第21話:それって、デートのお誘い?
恋人ごっこをはじめてから1週間が経過していた。
一緒にいる時間を増やしているだけでも十分に楽しんでいる。
今日は球技大会だった。
男子はサッカーとバスケットボール、女子はバレーとソフトボール。
クラス対抗、学年を超えての対決に熱く盛り上がっていた。
猛はバスケに参加して、2年生のクラスと試合をしていた。
体育館を駆けてゴールめがけてボールを放つ。
「あと一本、大和決めろ!」
「任せておけって」
見事にそれが決まり、二回戦を勝利で終えた。
「よしっ。これで二勝目。あと何勝で優勝?」
「それより次は3年のクラスが相手だぞ。優勝候補って噂だ」
「マジかよ。ジャイアントキリングしちゃおうぜ」
「……少し間があるな。ちょっと休憩してくる」
「おぅ。次も期待してるぜ、大和。しっかり休んでこい」
次の試合まで休憩でもしようと、中庭に出た。
球技大会なので体操服姿の生徒があちらこちらで休んでいる。
「おや、淡雪さんも休憩中?」
「猛クンじゃない」
「こんにちは。天候には恵まれたけど、外は暑いくらいだね」
中庭のベンチに座り、くつろいでいる淡雪を見つけたので声をかける。
体操服姿の彼女はのんびりとした様子でひとりだった。
「そっちの調子はどう?」
「んー。私達のチームはあっさりと負けてしまったの」
「それは残念だ」
「私もそんなにスポーツができる方ではないし。ソフトボールは難しいわね」
そう言って苦笑いする彼女。
こういう機会でもないと馴染みがないスポーツだ。
さすがに慣れないスポーツだと勝ち上がるのは大変だろう。
「バレーの方はうちのクラスも勝ち上がってるみたいだよ」
「あちらは中学までバレー部だった子が何人もいるもの。今年、バレー部に入る子もいるようだから、いいところまでは行けるんじゃないかしら」
「女子たちの奮闘に期待しよう」
残念ながら負けてしまえば、応援だったり、こうして自由にくつろいだりと球技大会も過ごし方が変わってくる。
自由時間を作りたいからとわざと負けたりすることもあるそうだ。
あいにくと、猛たちのチームは勝利しか考えていないが。
「猛クンはバスケだったわよね」
「さっき2回戦を勝ち抜いたところさ。一応、順調に進んでいるよ」
「そうなんだ。それなら、次は猛クンの試合を応援するわ」
「それは皆も喜ぶよ。淡雪さんに応援してもらえたらやる気も違うだろうし」
彼の言葉に彼女は少し照れながら、
「それじゃ、猛クンも喜んでくれる?」
「もちろん。俺もカッコ悪い所は見せられないな」
「くすっ。男って感じがするわ。頑張ってる男の子はカッコいいわね」
喉が渇いたので自販機で飲み物を買う。
スポーツ飲料のペットボトルに口をつけて水分補給する。
「次の試合はどこのクラスと対戦するの?」
「3年生のクラスだよ。優勝候補らしくて、厳しい戦いになりそうだ。そろそろ強いチームばかりになってきてるから油断はできないな」
「それは大変そう。バスケットボールは猛クンも経験あり?」
「中学の時、昼休憩によく友達と遊んでいた程度さ。それでも、バスケは好きだからやってると楽しいんだよね。さすがに部活に入るほどじゃないけどさ」
「猛クンは身長も高いから、そういうスポーツには向いてそうね」
身体を動かしてスポーツするのは心地がいい。
彼女と話していると時間が経って、やがて試合の時間がきた。
体育館には先ほどよりも多くの観客が集まっている。
「賑わいがすごいな?」
「俺たちの快進撃を聞いて、女子たちが来てくれたのさ」
「実力を見せてやろうぜ」
「今こそ、女子の好感度アップ!」
男子たちの士気もかなり向上している。
試合前、猛に淡雪が声をかけてきた。
「頑張ってね、猛クン♪」
「ありがと。見ていてよ、淡雪さん」
