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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第7部:水鏡に映る夏空
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第19話:好きな子いじめは良くないぞ


 緋色の母親、名前は日暮奈保(ひぐれ なほ)。

 朝陽にとっては小さい頃を含めて初対面なので少し緊張する。


「それで、緋色。この可愛らしいお嬢さんはどなたかしら?」

「都会から来たダメ女」

「ちょっと言い方! 事実だけど、傷つくから!」

「……ダメ女なのは否定しないんだぁ。素直な子だわ」


 苦笑い気味の奈保。

 

「だって、事実ですから。初めまして、大和朝陽と言います」

「大和? もしかして、あの神社の隣にあるお屋敷の?」

「そうだよ。こいつが例のお嬢様。都会から寂れた田舎をバカにしにやってきた」

「別にバカにしにきたんじゃないやい!」

「違うのか? 違わないだろ」

「違いますぅ。緋色はいろいろと性格歪み過ぎ!」


 どうして、こんな風に意地が悪いのか。

 

――もうっ、ちょっと見直したと思ったらすぐこれだもん。


 膨れっ面をする彼女に奈保は笑いかけながら、


「とりあえず、朝陽ちゃん。席に座って。はい、どうぞ」


 彼女が取り出してくれたのは温めのお手拭きタオルだった。


「目が少し赤い所を見ると泣いてた?」

「……ちょっとだけ」

「嘘つけ。号泣だっただろうがよ」

「うぐっ。緋色はお口にチャックして。あのことをバラすよ? いいの?」


 さすがに親の前で例の話をされるのはキツいはず。

 彼はちっとあからさまに舌打ちして不機嫌な態度をして見せる。

 

「あのこと? 緋色、よそ様の娘さんに何をしたの?」

「気にしないでください。くっ、お嬢め。とっとと顔を拭け」

「はいはい」


 そのタオルで目元に当てると気持ちがいい。

 奈保は朝陽の顔と緋色の顔を見比べながら、


「なるほど。分かったわ。朝陽ちゃんを泣かせた犯人は緋色ね?」


 緋色はすぐさま「違う」と否定するが聞く耳持たず。


「この子、昔から女の子を泣かせるのが好きだから」

「人聞きの悪い噂を流すんじゃない。誤解させることを言わないでくれ」

「まさか……子供ができたのに緋色が認知してくれないとか、そんな話?」

「だいたい似たようなものです」

「違うわっ!?」

「緋色……アンタ、ホントに?」

「似てるどころか全く違からな。このお嬢といつそんな展開になった」


 呆れた緋色が朝陽からおしぼりを強引に奪い取る。


「お嬢、あんまり冗談がすぎるとイジメるぞ」


 そのまま彼女の顔をぐいぐいと乱暴にタオルで拭ってくる。


「す、すでにやってるよね。や、やめれ、メイクが落ちちゃう」


 照れ隠しだとしても乱暴にされると痛い。


「こら、緋色。好きな子いじめは良くないぞ」

「さらに誤解だ!」

「ホント、昔から気に入った女の子には悪戯ばかりする悪い癖なんだから」

「……ちげぇし。別にそんなことしてねぇよ」


 それは図星だったのか、緋色は視線を逸らせた。


「で、冗談はおいといて。ホントにうちの息子が何か悪行を?」

「してないです。ちょっと助けてくれただけです」

「そうなんだ? この子が誰かを助けるなんて珍しい」

「ひでぇ言われようですな」


 緋色にこれだけ言いたい放題なのはやはりお母さんといった所なのか。

 彼もエプロンをつけて、お店のカウンターに入って準備をする。


「母さん、その話はどうでもいい。こいつにランチを作ってやってくれ」

「ランチセットね。朝陽ちゃん、カルボナーラとオムライスのどちらがいい?」

「オムライスで。私、大好きです」


 このお店のランチタイムは奈保が仕切ってるらしい。

 何でも料理上手で、味の評判もいいんだとか。


「ランチタイムは母さんの出番だ。俺はコーヒー専門だからな」

「そっか。お店をするのも大変そう」


 言われてみれば、軽食程度はメニューにもある。

 奈保が調理をする姿を後ろから眺めながら、


「緋色は料理しないの?」

「できない事もないが、店に出すレベルじゃない。母さんは昔からこの店の料理担当だったからな。親父が亡くなった後も続けてもらってる」

「私としては、そろそろ自由になりたいんだけどなぁ。料理くらい覚えてよ」

「アンタが無駄に若作りしてる化粧品代くらいは働け。家にいても暇だろうが」


 睨み合う親子。


「「……」」


 そして、意味もなく無言で握手。

 協力してお店を切り盛りしている。

 どうやらお互いに必要な存在としては認め合ってる様子。

 

「ちゃんと親子の仲は良いんだね。お店で働いてるのはふたりだけ?」

「アルバイトの子が忙しい土日にきてくれてる」

「ここって一応は温泉街だから。観光客が来てくれたりするのよ」

「ふーん。そうなんですか」


 お店としてはそれなりに儲けていると言った感じ。

 朝陽はコップのお水を飲みながら料理ができるのを待つ。


「そういや、お前は自炊とかできないのか?」

「んー。そんなことはナイデスヨ」

「何で言葉に詰まる。まぁ、予想できてるけど。料理できなさそうだもんな」


 鼻で笑われてしまい、朝陽はムッとしながら、


「失礼な! レンジでチンくらいはできます」

「それなら俺でもできるわっ!」

「ぐすんっ。料理できないこともないけど、実力を発揮する機会がないだけです」


 母親が料理を教えてくれなかったこともあり、朝陽の実力は未知数だ。

 小さな頃から、包丁が怖くて料理の手伝いもしなかった朝陽が悪い。


「また緋色ってば意地悪ばかり言って。女の子を困らせるんじゃないの」


 奈保は持ってきてくれたのはオムライス。

 いい匂いと共に食欲をそそるケチャップの赤い色が目に入る。


「どうぞ、ランチセットのオムライスです。スープは熱いから気をつけて」

「いただきます」


 美味しそうな定番のケチャップソースだ。

 ふわふわの卵が綺麗で早く食べたくなる。


「あっ……美味しい! 都会で食べてるものより美味しいかも」


 正直、専門店でも負けないお味。

 洋風な味付けで、家庭料理のモノの比ではない。

 それこそ、洋食屋さんで食べてるものと変わりがない。


「うわぁ、奈保さんって料理がすごく上手なんですね」

「ありがと」

「これなら喫茶店じゃなくて、オムライス専門店でもやった方が……ハッ!?」


 失言だった。


――ここはコーヒーを味わう喫茶店でした。まずい。


 朝陽は身の危険を感じて、後ろを振り返るとなぜか笑顔だった。


「お嬢、食後のコーヒーを淹れてやる。ブラックでいいよな」

「笑顔が怖いっ。苦いのはいやー」

「うるせっ。人のコーヒーにケチをつけるな」

「い、いひゃい。すぐに暴力に出るのは良くないと思うのっ」


 緋色にいじめられている姿を「あらら」と楽しそうに見つめる奈保。

 午後のひとときがゆっくりと流れていく。

 

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