 

――お姉ちゃんは妹には強気なようだ。


 普段のお淑やかな癒されキャラが妹の前ではなくなる。

――こちらの方が自然体と言うか……。


 どちらも淡雪の顔なんだろう。

 ただ、そのギャップには戸惑わされてばかりだった。


「はぁ。ホント、貴方は自由な子ね」

「えへへ。よく言われる」

「その自覚があるのなら、少しは直して。お祖母様にまた怒られるわよ」

「自分らしく生きるのが私の生き方なんだって思うの」


 結衣は胸を張りながら堂々と宣言する。


「私は中学生になって成長したんだ」

「どんな風に?」

「自分の生きる道は自分で決めたい、そんな夢見がちな少女なのです」

「ホント、夢を見てるだけの子供だわ」

「ひどい!」


 バッサリと切り捨てられてしまった。


「……むしろ、妄想を駄々洩れさせるだけの迷惑な存在?」

「お、お姉ちゃんは私が嫌いなの!?」

「普通。ただ、妹としては交換希望レベルよ」

「私の存在がないがしろにされてるじゃんっ」


 淡雪から痛恨の一撃に沈む結衣だった。

 そんな彼女も、自分なりに自分の将来を考えたりしているようだ。

 それができないことも分かっていて。


「……そういうお姉ちゃんだって、いつまでもお祖母ちゃんのいう事ばかり聞いて生きて楽しい? 自分のやりたいこともできずに、それでいいの?」

「私は須藤家の人間としての自覚があるの。それに逆らう気はないわ」

「お姉ちゃんのその人生を納得してるのか、諦めてるかよくわからない所は嫌い」

「貴方にはまだ分からないだけよ。須藤家には使命があるの」

「そんなの知らないでいいよ」

 

 結衣にとって、この須藤家の重みは耐えられないのかもしれない。

 逃げたいけども、逃げられない。

 淡雪の立場を心配している様子でもある。


「自分の人生、好きなように生きてみたいって思うのが普通だよね、大和さん?」

「……理想としては、だけど。でも、望んだように生きられる人は少ないよ」

「それはそうだけどさぁ。願望くらいは抱いてもいいじゃん!」

「夢をかなえたり、願い通りの人生を歩むのって大変だからさ」


 現実主義者というわけではないけども、理想と現実というものがある。


「結衣はまだ子供なのよ」

「子ども扱いしないで。私だっていつまでもお子様じゃない」

「どこかなのかしら。貴方もいつか大人になっていけば分かるわ」

「分かりたくないなぁ」


 ツンっとふくれっ面をしながら結衣は、


「私は毎日を笑顔で過ごせていければそれでいいの」

「ホント、楽天家ねぇ?」

「それの何がいけないの」

「貴方も須藤家の人間としての使命を考えなさいと言ってるだけよ」

「須藤家なんて堅苦しい”しきたり”ばかりで、笑顔なんてないじゃない――」

「――っ」


 結衣ちゃんの言葉にただ静かに淡雪さんは唇をかみしめていた。

 それは彼女自身が一番感じていたものなのかもしれない。


――お嬢様にはお嬢様のお悩みがあるようですなぁ。お茶が美味しい。


 ただ日本茶をすすりながら、姉妹を見つめていることしかできなかった。

 

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