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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第5部:クローバーの花言葉
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第19話:私はこの旅行で自分の想いを知りたいの


 猛を別荘へと誘って旅行をすることに。

 以前、仲のいい友人を連れていったことはあるけども、異性の相手を連れるのは当然ながら初めての事だ。

 突然の誘いだったのにもかかわらず、誘いのってくれた。

 一泊二日の外泊。

 初めての経験なので不安も多い。

 

「猛クンと旅行に行くことになったのよ」


 カフェに集まっていた美織と優雨に淡雪はそう告白する。

 優雨は「ついに、ついに?」とどこか期待してるような目を見せた。


「優雨さんが思ってるような展開ではないから」

「違うの?」

「……違います。あと、美織。何か言いたげそうな顔をしてるけど、何?」

「いえ、この子はずいぶんと踏み込んだことをするなぁって」

「そうかしら?」


 美織は「心が迷路に迷い込んでるのねぇ」と彼女の本心を見抜く。


――どうしたいのか分からない。


 関係を進展させたいのか、それとも終わらせたいのか。

 答えの出ない迷路に迷い込み、どうしようもできずにいる。

 そんな心境の淡雪に、


「いいんじゃないの。一夜でも関係を持っちゃえば面白い事になりそう」

「笑いながら言わないで。あと、そういう事にはならないって言ってます」

「えー。ないの?」

「あの猛クンよ?」

「どの猛クンかは知らないけどさ。さすがの大和君にだって性欲くらいはあるんでしょ。一夜でも気になる女子と同じ場所で過ごして、手を出せないヘタレとでも?」


 くすっと笑う美織は「そんな男の子いないよねぇ?」と優雨に目配せする。

 ぐぬぬ、と彼女はどこか不愉快そうに、


「うちの修斗も中々、手を出さない奥手と言う名のヘタレですが」

「あら。最近の男子はヘタレばっかりか」

「優しいと言ってあげて」


 どこかフォローするように優雨はそう呟く。


「実際、大和君ってどっち? 肉食? 草食?」

「草食系と見せかけての肉食系かしら。ああみえて意地悪な所もあるわ」

「なるほど。逃げられない状況にしてから襲うパターンね」

「……違います。猛クンはヘタレでもオオカミでもないから」

「美織は単純だなぁ。男の子は男の子なりに考えてるって事。そう簡単に手を出すオオカミばかりじゃない。大和さんだってそうなんじゃないの?」

「あー、なるほど。優雨の彼氏の修斗君とかそうだよねぇ。うんうん、一緒の部屋にいても手も出してもらえず、ぐふっ!?」

「わ、私たちのことはどーでもいいでしょ」


 いつものように言い争いを始める。

 優雨と美織は仲がいいのか、悪いのか。


「抱いてもいいよ、アピールが無駄になってばかりの優雨だものねぇ」

「ち、違うもんっ。私たちはまだそーいう段階じゃないだけ」

「いつそんな展開になるのかしら。あー、十年後くらい?」

「――ッ!」

「きゃんっ。な、なによ。図星だからって私に八つ当たりするなぁ」

「うるさいっ。アンタが悪いんでしょ」

「ふたりとも、喧嘩しないで。ホントに仲が良くて困るわ」

「「――違うわ!?」」


 お茶を飲みながら淡雪は美織をたしなめる。


「美織も下手に煽るのはやめなさい。二人は付き合い始めたばかりなんだから」

「はいはい。話を戻すわ。で、大和君と旅行に行くんだって?」

「うん。私さ、今回の旅行で確かめたいことがあるの」


 わざわざ誘って遠出をしたいのには理由がある。

 ただの思い出作りだけではない。


「はたして彼は自分を襲うだけの愛情があるかって事?」

「違います。何度も話をそっちに持っていくな、美織はエロい子か」

「エロい子とは失礼な。私、別に欲求不満女子じゃありません」

「……はぁ。確かめたいのは自分の気持ちよ」


 淡雪の言葉にふたりは「?」と顔を見合わせる。


「自分の気持ちも何も、淡雪さんは彼が好きなんでしょう?」

「そうだ、そうだ。今さらじゃん。恋する乙女が何を言ってるの」

「……そうね。気になる相手なのは認める」

「大好きで、ラブラブなくせに。それくらい、さっさと認めなさいよ」


 確かめたいのは、自分が本当に恋人ごっこを終わらせる覚悟があるかどうか。


「私はこの旅行で自分の想いを知りたいの」

「……本物の恋人になりたいってこと?」

「それも含めて。このまま、ダラダラと関係を続けるのはよろしくない。だからこそ」

「終わるか、進めるか。それを決めたいって事か。ふーん」


 どこか冷めた様子の美織は淡雪に一言だけ物申す。


「淡雪が後悔しない方を選べばいいんじゃないの?」

「……?」

「ただ、私から言わせれば、淡雪には無理じゃないかな。この旅行を経ても、それは答えが出ないままで終わる気がする」

「どうして?」

「それを分からない淡雪じゃないと思うの」


 長い付き合いゆえに、美織は淡雪の性格をよく知っている。

 彼女は思案して言葉を絞りだす。


「私はもう彼を他人ととして突き放せない?」

「正解。中途半端な関係を続けたくないなら、私みたいにはっきりと関係を終わらせちゃうことね。フラグクラッシャーとは私のことよ」

「胸を張って言わない。貴方の場合は、告白する男子の心を壊す方でしょ」

「でも、そうするくらいの覚悟がいるんじゃない? 本当の恋人として別れるような、強い覚悟がないと、終わらせることなんてできないでしょ」


 恋人ごっこをだから、お終いと言って終わるような関係ではない。

 実際の恋人同士の破局と同じような痛みを伴う。

 すでにそのレベルに二人の関係はなってしまっている。


――私にその決断が下せるのか、どうか。


 それができないと分かってるからこそ、美織は無理するなとばかりに、


「淡雪に決断なんてできない。なので、旅行は旅行で楽しんできなさいよ」


 返す言葉もなく、淡雪は黙り込むしかなかった。

 美織の言葉は正しくて。

 進むことも、やめることも。

 きっと彼女は、どう悩んでも自分で決めきれない――。

 

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