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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第7部:水鏡に映る夏空
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第22話:朝陽ってば小さな頃からダメダメじゃん


 お風呂あがりの朝陽の日課。

 お気に入りのアロマキャンドルに火をともして、その香りを楽しむ。

 リラックスした状態でお布団に入ると翌朝までぐっすりと眠れるのだ。


「いい匂い~」


 相変わらず、心を癒される香りがする。

 ふんわりとした香り、ゆらゆらと小さな炎が揺らめく光景。

 朝陽の一日の終わりを締めくくるリラックスタイム。

 のんびりまったりしていると、携帯電話が鳴るのに気付く。


「んー、どなた?」


 電話を手に取ると「乙姫お姉様」と表示されていた。


「お姉ちゃんだ!」


 ちなみに朝陽が登録した名前でなく、乙姫に無理やりされたものである。

 この姉妹の絶対的な立場関係を改善したいお年頃。


「はいはい、可愛い妹ですよー」


 朝陽が電話に出ると、すぐさま冷たい反応と共に、


『間違えました。私が電話をしたのは可愛くない妹だったわ』

「可愛くない妹ってなに!? お姉ちゃんには可愛い妹しかいません!」

『自分で自分を可愛いって言う女って信用できないわよねぇ』


 朝陽を小バカにするような態度。

 乙姫らしい返答に朝陽は「ぐぬぬ」と唸るしかない。


「で、何用ですか?」

『私、今は彼氏とラブラブの旅行中なんだけどさぁ』

「知ってるよ。まったくもって羨ましいね、ちくしょー」


 乙姫は同じ医大の先輩と付き合っている。

 

――パパからも気に入られて、将来を任せられてるお人なのです。


 ホント、羨ましすぎる順風満帆の素晴らしい人生を送っておいでの様子だ。

 

『その旅行先の温泉地で、温泉卵に顔のついた“ゆるキャラ”がいたの』

「そうなの? どんな子? 可愛い? あと写真で送って」

『まんまるとした姿の“ゆるキャラ”を見たら、似たような妹の顔を思い出して』

「だ、誰がまんまるだぁ! 私はそんなに丸くないっ」


 ゆるキャラで思い出されるのは不本意である。


――ぽちゃ子じゃなーい! 胸は大きくても、体重は軽い方です。


 膨れっ面をする朝陽は抗議する。


「そんな思い出しのされ方は嫌だぁ。可愛い実妹をたまには普通に思い出してよ」


 ぐすんっと拗ねると姉は「はいはい」と適当に朝陽をなだめる。

 ホントにひどい姉ですね!

 

『アンタの方はどうなのかなって思って電話してみたんだけど』

「私の方? うん、田舎暮らしを満喫中です」


 旧友との再会。

 いろいろと辛い思いもしたが、初恋相手との想いが再燃してみたり。

 それなりに楽しんでいるところだ。

 

『アンタのことだから、昔の友達に顔を忘れられてたりとか。そんな子いたっけ、みたいなことで傷ついてないかと、姉として心配になったわけで』

「ぐさっ!?」


 ちょっと心の傷に塩をぶちまけられた気分だ。

 

――似たような展開です。今も友達から嫌われてますけど!


 素直に認めたくない。


「そんなことない」

『ホントに?』

「……本当です。決して、私の片思いではなく両想い的な友達関係でした。ちょっと憧れてた男の子からも意地悪されてるけど、少しずつ関係も改善してます」


 寂しそうに告げると姉も「そ、そう」とそのネタを続けるのはやめてくれた。

 こんな姉でも地雷だと思う発言には遠慮してくれる配慮があるのだ。


「ただ、私ってホントにダメだなぁって思うことはある」

『どんな風に?』

「今日も料理を作ったんだけど、すごくマズかったです。才能なさ過ぎて泣く」

『なんて無謀な。だって、昔から包丁を持たせると怪我しかしないじゃない』


 だから、母親も朝陽には料理をさせてくれなかった。


『箱入り娘のお嬢様が料理なんて無理。無謀。無茶。諦めなさい』

「ですよねぇ。でも、やれば出来ると思ったんだもの」

『人は空を飛べない。できないことはしない方が身のためよ』

「そのレベル!?」

『単独で人が空を飛べる未来はいつくるのかしら』

「私が料理スキルを手にするのは不可能を可能にするレベルかぁ!」


 携帯電話越しに姉に抗議する朝陽でした。

 朝陽はごろんっとお布団に寝転がりアロマを眺めながら、


「……お姉ちゃん。私ってダメダメよねぇ」

『そうねぇ。私の妹は可哀想なくらいダメで、その哀れな人生を悲観してるわ』

「ぐすっ。妹としてたまには優しくフォローしてもらいたいときもあるのです」


 いじめてばかりいないで、慰めてもらいたい。

 

――あんまりイジめると妹、本気で拗ねますよ。


 自分のダメさ加減には気づいてるからこそ、フォローを願いたい。

 

