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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第2部:咲き乱れるのは恋の花
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第42話:大和猛は今日から我らの敵となった!

 

 放課後になり、猛が帰る準備をしていると、どうにも周囲が騒がしい。

 

「その噂、マジなのか?」

「だとしたら、またしてもスキャンダルなわけだが」

「……ホントだって。抱きあってるところを見た子がいるって話だから」

「でも、本当に? またガセネタじゃないのか」

「その手の噂はありすぎて。真実かどうかなんて分かりやしねぇ」

「真実ならば、さすがと言うべきかな」

「けっ、色男が。相変わらず、あの不沈艦は手が早いぜ」

 

 クラスメイト達からこそこそと噂話をされてる。

 ジロジロといぶかしげに猛を見るのはやめて欲しい。

 

――また、アレですか、俺の噂が流れてるのですか。

 

 今さら気にしてもしょうがない。

 あいにくと、猛の平穏な学園生活はすでに終わっているのだ。

 

――皆が少しずつ優しくなってくれたら、きっとこの世界は優しくなるよ。


 撫子と一緒にお風呂に入っていることも。

 時折一緒に寝てる事も。

 中学時代までは平気で妹を口説いていた事も。

 全部が明るみになってしまった。


――クラスの皆の俺の印象は“シスコン”という冷たいものだ。


 シスコンまでは受け入れてもいい。

 ただし「ラブポエマー大和」という不名誉なあだ名だけはやめて欲しかった。


――そのネタでいじめるのはお願いだからやめてください。

 

 愛の詩人、妹に愛をうたい続けた過去は事実である。

 

『――撫子と一緒にいると甘い雰囲気に酔いそうになるから気をつけないとね』

 

 などと、今ではのたうちまわってしまいそうな台詞を妹に対して吐いてた猛である。


――助けてくれぇ、過去の俺の発言を全て撤回させてくれぇ。


 頭を抱えたくなるこの状況を打破する糸口すら見つからない。

 遠目に様子を見ていた修斗が声をかけてくる。

 

「……人気者は辛いな、大和。落ち込むなよ」

「落ち込まない理由の方がないぜ」

「人の噂も何とやら。すぐにおさまるさ」

「だといいんだけどな。変な噂については、撫子が余計に火をつけようとするから困る」

 

 可愛い妹とはいえ、兄の平穏を奪うのはやめてもらいたい。

 兄の学校生活を破滅に追い込むことだけはしないで欲しい。

 

「そんなお前に追い打ちをかけるように、今回はまたある噂があるわけだが」

「またかよ。何だよ、俺がどういう事をしたって言うんだ?」

「一年生に花咲さんって子がいるのを知ってるか?」

「……誰だよ、それ? はなさき、さん?」

 

 どこかで聞いたような、その名前に引っかかる。


「花咲……んー? 何か引っかかるけど、誰だっけ」

「今年の1年生で可愛いって評判なのは大和撫子ともう一人、花咲って子がいる」

「そうなんだ?」

「その子とお前って付き合ってるって話が流れてるんだけども、その噂に身に覚えはないか? 今回の火種はその噂だよ」

 

 また妙な噂が流れていたが、身に覚えはない。

 

「花咲さんって誰だろう?」

 

 そもそも、1年生なんて撫子以外に付き合いがない。

 彼女の友達も名前くらいしか知らないし、会う機会もない。

 

「俺は誰とも付き合ってないよ。彼女なんていないから」

「……そっか。お前が隠しも動揺もせずに言うのならただの噂か。情報ソースも疑い半分って感じだったからな」

「なんでそんな噂が流れてるんだよ?」

「その子と大和が抱きついてる所をクラスメイトの女の子が見たらしい」

「俺と誰かが抱きついてる?」

「昼前の休憩時間中に廊下で仲良く抱き合っていたって話があったんだが、それに思い当たることはないか?」


 修斗の問いに「女の子と抱き合う?」と猛は思案する。

 そちらには覚えはあった。

 

「まさか……。思い当たる事はあるけど、恋愛絡みとかそう言うんじゃないよ」

「どういう事情だ?」

「昼前に倒れてた女の子を保健室まで背負って連れて行ったのは認める」

「……やることがイケメンだな。噂されてもしょうがない」


 少女を助けていた光景は抱き合っていたかのように見えても不思議ではない。

 

「そう言えば、あの子は大丈夫だったのだろうか」

「ははっ。シスコン疑惑から今度は後輩との恋人騒動か。ネタがつきんな?」

「まったくだ。俺はどこまで皆の噂の的にされ続けてのやら。ため息しか出ない」

「いや、そのシスコン疑惑を払しょくするために、わざわざ別の女の子と付き合いだしたんじゃないかって話が出てな」

「なんでそうなる!?」

「追い込まれたお前ならやりかねないし」

「ちくしょー!」

 

