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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第6部:虹が見たいなら雨を好きにならないと
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第38話:これが私への罰なの、神様?


 数日後、大きくなった騒動は淡雪の予想を超えていた。


「ここまで大きくなるとは思わなかった」


 今や大和兄妹の敵は本当に“世界”だ。

 学校全体を巻き込んだ大騒動に発展した。

 

「些細な悪戯が騒動のきっかけだったのに、噂の力ってすごいものね」


 今や学校にも知られるようになり、何度も教師からも呼び出されている。

 世界を敵に回しても。

 それでも、ふたりは関係をやめようとしない。

 

「破局すると思ったけど、まだ甘いか」


 それほど簡単に破局はしない様子。


「でも、あと少しかな。優しい彼なら、もう限界でしょう?」


 日に日に猛の方は追い込まれていく。

 傍にいるからこそわかる。

 彼はもうじき限界を迎える。


「もう耐えなくていいのよ。無理しないで、諦めちゃえ」


 悪意を持った少女によって。

 深い愛情で結ばれた絆が壊れていく。

 

――もう彼はダメ。すっかりと追い込まれている事で気落ちしている。


 大事な撫子を守ろうとして、でも、守れていないことを悔やんでいた。


――もう少しで、ふたりの関係を完全に破綻できる。


 淡雪の歪んだ想いは、その絆を壊すことだけを望んでいた。





 図書室の奥の閲覧室。

 普段ならば誰も来ない場所に淡雪は彼を連れてくる。

 落ち込んでいる猛を淡雪は友人として慰めていた。

 

「俺はどうすればよかったんだろうな」

「自分の気持ちを押し殺して、違う誰かを好きになっていればよかった?」

「分からない。淡雪さんの言う通り、そんなことをしても、長続きする自信もない」

「人は自分の気持ちに嘘はつけないものよ。それが大切な想いならなおさら」


 こんなにも弱り切った彼を見るのは辛い気持ちもある。

 だけど、淡雪のものにならないのなら、と割り切りながら、


「貴方が撫子さんを好きって思った気持ちは間違いじゃないわ。人を好きになる気持ちはどうしようもないもの。けれど、現実は優しくなんてない」


 淡雪はその手を優しく握りしめながら、


「貴方達の力に私はなりたいのよ」

「淡雪さん……」

「だって、私たちは友達でしょう。貴方が困っているなら助けてあげたい」


 思いもしてないことをよく言うと、自分でも呆れる。


――彼をここまで追い詰めた原因は私なのに。どの口がそれを言うのかしら。


 だけど、淡雪は愚かだった。

 自分の取った行動が、思わぬ大きな歪みと亀裂を生む。

 そう、ピュアな彼女を暴走させてしまった。


『――大和猛君。これは最後通告よ、妹との恋愛を解消しなさい』


 それは椎名眞子が起こした最後のアクション。

 彼女は自ら匿名の電話をかけて、彼を脅迫したのだ。

 ここまでするとは予想外だった。

 

――あの子はただ、噂を流し続けてくれればそれでよかったのに。


 本当に禁断の兄妹愛が許せなかったんだろう。

 そして、淡雪が煽ったことが彼女の中の何かを引き出してしまった。


『貴方が止まらないのなら、私もやめない。最初に言ったはず。これは最後通告よ』

「まだ何かするつもりなのか?」

『ご両親はこのことを知ってるのかしら?』


 いまだに彼の両親は何も知らないでいる。

 学校の噂は所詮は噂だ。

 根も葉もない言葉に惑わされて学校が動くことはほとんどない。

 それでも、誰かの言葉が両親の耳に入れば、それはさらに大きな問題となる。


「……まずいわ」


 ただ、淡雪は小さく呟くと、このままではいけないと危機感を抱いた。

 これは完全に淡雪の予想外で間違いだ。

 眞子の暴走が違う方向へと行ってしまった。

 

――こんなはずじゃなかった。


 淡雪が攻撃して欲しかったのは撫子と猛のふたりだけ。

 そこから両親をも巻き込むのは……淡雪の本意ではない。

 そもそも、幸せな彼らを見ているのが辛かったのが最初のきっかけ。

 嫉妬心が歪めたもの。


「……お母さん」


 己の失態に、淡雪は身体が冷えていくのを感じた。

 このことが母親、大和優子の耳に入れば彼女はとても傷つくだろう。

 大好きな人を傷つけるかもしれない、それは淡雪を恐怖させた。


「私、バカだ……どうして、こんな真似をしちゃったんだろう」


 嫉妬心で起こした行動が招いたのは自らの窮地。


「どうしよう、どうしよう……私、なんてことを……」


 冷静さを取り戻した淡雪は自らの愚かさを嘆いた。

 大事な人を傷つけられる、その痛みを思い知る。

 

――こんな真似をして、得られるものなんて何一つなかったはずなのに。


 大切なものを守るために。

 その言葉が自分に跳ね返ってくるなんて思いもしていなかった。





 ここまで事態を悪化させてしまったの淡雪自身の失態だ。

 彼女は自らの愚かさを痛感していた。

 嫉妬から始まった騒動の結末。

 優子は淡雪と猛に衝撃の真実を告げる。


「淡雪、猛。貴方たちは双子の兄妹なのよ」


 頭の中が真っ白になるほどに。

 すべてが嘘だと叫びたくなる。


――これが私への罰なの、神様?


 初めての恋だった。

 猛に惹かれて、好きになった。

 恋人ごっこをして、恋愛の疑似体験までして。

 自分の想いに悩み続けて、恋に浮かれて。

 そんな日々をすべて否定する現実。

 須藤淡雪と大和猛は双子の兄妹だった。

 そんな結末、誰が想像していただろうか――。

 

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