『だって、朝陽ってば小さな頃からダメダメじゃん』

「そんなことないよ。あと、顔が見えないからってストレートに言い過ぎです」

『生まれてきたときからダメダメな人生を送ってるのに。何を今さら』

「それ本気で言い過ぎっ! 私、ホントに傷ついてるんですけど!」


 生まれてきたときからダメって言うのはさすがにないはず。


「小さい頃はさすがに人様に迷惑もかけない子でした!」

『……それは自分を客観的に知らなさすぎ』

「ぐぬぬ。例えば、どんなことをしましたか?」


 朝陽が小さな頃からダメだった証拠を教えてほしい。

 実妹の幼少時代は無邪気で可憐な少女だった記憶をぜひ思い出してもらいたい。


『例えば? アンタ、小さな頃によく眠れないからって私や政宗兄さんの布団の中にもぐりこんできたわよね。人の身体をいいように抱き枕にしてくれたわ』

「だって、ひと肌って安心して眠れるんだもん」

『それだけならまだしも、“おねしょ”までしてくれて。私と兄さんがどれだけ迷惑したか。妹がお布団に潜り込むときは要注意したものよ』

「んぎゃー!? やーめーてー。人の恥ずかしい過去を暴露しないで」


 最悪な思い出話はしたくない。


『アンタって小学校の半ばまで“おねしょ癖”が直らなくて困らせてたわよねぇ』

「そ、そんなことはないです! すべて捏造です」

『嘘だぁ。いい歳までおむつをさせられかけて……』

「もうやめてぇ!? 私はダメな子でいいから。もういいです」


 お布団の中で転げまわりながら羞恥プレイに苦しまされる。


『まぁ、そんなこともあったなと思いだしたら良し』

「全然よくないです」

『あら、他の話もしてあげましょうか?』


 姉からの言葉の暴力が携帯電話を通じて朝陽の耳に伝わる。


『末妹の我がままで私達のお菓子が常に横取りされてました』

「はぐっ!?」

『テレビが見たいと言ってチャンネル占拠は当たり前。人様の迷惑なんて考えもせず、自分のやりたいことばかりやって、他人を顧みることや反省すらもなし』

「きゃんっ」


 姉の辛辣な言葉が胸に突き刺さりすぎて死にそうだ。


『まったく両親共に可愛い末妹には甘く優しく、箱入り娘のように育てたおかげで、どうしようもなく甘ったれたバカ娘になってしまいました』

「反論すべきこともございません、ごめんなさい。。ふふふ……どうせ、甘やかされまくった私なんてダメダメな人生しか送れません」

『……今さらじゃん。アンタの人生、甘やかされ過ぎて砂糖過多状態なんだから。ちょっとばかり苦しくなっても、それが普通だって思えないんだもの』

「ですよねぇ」


 大変ご迷惑をかけてしまいまして、申し訳なく思っている。

 小さな頃から家族には甘えに甘えまくってしまっていました。

 

『と、まぁ、朝陽はどうしようもないダメ女子なのだから今さらどうしようもない』

「そこを何とか改善したいと思ってるのですよ」

『……変わりたいねぇ? アンタがそう思うのも変化なのかしら』


 この村に来てほんのちょっとでも前に進もうとしている。

 朝陽の変化に姉は姉らしい言葉を投げかける。


『変わりたいのなら、まずはその甘え根性をどうにかしなさい』

「はひ」

『あと、変えてくれる人物に出会えることかな』

「出会うこと?」

『私も今の彼氏と出会って随分と人に優しくすることを覚えられた気がする』


 それ、絶対に嘘です。

 思わず出かかった言葉を飲み込んだ。


『……何か言いたい事でも?』

「いえ、ありません。私のお姉様は常に優しく、見目麗しく、素晴らしいお人だと憧れて、崇め奉っております。なので、これ以上、攻撃しないで」

『調子のいいことを言う妹ね。とにかく、変化はいい傾向じゃない? 今度、会う時までにはもう少し良い女に成長してることを望んでるわ』


 変わりたい。

 こんなダメな自分から卒業したい。

 そんな自分を変えるチャンスが今だとしたら。

 そして、その自分を変えてくれる人がこの村の友達だとしたら。

 

「こんな私でも変われるのかな」

『……結局はアンタ次第よ。頑張りなさい、甘ったれ娘』


 乙姫は最後に笑ってそう言った。

 電話を切って、朝陽は寝転びながら天井を見上げる。


「はぁ。私、何がしたくてここに来たんだっけ?」


 原点回帰。

 自分がダメなのは分かっている事。

 大学進学に失敗して、何もすることも見つけられずに停滞していた。

 それを変えたくてここにきた。

 皆と会えば何かが変わるかもって期待もしていた。

 

「……沙羅ちゃんとも仲直りができたりするのかな」


 朝陽は大事にしている彼女からのプレゼントを取り出す。

 手作りのブレスレット、親友の証だともらったものだ。

 

「親友として、やり直すために。自分を変えるために」


 今の朝陽がしなくちゃいけないのは、前へ進もうとする意志を持つこと。

 アロマキャンドルの炎を消しながら、明日に備えて眠ることにした――。

 

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