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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第5部:クローバーの花言葉
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第27話:私……猛クンが相手なら、いいわよ

 

 好きな人ができて、恋をして。

 淡雪は自分の中で何かが変わったような気がする。

 その何かがまだ分からないと言うのが本音でもある。


「もう朝なんだ」


 心地の良い目覚めだった。

 昨夜は嫌な夢を見たけども、すっきりとした気分になれた。

 すべて、猛のおかげだ。

 二度目の睡眠ではぐっすりと眠ることができた。

 身支度を整えてから、朝食を作り始める。


「猛クンはいつもどのくらいの時間に起きてくるのかしら?」


 やがて料理を作り終えても、彼が起きてくる気配はない。

 猛の生活リズムを淡雪はまだよく知らない。

 

――意外と朝は弱い方なのかも?

 

 それとも、昨日は少し遅くなったので単純に寝坊かもしれない。

 どちらにしても、起こさないことには始まらない。


「猛クン。私だけど、入ってもいい?」


 せっかく作った料理が冷めてしまうと思い、彼が眠る部屋の扉をノックする。

 返事がないので、淡雪は静かに開けてみると、


「猛クン?」


 まだぐっすりと眠りについている彼の姿が目に入る。


「……こんな風に無防備な姿をさらけだしちゃって」


 寝ている時は誰もが同じだ。

 意外と言っては何だけど、彼の寝顔は可愛らしく見えた。


「男の子でも寝顔は可愛いものなのね」


 それは淡雪が彼を好きと言う理由もあるのかもしれない。

 普段は見る事ができないからこそ、そこに価値が生まれる。


「ふぅ。猛クン、起きて」


 いつまでも見ていたい気持ちにはなる。

 だが、朝食は待ってくれないので残念な気持ちになりつつも彼を起こす。


「……んっ」


 彼がようやく目を見開いた。


「おはよう、猛クン。お目覚めはいかが?」


 彼の顔を覗き込むと、ふっと淡雪は彼に抱き締められた。


「あ、あの?」


 あまりにも唐突の彼の行動に心臓がドキッとする。


「た、猛クン、猛クン。これは、どういう」

「……」

「あの、もしかして寝ぼけているのかしら?」


 ドギマギしながら彼に言葉をかけて反応を待つ。

 淡雪をその腕に抱き締めてしまったまま。

 自分の心臓の鼓動が大きく鳴り響くのを感じてしまう。

 

――こんな風に抱きしめられるのは恥ずかしいわ。


 彼女は喜びと驚きが混じり合った高揚感に包まれる。

 

――彼も男の子なんだなぁ。


 抱きしめられて感じたのは男性としての力強さと包容力。

 こんなにも強く感じられたのは初めての経験だ。


「恥ずかしいわ。そろそろ、離してくれない?」

「……」


 自分から離れるのは寂しさもあり、残念な気持ちになりながら、


「きゃっ」


 淡雪がそっと腕に手をかけようとすると、彼は耳元に顔を近づける。


「やぁ、あ、あのね、猛クン。これ以上は、その」


 押し倒された気恥ずかしさに顔を赤らめてしまう。


「本気、なの?」

「……」

「私……猛クンが相手なら、いいわよ で、でも、やっぱり、こういうのは……」


 つい身を委ねてしまいそうになった淡雪に対して、彼は言った。


「――どうした、撫子?」

「……」


 思わず、目が点となる。


――はい、今、何と言いましたか?


 唖然とする彼女をよそに猛は寝ぼけた声で、


「朝から甘えたがりだな。撫子……?」

 

 もう一度、今度はトドメとばかりに彼は“妹”の名前を口にする。


――あー、なるほど。そっかぁ。そういうことなのかぁ。


 撫子と言う名前に淡雪は冷静さを取り戻す。

 いや、冷静さというよりもそれは冷えすぎた感情。


「……ふふふっ」


 なぜか笑いがこみあげてきた。


――ここまで来て、まさか撫子さんと間違えてたとかいうオチ?


 そうですか、と小さく納得すると、


「――ふざけるなぁ!?」

「うぎゃっ!? な、何?」


 淡雪の怒りがちょっと爆発。

 寝ていた彼を目覚めさせるお腹への攻撃。


「この女の敵、シスコン!」

「ぎゃー!? 何事?」

「乙女の純情を弄ぶひどい奴。私のドキドキを返しなさい」

「ちょっ!? 下腹部への攻撃は禁止されて、ぬぐわぁー!?」


 女のプライドと恋心を弄ばれた恨みは思いの他、強いものだった。

 早朝の別荘に響く猛の叫び声。

 大和猛、自業自得により轟沈――。

 

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