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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第1部:咲き誇れ、大和撫子!
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第29話:……まずいことになった

 

 翌朝、制服に着替えようとしてた時のことである。

 

「おはようございます、兄さん」

「あぁ、おはよう。昨日は雨だったけど、今日は晴れたな」

「夜の間だけだったようです。雨がやんでくれたのは幸いでした」

「そうだな。学校に行く前に濡れるのはノーサンキューだ」

 

 身支度をしながら、彼は「あれ、俺の制服は?」と探す。

 いつものハンガーにかかっていない。


「それなら、こちらでお預かりしていました。どうぞ」

「ありがと。あっ、もしかして?」

「えぇ、制服のボタンが取れかけていたので、つけかえておきましたよ」


 別のハンガーにかかっていた制服を手渡してくれる。

 少し前からボタンが緩んで気になっていたのだ。

 それを撫子が直してくれていた。


「気になって、お願いしようと思っていたんだ。すごく助かるよ」

「いえいえ。兄さんの妻としてこれくらいは当然です」

「ホントに助かる。さすが俺の可愛い妹だ」

「……しれっと私の発言をスルーして妹扱い。ひどい人です、ぐすっ」


 あえて突っ込まない方がいいこともある。

 制服に着替えた猛は「ごはん、食べよう」とリビングに移動することにした。

 何の疑いもなく、直してもらった制服を着た。


「……ふふっ」


 なぜか微笑する撫子。

 キレイに直された制服。

 その時、猛は撫子があることを画策していたことに気づかなかった。

 

 

 

 

 リビングのテーブルでは雅がすでに朝ごはんを食べていた。

 お気に入りのジャムをたっぷりと塗ったパンを口にして満足そうだ。


「おはよー、ふたりとも」

「うん、おはよう。今日はゆっくりめのご飯だね?」

「うふふ。その理由を聞きたい?」


 いつもなら大学に行くために彼女は少し早めに家をでる。

 この時間までのんびりしていることは少ない。

 彼女はふたりに見せつけるように、あるものを前に出す。

 四角いカードのようなものである。


「じゃーん。ついにこれを取りました」

「それは……?」

「もしかして、車の運転免許証ですか?」

「そうだよ。無事に試験に合格してゲットしました」

「車は? うちのアレを使うのか?」

「愛するお父さんが車も買ってくれました!」


 以前から免許を取りたいと頑張っていたのは知っていた。

 無事に免許証も取り、車も買ってもらったようだ。


「……ちなみに、本来のお父さんの車には触らないでとお達しが。高級車なので、下手に傷つけるととんでもない額の支払いになります。絶対、ダメだって」

「保険代も高いって聞くぞ」

「そのために新しい車をもらったのです」

「ちょっと見てくるよ。車庫にあるんだろ」


 興味津々の彼は車庫の方へと見に行った。

 その間に二人分の朝食を撫子は用意しながら、


「どういう車を買ってもらったんですか?」

「新車の軽自動車だよ。可愛いピンク色にしてみました」

「……姉さん、派手な色では傷つけた時にすぐにバレますよ?

「き、傷つけた時のことを考えさせないでぇ」

 

 買ってもらったのは良いが、もしもの時は自腹の支払いが待っている。

 扱いには要注意というわけだった。

 車庫に車を見てきた猛はなぜか顔を引きつらせていた。


「やばい。ものすごくショッキングピンクの車だった」

「それがいいんじゃない。可愛いでしょ?」

「あれだけド派手だと壊した時にすぐばれるぞ? いいの?」

「な、撫子と同じことを言わないでぇ!?」


 初心者は傷つけることを前提に車を買わなければいけない。

 新車など与えられるのはまだ時期尚早だと思われる。


「ぐすっ。お姉ちゃんを信頼してください。気を付けますよ」

「でも、いいですね。これでわざわざトイレットペーパーや重い荷物を買う時に、お母さまがいる時でなくとも利用できて、便利になります」

「でしょう? 私も頑張りました!」

「ただ、姉さんの場合はすぐにポカをするので気を付けてもらいたいものです」

「信頼してよ。そうだ、今日は二人を学校まで送ってあげよっか?」


 撫子と猛はふたりして顔を見合わせると、


「そうだ、もうすぐゴールデンウィークですね。兄さん、デートを楽しみましょう」

「どこか行きたいところでもある?」

「少し考えておきます。楽しみですよ。早く休みになってほしいです」

 

 さらっと話題を変えて、誤魔化そうとするが。


「ほらぁ、ふたりとも。さっさとご飯を食べて。行く準備をしてください」

「……い、いや、今回はご遠慮をさせてもらいたくて」

「遠慮なんていいよ。私たち、姉弟じゃない。弟は姉に甘えまくっていいんだよ?」


 有無を言わさない微笑を浮かべられてしまった。


――に、逃がす気がないぞ、この人は!?

