第13話:誰がどうみてもシスコン。アウトです
賑わうファミレスのテーブル席。
女の子達のグループが話で盛り上がっている。
「また美冬は彼氏変えたんだ」
「男の趣味が毎回違うよね?」
「付き合っていても途中で飽きちゃって。自分に合うタイプが見つからないんだ」
淡雪は久々に中学時代の友人たちと雑談していた。
こんな風に集まるのは卒業以来。
時折、連絡は取っていたけども実際に会うのは久しぶりだ。
「そうだ、美織ちゃんから聞いたよ、淡雪。彼氏ができたんだって?」
「須藤さん、知らない間に彼氏なんて作ってたんだ」
「高校で素敵な彼氏、できました?」
友人たちから予想通りにからかわれる。
元々、淡雪達のグループは恋人持ちが中学の頃から多かった。
淡雪や美織はその例外だったのだけど。
「そうね。やっとできたって感じかな」
仕方なく嘘をつき、認めておく。
隣で美織がにやにやとしている。
――くっ。美織のせいで余計なウソをつく羽目に。
今さら否定しても遅いので、認めざるを得なかった。
淡雪と猛は恋人ごっこ、本当の恋人ではない。
それでも、からわれるのはどこか悪い気持ちではなかった。
「彼氏ってどんな子? 写真とかないの?」
「淡雪。見せてあげなよ、携帯に撮ってるでしょ」
美織の言葉に促されて淡雪はスマホを取り出す。
猛との写真は何度かデートしてるために撮っている。
気に入ったものはプリントアウトしているくらいだ。
「これとか?」
淡雪は少し緊張しながら猛の写真を彼女達に見せる。
そこに写っていたのは淡雪と猛のツーショット。
「うわぁ、めっちゃイケメン。レベル高い~」
「そりゃ、淡雪の彼氏だよ?」
「選り好みしてるに決まってるじゃん」
「ユッキーもお嬢だもんね。この人もどこかの御曹司とか?」
写真を眺める彼女達。
彼氏の話をする彼女達がいつも羨ましく思っていた。
それが今、淡雪も同じような体験をできているのが嬉しい。
「一応は御曹司かな? お父さんは政治家だよ」
「えー。すごいじゃん」
「さすがだねぇ。淡雪のレベルに合うにはそれくらいじゃないとダメなのか」
「別に家柄で選んでるわけじゃないわ」
猛の事を気に入ってるのは家柄でも、容姿でもない。
「じゃぁ、どういう所が好きなの?」
「好きというか、気に入ってるのは優しい所ね」
「優しい? まぁ、見た感じもよさそうな子だけど」
一度彼と話せば、その良さに皆が惹かれる。
「学校では人気の男子生徒の一人なのよ」
「不沈艦大和とか呼ばれるくらい。淡雪と付き合う前はかなりの人気者だった」
「おー、すごいじゃん」
「きっと彼に憧れてる女子はかなり多いはず。淡雪は多くの女の子の敵となった」
「……美織、余計な煽りをしないで」
実際は彼女を敵視する女子生徒は少ないと思われる。
お似合いの二人だと歓迎されている様子だ。
「誰に対しても気さくで、いい人なのよ。学校でも人気者だわ」
「イケメンで優しくて、御曹司」
「ホントにいるの、そんな人?」
「……もちろん長所だけではないわ」
淡雪にも彼に対して不満な所はある。
それはシスコンな所だ。
――彼は否定しているけど、誰がどうみてもシスコン。アウトです。
どうにも、妹の大和撫子さんが可愛くてたまらないらしい。
「おやぁ、淡雪にも彼に思う所があるんだ?」
「例えば好きな彼氏が他の女の子をとても可愛がっていたらどうする?」
淡雪の質問に彼女たちの表情が曇る。
「それはいわゆる、愛人が別にいると?」
「違います」
そういう意味では決してない。
「なんで愛人なのよ」
「御曹司と言えば、それくらいいそうじゃん」
「浮気性? 実は二股かけられてる?」
「そう言うんじゃなくて」
「だったら、どういう意味よ。他に女がいるんでしょ?」
「違うってば……超がつくほどシスコンなのよ、彼」
軽く肩をすくめて淡雪は嘆き気味に呟いた。
人って言うのは良い面もあれば悪い面もある。
淡雪は一面だけを見て、彼に興味を抱いているわけじゃない。
「マジで? これだけいい男なのに?」
「美織、ホントに?」
事情を知ってる美織は苦笑い気味だ。
「まぁ、学校内でもちらほらと悪い意味の噂は聞くわねぇ」
そう、学内でも時折噂になる程度。
「ちなみにその妹さんも超絶美人。普通の子ならそれで引くわね」
あれだけ美人で可愛げのある妹ならシスコンになってもしょうがない。
分かっていても不愉快になるの。
「……美形兄妹は兄妹でラブなのね」
「そこに割り込む淡雪という構図。笑えるわ」
「笑わないで」
実際にその可能性の方が高いのだ。
「淡雪ちゃんという相手がいながらも大切にしてる妹さんがいるってこと?」
「どんなにいい男の子でもマザコンとシスコンは論外だと思うの」
「一つくらいの欠点なら許せる、かな?」
「まぁ、程度によるけどね。これで重度のシスコンならドン引きよ」
それぞれの意見に淡雪は頷きながらも、
「でも、だからかもしれない。彼ってすごく私を甘えさせてくれるのよ」
兄属性のある人だからこそ、自然に甘えさせてくれる。
「淡雪でも甘えたいんだ?」
「そうね。私、自分でも知らなかったわ」
こんなに誰かに対して心を許すなんて思いもしていなかった。
猛と言う存在は淡雪にとって大きなものだ。
素直な気持ちで彼に甘えている自分が淡雪の知らなかった自分の一面。
「なるほどなぁ。彼氏でもありお兄ちゃんでもあるわけだ?」
「お兄ちゃん、か」
淡雪は彼に対して、兄のような気持ちを抱ているのかもしれない。
「ほら、写真を見てると、2人ってよく似てない?」
「え? そうかな?」
雰囲気が似てるとはよく言われる。
写真を見比べながら友人たちは「似てる、似てる」と盛り上がる。
「人って似た雰囲気の相手を好きになるのかな」
「髪の色は違うけどね。淡雪さんの茶髪って地毛なんでしょ。相変わらず綺麗」
「うん。お母さん譲りなの」
淡雪の大好きな母と同じ髪色をしていることは親子の証そのもの。
母から譲り受けたものだからこそ、大好きなのだ。
「淡雪さんが本気で誰かを好きになるなんて意外だなぁ」
「昔から家の事情で、とか言い訳してたのに」
「そうそう。淡雪ってさ、男の子に心を許す事なんてなかったじゃない」
「仲良くなりかけても、男子にはどこか壁を作ってたよね」
「よかったじゃない。信じられる男の子に出会えて」
心を許すこと。
信頼できること。
美織は愛は相手を信頼できることと言っていたのを思い出す。
「……うん。そうだね」
淡雪は猛のことを誰よりも信頼して、頼りにしている。
人を愛する一歩手前。
そこまで彼女の中で想いが募ってるのではないか。
無自覚な気持ちを自覚する日は案外近いのかもしれない。