 思わず心の底から叫んでしまった。

 

――そんなに簡単に恋人ができたら苦労しないよ。


 しかも、付き合う理由がシスコン疑惑をなくすためなんて嫌だった。

 

「お前に浮いた噂が出るのって久し振りだよな」

「そうでしたっけ? 変な噂ならいつもされてますよ」

「結局、前の須藤さんとの話はどうなったんだ? 彼女と付き合ってたのか?」

「……ノーコメントです。相手方の事情もあるのでコメントできません」

「ますます怪しい。まぁ、ふたりのことだ。何か事情でもあったんだろうが」

 

 淡雪との関係を今さらどうこういうつもりはないのだ。

 あの日々は猛たちの記憶の中に残っていればそれでいい。

 

「――このクラスに大和猛先輩はいる?」

 

 突然、教室に少女の明るい声が響いて、クラスメイトの視線を集める。

 

「大和猛は俺だけど?」

「あっ!」

 

 猛が軽く手を上げると彼女は気付いて微笑する。

 その少女は昼間に助けた女の子だった。


――どうして彼女がここに?


 驚く猛に少女は近づいてきた。

 

「……噂をすればホントに来たぞ。大和目当てに美少女ホイホイ」

「恋する乙女がやってきた。どういう展開だよ、おい」

「へぇ、本物だ。やっぱり、あの子は可愛いなぁ」

「大和君の本命って彼女なのかしらぁ?」

「恋する乙女って、どちらにしても、また敵を増やしそうな相手を選んで……」

 

 クラスメイトがざわめく中で彼は思った。


――恋する乙女ってなんなんだ?

 

 “恋する乙女”と皆に呼ばれる女の子。

 茶色の肩くらいまで長い髪を、ツーサイドアップの髪型にしている。

 美少女と呼んでも文句のない可愛らしい女の子だ。

 先程は表情も暗く、辛そうだったので気づかなかったが、ずいぶんと明るい表情を見せる女の子らしく、こちらにも笑みを向けてくれている。

 ここ最近、クラスメイト達からの白い目に慣れていた猛には安らぎの瞬間である。

 

「保健の先生に名前を聞いて探してたの。どうしても、お礼を言いたくて」

「そうだったんだ。身体の方はどう? だいぶ、楽になった?」

 

 顔色もいいので、もう大丈夫だと思うけども聞いてみた。

 ずいぶんと楽になった感じに見える。

 

「5時間目まで保健室で休んでいたから、もう大丈夫だよ。ホント、ありがと♪」

 

 猛の手に軽く触れながら、彼女は爽やかな笑みと共に礼を言う。


――天使みたいに可愛いなぁ。


 アイドルタイプの子なのか、笑顔で人を幸せにすることができる。

 などと猛が思っていると、その様子を見ていたクラスメイトが騒ぐ。

 

「なんてこった。噂は真実だったのか」

「大和撫子だけでなく、恋する乙女まで大和のモノになった……うぎゃー!?」

「だ、嘘だ、誰か嘘だと言ってくれ。悪夢なら覚めてくれよ」

「ラブポエムか? 愛の囁きが勝利する展開なのか?」

「絶望した。僕達の最後の希望は失われてしまった」

「アイツは悪魔だぁ! リア充め、滅んでしまえ!」

 

 男子諸君からの憎悪に似た視線を背中にひしひしと感じる。

 

――何か俺ってば、ものすごく恨まれてる?


 女子たちは「これだから男って奴は」と男子一同に向けて呆れた顔をしていた。


――男子たちの殺気が半端ない。な、なんだ、俺、何をやっちゃった?


 周囲の嫉妬の炎に顔をひきつらせてびびりながら、

 

「えっと……ここじゃ、何だからちょっと外でもいい?」

「あっ。変に目立っちゃったね。ごめんなさい」

「いや、気にしなくていいから。渡り廊下の方まで行こう」

 

 このままではひどい目にあうかもしれない。

 アイドルに手を出したひどい奴というレッテルを張られている気がする。

 彼女を連れて、教室を出ようとすると背後からは嫉妬の炎が燃えていた。

 

「……おのれー、大和め。滅んでしまえ」

「恋する乙女まで手を出すとはマジで許すまじ!」

「いつか我らの怨念が滅ぼしてくれよう」

「アイツら付き合っちゃってるのか!?」

「なんでアイツばかり。大和猛は今日から我らの敵となった!」

「奴は調子に乗りすぎた。イケメンだから何だって許されると思うなよ。くっ」

「恋する乙女も、まんざらじゃない感じが嫌だぁ」

「ちくしょー、大和め。覚えておけ。我らの怒りを思い知れ」

 

 猛はあと半年以上もこの教室で無事にやっていけるか、本気で心配になった。

 

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