その声援に猛は軽く手を挙げて答える。
すると、周囲の皆は驚いた顔を見せながら、
「やっぱり、あの二人って付き合ってる? 」
「ちくしょう、大和め。あんな美人と恋人なんて羨ましい」
「俺もあんな綺麗な子に声援してもらいたいぜ」
チームメイトの嫉妬交じりの声。
それを煽るように他の女子たちも声援をあげる。
「大和君、私達も応援してるからねぇ」
「今度もカッコいい所を見せて!」
「次の試合に勝てば、準決勝だよ。勝ってね」
こういうのって男としてはちょっとうれしい。
「な、なぜだ、大和だけ。バスケはチームプレイなのに」
「こんな不公平なことがあるのか、イケメンは許さん」
「くっ、このリア充野郎め。いい所どりかよ」
「決めた。大和、お前にボールは渡さんぞ」
「そうだ、そうだ。大和に見せ場はやらんと決めたのだ」
「お前ら……試合にならないからそれは勘弁してくれよ」
逆にチーム内の不協和音を招いてしまい、困ったことになった。
試合は苦戦をしながらもチームの勝利。
そのままの勢いで勝ち進み、決勝戦まで進んだのだった。
その日の帰り道、駅まで一緒に淡雪と帰っていた。
「猛クンって女の子に人気なのね。あれほど人気があるとは思ってなかったわ」
「人気って言うほどのことじゃないよ」
「謙遜することはないわ。猛クンの事を私が気に入ったように、皆も貴方を気に入ってる。今日の球技大会中に貴方を応援してる子を見てそう思ったの」
女の子に応援されるのは嬉しい反面、他の男子の反発を招いてしまった。
――チャンスの場面でパスボールが少なかったのは偶然だと思いたい。
昔から彼は男子から嫉妬されて友達が少ないのである。
彼女は「試合、惜しかったわね」と慰めてくれた。
結果、球技大会は準優勝と言う結果に終わった。
あと一歩、届かなかった。
「良い所までは行ったんだけど、負けてしまった。悔しいな」
「相手は現役のバスケ部員だったんでしょう?」
「あぁ、レギュラーが何人もいたらしい。さすがにずるいぞ」
圧倒的な力の差もあり、かろうじて試合になっただけマシだ。
「素人の一年生相手に苦戦していたら、そっちの方が問題だろ」
それでも、試合結果に見込みがあると思った生徒がいたのか、終了後に部活の勧誘を何人かされていたりした。
「猛クンは部活に入らないの? 勧誘されていたでしょう?」
「バスケは好きだけども、そこまで踏み切れなくてね」
「もったいない」
「どうにもチームプレイと言うのは苦手なんだよ」
軽く肩をすくめながら彼は答える。
部活動をするほど、本気で何かに取り組んだことはない。
「中学時代に何か部活をしていなかったの?」
「何もしてないよ。淡雪さんは?」
「私の場合は習い事が多くて。お茶にお花に、その他いろいろ」
「旧家のお嬢様も大変だ」
「好きでやってるところがあるから。ただ、妹は興味がなさ過ぎて」
「妹さん?」
「そう。同じ習い事をしていても、サボることばかりを考えてる」
困った妹なのだと苦笑い。
興味がないことを無理にさせてもしょうがない。
「お互いに妹には苦労しているようだね」
「猛クンも?」
「うちの妹は、少しだけ性格に難があってさ」
どこがと具体的に言うのははばかられた。
言葉を濁して話題を変える。
「それより、今度のGWなんだけど……」
思い切って彼女に言う。
「恋人ごっこ、と言うからにはそれっぽいことをしたいわけだが」
「……それって、デートのお誘い?」
彼女に対して猛は顔が赤くなりそうなのを堪えながら、
「以前から考えてたんだけど、どうかな?」
「もちろん、いいわよ。私、男の子と遊びに行ったことがないの。すごく楽しみにしてる。私を楽しませてね、猛クン」
そう言って微笑んだ彼女。
猛はいつしか心惹かれている自分がいるのに気付き始めていた。




