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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第6部:虹が見たいなら雨を好きにならないと
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第35話:最近、自制心をどこかに失った気がする


 それはクラスメイトの男子の会話を聞いていた時のこと。


「お前、どうしたんだよ。顔、赤いぞ。殴り合いでもしたか?」

「ん、まだ腫れてる? これ、彼女にやられたやつ。浮気を疑われてさぁ」

「はぁ? お前、そんなにモテないだろ」

「失礼な。でも、勘違いとはいえすぐに手を出す彼女でさ。痛い目にあったのさ」


 少し腫れた頬を撫でる男子生徒は苦笑いしながら、


「ったく、女はすぐに嫉妬するからなぁ」

「何でも嫉妬するから、男女関係以外じゃなくて友人関係でもひどいらしいぜ」

「あー、成功してる人間を妬んだりな。陰口叩いたり、女って男よりも陰湿だよな」

「なんで女ってのは自分が満たされないと他人に八つ当たりするかねぇ」


 彼らの言う言葉の意味は理解できる。

 人間関係において女性には“嫉妬”という感情は当然のようについてくる。

 時にそれはイジメになるし、問題にもなる。

 女の嫉妬は恐ろしく、そして面倒だと淡雪も思うことがある。

 友人関係であっても、自分が満たされていないと些細な事から嫉妬心が生まれ衝突するということもよくあることだ。

 そして、淡雪自身も嫉妬しやすいというネガティブな一面がある。

 満たされない心。

 果たせない欲望。

 我慢できなくなった“負の感情”が淡雪にある行為をさせようとしていた。





「猛クン。貴方、少し変わったわね」

「え? そうかな?」


 その変化に気づいたのは夏の少し前。

 心に余裕があるというか、すごく彼が落ち着いてみえた。

 これまでの彼はどこか心に余裕がなく見えていた。

 それが今では他人対しても余裕を見せて対応できている。

 その変化が誰のおかげでもたらされたものなのか。

 

「猛クンはここ最近、少し変わった気がするわ」


 淡雪の何げない言葉に彼はドキッとした顔をして見せる。


「変わったってどの辺が?」

「結衣の事もそうだけど、相手を思いやれる心の余裕ができてる気がするわ」

「まるで今までの俺が余裕がなかったような物言いですな」

「なかったでしょ?」


 ガクッと肩を落として「そんなことないやい」と拗ねる。

 彼のそういう素直な反応は可愛らしく思える。


「心に余裕があるって大事なことだもの。猛クンは撫子さんの事ばかり考えて、周囲を見渡せる余裕がなかった気がする」

「そして、重度のシスコン扱いだ」

「心に余裕ができるって自信だと私は思うの」

「ふむふむ」

「猛クンは何か自信がついたのかな」


 自信がある人間は輝いて見えるもの。

 心に落ち着きがある人間には自信がある。

 淡雪には……その自信がない。

 

「自信かぁ? あまり考えたこともないけど」

「……自分じゃ感じないことなのかも。他人から見ればよく分かるわ」


 間近で彼を見続けてきたからこそ気づけたのかもしれない。

 今の彼は少し前の彼とは何かが違うもの。

 やはり、それは彼らの恋が成就したんじゃないかと疑ってしまう。

 以前から気になっていたことがある。

 彼らは兄妹でありながら愛し合う存在だと言うことを。

 禁断の恋が成就してしまったとしたら、彼のこの余裕も説明できてしまう。


「そういえば……最近、自制心をどこかに失った気がする」

「変態発言? 私には近づかないでね」

「違うっ!? 微妙な拒絶はやめて、マジで凹むから」


 彼の暴露に私は身をすくめて警戒する仕草を見せながら、


「猛クンは妹に手を出して、それで自信がついたという認識でいい?」

「やめてくれ!?」

「……そっか。ついに手を出してしまったのね。自制心に負けて」


 彼ならありえるので冗談でも否定できない。


「撫子さんの方も周囲に敵視することがなくなったみたいだわ」


 淡雪に対しては子猫を守ろうとする親猫並に警戒されてるけども。


「あの子の性格は元から何とかしてほしいと兄としては思ってます」

「お兄ちゃんラブ。世界を敵に回しても愛を貫く、だっけ?」


 彼女の口癖みたいなものだった。


『世界を敵に回しても私は兄さんだけを愛し続けます』


 妹としてはどうかと思うけども、女の子としてはすごいと正直に思う。

 好きな人がいて、その人を心の底から愛せることを羨む。


「ついに二人の関係が進展しちゃったの?」

「だ、だからね? 違うんだよ。信じてください、ホントです」


 慌てふためき、誤解を解こうとするので必死だ。

 そんな風に彼をいじっていると、クラスメイトが心配そうな声で、


「ねぇ、須藤さん。ピュア子見なかった?」

「……眞子さん?  私は見ていないけど」

「俺も椎名さんは見てないな。どうしたんだ?」

「もうお昼休みも終わるのに、戻ってこないの? どうしたんだろう」


 椎名眞子、クラスメイトの一人が教室に戻ってこないと言うのだ。

 体調でも崩して保健室に行っているのかもしれない。

 皆がそう心配していたのだけども――。

 

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