 

 アイコンタクトで撫子に助けを求めるも、


「諦めましょうか」

「えぇ!? あっさりと諦めちゃった」

「姉さんが乗り気です。もう止められませんよ」

「……マジか」


 こういう姉には逆らえないとよく知っている。

 なんだかんだで3姉弟の中で一番の権力者なのだ。


「大丈夫、大丈夫。安心の安全運転で行くから。えっと、アクセルは……停止?」

「それはブレーキだ! もう一回教習所からやり直して!?」

「冗談よ、冗談。ちょっと意地悪をしただけです。私の運転を見せてあげるわ」

「やめてくれぇ。やめぇろぉー」


 そして、彼らは思い知る。

 姉の運転はジェットコースターよりも恐ろしいものであった、と――。

 

 

 

 

 昼休憩の教室は間近に迫るGWの話題で持ちきりだ。

 旅行に行く予定や、何もなくただダラダラと過ごすだけのもの。

 人によって予定は様々だ。

 友人の修斗は「どこにいこうか悩み中なんだよ」と猛に呟いた。


「せっかくだし、遠出くらいしたよねぇ」

「優雨ちゃんはどこか行きたいって場所でもあるのか?」

「私的には夢の国に行きたいんだけど」

「人が込みすぎて嫌になるのが分かってる時期に行かなくてもいいだろ」

「修斗が全然つれなくて。ぐすんっ」


 優雨と修斗は付き合いが長い分だけ、お互いを分かり合っている。

 

――いい恋人だよな。ある意味で理想的だ。


 喧嘩もするが、すぐに仲直りしている。

 いつだって自然体でいられるのが羨ましい。


――恋人同士、堂々とデートできるのはやっぱりいいよなぁ。


 自分たちには無理なので、余計にいいなぁと思えた。


「そーいう、大和はどうする予定だ?」

「撫子と出かけようかなぁって」

「……相変わらず、妹さんとデートなのねぇ。ふぅ」

「優雨ちゃん、その寂しい目はやめて」

「せっかくのイケメンが無駄遣いだもの」


 ひどい言われようだった。


「まぁ、いいんじゃないか、あれだけ愛されてるんだ」

「そうだねぇ。思う存分にラブラブしちゃえば?」

「それでシスコン扱いされないならね」

 

 ふたりは同時に「それは無理」と断言した。

 悲しいかな、友人たちも無理なものは無理という。


――理解されすぎても困るけどさぁ。


 はっきりと言い切られるのも普通に辛いものがある。

 

「ちくしょー。ですよね、分かってるよ」

「猛君。例え、シスコンと呼ばれても愛を貫き勇気を持ちなさい」

「持ってないよ、そんな勇気。いくらで売ってるんだよ」

「勇気はお金じゃ買えません。でも、猛君は開き直ったら怖いかも?」

「そうだな、やるときはやる男だと俺も思ってる」

「これは猛君が本気になる日は近いかも?」

「どんな期待をされてるのやら。本気になる日はないから」


 肩をすくめながら苦笑いをするしかない。


「俺は撫子を妹として可愛がってるだけなのですよ」


 ふたりのことは信頼しているが、自分の想いを告白はしていない。

 本気で妹が好きだと言ったら、さすがに彼らも変な顔をするだろうか。

 気にしないで受け止めてくれるかは、分からない。

 だからこそ、秘密にしているのだった。


「他の子と出かける予定は?」

「連休中に一日だけ、旧友との再会を予定している。それくらいかな」

 

 以前から、たまには会いたいと思っていた相手と会うことになっていた。

 別の学校に通っているので、こういう機会でしか会えない。

 

「その方は女性?」

「一応ね。でも、別に何の恋愛要素もない方ですよ」

「……怪しい。修斗もそう思わない?」

「どうだろうな。大和には大和の事情があるんだろう。こいつはモテ男だからな」

「そっちの意味かよ。ないよ、変な事情なんてなにもありません」

「これは……黒だね」

「根拠もなく言わないでね、優雨ちゃん」

「女の勘だよ。こういうのはよく当たるんだから」


 実際、何もない。

 昔なじみで仲良くしていただけである。


――あの子相手に変な感情を抱くこともないし。


 女子でありながらも女子扱いしていない。

 広い意味でいい友人関係なのだ。


「……素直に認めましょう。浮気してるね?」

「その場合、誰が本命なの?」

「もちろん、撫子ちゃん。シスコンさんだもの」

「やめようか。いろんな意味で俺が変態扱いされてる気がする」


 下手な言い訳にしかならない言葉を並べていると、


「……ねぇ、大和君。ちょっといい?」

 

 クラスメイトの女の子がある事を尋ねてきた。

 

「いいけど? 何かあった?」

「今、さっき、妙な話を聞いたんだけど」

「妙な話って?」

「大和君の生徒手帳には妹の撫子さんの写真が入ってるってホント?」

「……はい?」

 

 思いもよらない、ふってわいた話にフリーズしかける。

 

「何だよ、それって……?」

 

 言いかけて、猛は固まった。


――生徒手帳に写真……どこかで聞いた覚えが? 


 頬を伝い、冷や汗がつーっと流れていく。

 

「ち、ちなみに聞くけど、その話の出どころってもしや?」

「うん。撫子さん、本人が言ってたよ?」

「マジかぁ!?」

「猛君の生徒手帳の中にはある秘密があるんだって。ホントなの?」

 

 彼は先日の彼女のある言葉を思い出していた。

 

『私の小さな頃の写真でも生徒手帳に挟んでおけば、兄さんは『ロリコン&シスコン』という不名誉な称号を与えられて世間から冷たい目で見られるでしょう。兄さんの人生をどうにかしてしまう、確実な方法ですよ』

『マジでやめて!? 俺の人生、詰んじゃうから』


 そんなやり取りをした。

 ただ、あれは冗談の類で済むはずだったのに。

 

――あ、あれかぁ!?

 

 まさかの現実に。


――撫子がやりおった、とんでもない事をしてくれた。


 先日の恋人ごっこの告白がよほど不満だったらしい。


「あ、あわわ……まずいことになった」


 撫子の逆襲、問答無用の制裁が迫る。

 猛に牙をむく、恐怖の一撃。

 この危機を彼は乗り越えることができるのだろうか――。

 

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