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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第7部:水鏡に映る夏空
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第1話:貴方、今年で何歳でしたっけ?


 勢いよく家を飛び出したのはいいものの、行くあてもなく。

 とりあえず、親戚の家を訪ねていた。

 ここは大和家の本家だ。

 本来、大和家は長男である朝陽の父親が継ぐ形になっていた。

 しかし、病院経営で成功した彼は次男に家を任せて独立していた。


「相変わらず、大きなお屋敷だなぁ」


 今でも親戚が集まる時にはこの大和家の本家にくる。

 今現在、屋敷に住んでいるのは彼女の従姉妹の家族である。


「ナデ達、いるかなぁ」


 朝陽がインターホーンを鳴らすと、可憐な少女が出迎えてくれる。


「はい、どなたですか?」

「やっほ、ナデ。お久しぶり」

「……」


 朝陽の顔を見るなり無言で扉を閉めようとする少女。

 慌てて扉を叩いて、閉められるのを阻止する。

 

「な、ナデ!? 私だよ、朝陽だよ?」

「どなたでしょう。知らない人はお帰りください」

「従妹の大和朝陽ですっ。ひどいや、ナデ」

「……何で貴方がここにいるんですか」


 あからさまに嫌そうな顔をする朝陽の従妹、大和撫子。

 黒髪和風な美人。

 とても可愛らしい名前とは裏腹に、他人にはとことん厳しい性格。

 昔から相性がよくないためか、朝陽とはあまり仲良くしてくれていない。


「い、いやだなぁ。たまに従姉が遊びに来てもいいじゃない」

「へぇ。遊びにですか」

「そ、そうだよ? 近くまで来たからさぁ、うん」

「はぁ。ちなみに、メールで『妹が家出したので見つけたら帰すように』と乙姫さんから通達が来ているんですが?」

「情報早っ!?」


 あっさりと先回りされていた。

 乙姫からすれば、朝陽が頼るのはここしかないとみていたんだろう。

 深いため息をつく撫子は呆れ切った表情で、


「貴方、今年で何歳でしたっけ?」

「え、えっと、女の子に年齢を聞くのは失礼なんだよ」

「18歳でしたよね? 嫌でも大人になる年齢ですよね?」

「……はい、そうです。でも心はまだ少女です」


 年下の子から真顔で言われると悲しすぎる。


「まったく。中学生みたいな家出なんて幼稚な事をする歳ではないでしょう」

「幼稚じゃないもんっ」

「はぁ。実年齢を伴わない精神年齢でしたね。お子様なお姉さん」


 冷静な口調で散々な言われよう。

 手厳しいにもほどがある。

 

「子供っぽい性格なのは私だって気にしてるのに!」


 膨れっ面をしても、撫子は冷たく突き放す言い方をして、


「ここは貴方の来るところではありません。さっさと家に帰りなさい」

「えー」


 彼女を相手にするのも面倒とばかりに、無下に扱われるありさまだ。


「ナデぇ。お願いだから一晩泊めてぇ。何も用意していないの。お金もないの」


 迂闊だったのは出かける間際に姉から手渡されたお財布だった。


――くっ。せめて確認するべきだった。


 そう、すっかりと中身を抜かれて小銭しか入っていなかった。

 ここに来るまでの電車代で消えてしまう程度。

 もはや、帰るだけのお金もない。


――お姉ちゃんめ。私が本気で家出しないように封じられてた。


 朝陽名義のクレジットカード、現金の没収。

 成すすべもなく、取れる手はここしかないなのも必然だった。


「短絡的で計画性のない、考えなし。つまりはバカと言う事です」

「お姉ちゃんみたいにバカバカ言わないでよ」

「……私、貴方が嫌いなんです。親や世間に甘やかされて、人生を楽に生き続けようとする生き方。大和家の恥。無様すぎて見るに堪えられないんです」


 撫子の容赦なさすぎる言葉に朝陽の心は折れそうだ。

 

「ぶ、無様とか、うちのお姉ちゃんより厳しい」

「当然でしょう。乙姫さんの嘆きたくなる気持ちはすごく理解できます。ただ、家族補正で言葉に遠慮はあるのでしょうが想いは同じはずです」

「ぐすっ。ナデはもういいから、猛君か雅ちゃんを出してよ」


 大和猛、大和雅は撫子の兄と姉だ。

 ふたりはこの厳しい従妹と違い、すごく優しいので大好きだ。

 

「残念ですが、貴方の味方はいませんよ」

「え? 嘘でしょ」

「ふたりとも買い物に出かけています。残念でしたね、お帰りください」


 最後の希望は失われた。


――ど、どうすればいいの。うわぁーん。


 絶望的な気持ちに落とされていた、そんな時だった。

 玄関先でやり取りしていると、後ろから足音が聞こえてくる。


「あれぇ、朝陽じゃない? どうしたの?」

「雅ちゃん! あっ。猛君も一緒だ、おかえりなさい」


 両手に荷物を抱えた男女。

 噂をすれば、ちょうどいいタイミングで、ふたりが家に帰ってきてくれた。

 

――よかったぁ、本当によかった。


 自分の持ってる運に感謝する。


――私の運勢、まだ終わってない。


 そして、ここがチャンスとばかりに、


「雅ちゃん、会いたかったよー」

「う、うん? 久しぶり。お正月以来かな」


 意気消沈している朝陽に抱きつかれて少し雅は困惑する。


「姉さん、おかえりなさい。早かったですね」

「そう? 私の車ならすぐに行って帰ってこれるよ」

「いろんな意味で危なかったけどな」

「兄さん、お疲れ様です。でも、このタイミングは……」


 ふたりの登場は撫子にとっても予想外だったらしい。


「なんで、朝陽ちゃんが我が家に?」

「……どうしてなんでしょうね?」


 撫子は兄と姉を前にすると、先ほどの威勢の良い姿を隠す。

 

――この子も、猛君の前だと猫かぶりするからなぁ。


 乙女心に付け入るスキを見つける。


「二人にお願いがあるの。今日は家に泊めてください」

「「どういうこと?」」


 この機を逃すな、とばかりに朝陽はお願いするのだった。


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