第13話:私にも考えがありますよ
話が脱線し続けるので猛が強制的に話を戻す。
これではいつまでたっても終わらない。
「ふたりの意見の相違ということで。もうひとつは?」
「結婚っていうのは家と家の繋がりや関係を広げるためのものでしょう」
「お母様は政略結婚をしろと兄さんに言われるのですか?」
「そうは言ってない」
「確かに四季家は良い家柄のようですが、大和家のために兄さんを利用すると?」
「でも、結婚の意味合いは本質的にはそういうものでしょう? 家同士の結びつきを強くするため、関係を広げるためのものでしょう」
「なるほど、お母さまも旧家の生まれでしたね。そんな古臭い考えが魂にまで染みついてしまっているようです。哀れです」
「ふ、古臭いですって」
「時代遅れのそういう考えですから、私とは……いたっ!?」
撫子の頭を小突いたのは母ではなく、彩葉だった。
いきなりデコピンをされて彼女はきょとんした表情を浮かべる。
彩葉はたしなめるように、
「ナデシコ。そう言ういい方はよくないよ。自分の母親でしょう?」
「な、なにをするんですか」
「アンタ達、親子の問題にアタシが踏み入るべきではないけど、母親に対する言葉は選んだ方がいい。子供なんだから」
「貴方には関係のないことです」
「関係あるよ。だって、アタシはタケルの婚約者候補だし」
「お母様が勝手に決めたことです。私は認めていません」
そういわれると、彩葉が軽く猛に抱きつくそぶりをして、
「そんなにつれないことを言わないでよ。今日から一緒に住むわけだし」
彼女の発言に思わず「は?」と素で撫子は驚いた顔をする。
「あれ、何も聞いてないの?」
「ごめん、彩葉ちゃん。ふたりには言い忘れてたわぁ」
わざとらしい口調で優子は撫子に向かって言い放つ。
「今日から彩葉ちゃんがこの家に暮らすことになるから。仲良くしてあげてね?」
「な、何ですって!?」
「あはは。今の生活は終わりだわ」
「どういうつもりですか!」
憤る撫子は今にも母につかみかかりそうな勢いだ。
母から宣戦布告、それは親子戦争の口火を切る行為。
「――もう撫子の好きなようにはさせない、ということよ」
そして、それは猛と撫子を巻き込んだ、波瀾の幕開け――。
「彩葉さんがここに住むですって?」
「そう。この子の家族はイギリスに行ってしまってね。でも、彩葉ちゃんは海外なんて行きたくなくて日本に残りたいと思ってた」
「そこで優子さんから提案をされたのよ。タケルとの婚約者になれば、日本に残れるって。住む場所も大和家で暮らせば問題ない。アタシにとっては素敵な提案だよね」
「……な、なんでそうなるんですか」
やられた。
今回という今回は、完全に彼女にしてやれた。
今のふたりの関係を支えているのは、ここでの暮らしだ。
母に邪魔されず、同じ時間を過ごす幸せ。
その幸せを奪われることは大ダメージとなる。
「私は認めませんよ。この家に他人を住ませるなんて」
「それを決めるの撫子じゃないわ。例え、婚約問題がダメだとしても、彩葉ちゃんは高校卒業までこの家で暮らしてもらうことになる。そういうことだから」
「私と兄さんの二人っきりの生活を邪魔する。そのための手段を選ばないわけですか」
「あくまでも、婚約者候補としての方が私しては優先順位が高いわ。こちらはおまけみたいなもの。ただし、それが撫子には効果的だとも思ってる」
嫌味っぽい笑みを浮かべつつ、
「赤の他人が家にいれば、雰囲気だって変わるものでしょう。今まで通りにはいかなくなるし、間違いなく“一線”なんてこえられない」
こんな方法でラブラブな雰囲気をぶち壊してくれた。
同棲生活の解消。
効果的なダメージを与えてくれる。
顔を引きつらせて、怒りに震えていた。
「自分の我が儘のためならば、他人さえも利用する。それが貴方のやり方ですか」
「えぇ。何度でもいうけども、私は猛と撫子の関係を認めない。貴方達の関係をぶち壊せるのなら何だってするわ。手段も選んでいられない」
母をここまで追い込んだのは関係が進展しすぎたからだ。
これ以上の進展は後戻りできなくなると焦った結果だろう。
「なるほど。そういう事なら私も容赦はしませんよ」
「な、なによ……?」
「後悔しています。家族だからこそ、傷つけたくなかった。そんな甘さなど捨てて、さっさと貴方にトドメをさしておくべきだったんです」
仕留め損ねた相手に一撃を加えられたような感じ。
「私の甘さが、今回の無駄な抵抗をさせてしまったのですね」
携帯電話を取り出して、連絡を始めた。
相手は彼女の父親だった。
「お父様、私です」
『……撫子か。電話の理由はわかってる。婚約者の問題だな?』
「えぇ、婚約者の件で現在、非常に大和家の雰囲気が悪くなっています。この件はお父様も了承していると思ってよいのでしょうか?」
『優子にも優子の意地があるのだろう。僕はこの件に関してはノータッチだ』
「お父様。自分の息子の将来を決めることです。ご都合主義で、我関せずという態度をとられるのも困ります」
『でも、猛の将来としても悪くない話だと思うんだぜ』
撫子と結ばれる、というのも理解はできる。
だが、別の未来も選択肢として考えてみるのはどうだろうか。
親としては様々な可能性を選択肢として与えてあげたい。
「なるほど。お母様の好きなようにさせるつもりは変わりませんか」
『今回の件に関していうのならば、な』
「そういう態度ならば、私にも考えがありますよ?」
撫子にも意地がある。
ここまでコケにされて何もしないではいられない。
「お父様。二年前の”銀座の件”をお母様にお話をしてもいいですか?」
『――そ、それはっ!?』
「私が何も知らないと思っていたら大間違いです。あの件に関しての証拠は私の手元にあります。貴方を滅ぼすだけのね」
『な、なんで……!?』
「これ以上、私の邪魔をするつもりならば、誰であろうと敵対行動をとります」
『な、撫子、待ちなさい。あの件は、いや、あれは誤解だ。決して僕が……』
「お父様、曖昧な態度で傍観者を気取られるのも結構ですが、誰の味方につくのが利口なのかもよく考えておいてください。娘の本気をなめないでもらいたいですね」
あからさまに父が電話の向こうで動揺していた。
「もう一度だけ言います。誰の味方であることがご自分の利になるか、ご自分の立場も含めて考えてください。可愛い娘の味方をする方が利口だとは思いますよ」
誰しも弱みというものは存在する。
人に知られたくない秘密。
「覚えておいてください。この家族を壊せるのは私の気分次第だということも」
『娘が怖い、娘が怖いよ』
「将来の首相候補の道も閉ざされたくなければ、私の邪魔を二度としないでもらいたいですね。お父様も、賢い選択をしてください」
電話越しに威圧感を込めてささやく。
目的のためならば、自分の父親でも平然と脅迫する娘である。




