第12話:自分のことになると、誰だって臆病になる
『――そういうわけで、明日、皆を集めたのでよろしく』
ある日の夜、電話越しに美織が淡雪にそう言った。
「……突然すぎない?」
『いいじゃない、たまには中学の同級生と会いたいって言ってたじゃん』
「言いましたけどね。行動が早すぎません?」
『何事も早めが大事でしょ。で、何か予定でもある?』
確かに、仲の良かった友人たちと久しぶりに会いたい気持ちはある。
仲の良かったグループは美織以外、別の高校に入ってバラバラになってしまった。
こういう機会でもなければ、会えないので会いたい。
「明日は午前にお茶のおけいこがあるくらい」
『お嬢様の習い事か。お昼ならいいんでしょ?』
「うん。それでいいわ。久しぶりだもの」
『ちなみに、皆には淡雪に彼氏ができたって報告しておいたから』
「……は?」
『ふふふ。明日はからかわれるのを覚悟しておいて』
「余計ないことはしなくていいのっ!?」
携帯電話に思わず叫んでしまった。
こういうことになるから、行きたくない気持ちも芽生えるわけで。
悪戯好きの美織に任せたのが間違いだった。
『皆さん、淡雪の彼氏に興味津々って感じ。ふふふ』
「やめてー。それに恋人じゃないし」
『まだ言うか。素直じゃないなぁ』
「素直じゃなくていいです」
『あのね、淡雪。貴方はもう完全に大和君に惚れてるの。彼から目をそらせない、彼の事ばかり考えている。違う?』
「……違わない」
つい、違います、とは言えずにハッとする。
――私、今……なんで?
思わず出た言葉に淡雪は口を押える。
『おや、いつもみたいに違います、じゃないんだ。少し前進?」
「……ち、違います。違います、違いまーすー」
『否定が遅いから。素直になりなよ。淡雪も幸せになるべきよ』
「恋愛したら幸せになれるのかしら?」
恋は人を成長させるとは言うけども。
淡雪は自分が成長できている実感がいまだにない。
「猛クンの事が気になるのは認めるわ」
『大好きだとは認めない?』
「……私は恋をしてるのかどうかが分からないのよ」
これまで初恋すらしていなかった。
それゆえに、彼を思う気持ちが恋なのかどうかも分からない。
経験がないのは、不安も多い。
『難しいことなんて考える必要なくない?』
「え?」
『好きっていいなぁって思ったら、それが恋じゃん。憧れとか、気になる人とか、悩んでるのも恋の悩みって感じでしょ。素直になりなよ』
「美織……」
淡雪は友人の言葉を胸に留めておきながながら、
「そう言いながら、絶対に貴方は今、顔が笑ってるでしょ」
『……バレた? あははっ』
「この子、ホント性格がひどい」
『だって、あの淡雪が恋に悩んでウジウジとしてるのが可愛くて』
「それ、友人としてどうかと思うわ」
『ふふっ、友人だから、楽しんであげてるのよ。いい友達でしょ』
なんだかんだで淡雪の心配もしてくれている親友だ。
『夏休み前さぁ、いろいろとお世話になりましたから。その借りを返したくて』
「……あれは貴方の自業自得です。優雨さんたちの恋路の邪魔をして怒られて」
『だって、人の恋を弄るのって楽しくない?』
「この子、ホントに根っからの悪女だわ。人の心配より自分の恋を心配して」
美織の性格はともかく、淡雪はふっと口元に笑みを浮かべる。
「貴方の口癖、運命の相手に巡り合いたい。その言葉の意味が分かる気がする」
『巡り合っちゃった気分はどう?』
「……不思議なものね。今はその不思議な気分に酔いそう」
『酔って目覚めたあとには、ベッドの横には彼が?』
「そっちの酔いじゃないから。美織、からかいたいだけでしょ?」
『淡雪が素直に恋を認めたら、ちゃんと相談くらいのるわよ?』
今はそうではないと見抜かれている。
「その時はよろしく」
『うん。ちなみにギブ&テイクで私が恋をした場合も相談にのること』
「それ、二十歳くらいまでないと安心できるわ」
『ひどくない!?』
「……だって、美織の場合、恋愛で悩む姿がまず想像できないもの」
『くっ。私も早く運命の相手と巡り合いますよ。覚えてなさい』
悔しそう美織はそう呟いてから電話を切るのだった。
自分の恋と違い、他人の恋ならアドバイスでも何でもできるのに。
――自分のことになると、誰だって臆病になる。
それが人間というものだから。
――初めての恋。もしも、これが恋なら私をどう変えていくんだろう。
見えない未来の先に待つもの。
気になりながらも、彼の事を考えると胸が高鳴る自分がいた――。




