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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第5部:クローバーの花言葉
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第12話:自分のことになると、誰だって臆病になる

 

『――そういうわけで、明日、皆を集めたのでよろしく』


 ある日の夜、電話越しに美織が淡雪にそう言った。


「……突然すぎない?」

『いいじゃない、たまには中学の同級生と会いたいって言ってたじゃん』

「言いましたけどね。行動が早すぎません?」

『何事も早めが大事でしょ。で、何か予定でもある?』


 確かに、仲の良かった友人たちと久しぶりに会いたい気持ちはある。

 仲の良かったグループは美織以外、別の高校に入ってバラバラになってしまった。

 こういう機会でもなければ、会えないので会いたい。


「明日は午前にお茶のおけいこがあるくらい」

『お嬢様の習い事か。お昼ならいいんでしょ?』

「うん。それでいいわ。久しぶりだもの」

『ちなみに、皆には淡雪に彼氏ができたって報告しておいたから』

「……は?」

『ふふふ。明日はからかわれるのを覚悟しておいて』

「余計ないことはしなくていいのっ!?」


 携帯電話に思わず叫んでしまった。

 こういうことになるから、行きたくない気持ちも芽生えるわけで。

 悪戯好きの美織に任せたのが間違いだった。


『皆さん、淡雪の彼氏に興味津々って感じ。ふふふ』

「やめてー。それに恋人じゃないし」

『まだ言うか。素直じゃないなぁ』

「素直じゃなくていいです」

『あのね、淡雪。貴方はもう完全に大和君に惚れてるの。彼から目をそらせない、彼の事ばかり考えている。違う?』

「……違わない」


 つい、違います、とは言えずにハッとする。

 

――私、今……なんで?


 思わず出た言葉に淡雪は口を押える。


『おや、いつもみたいに違います、じゃないんだ。少し前進?」

「……ち、違います。違います、違いまーすー」

『否定が遅いから。素直になりなよ。淡雪も幸せになるべきよ』

「恋愛したら幸せになれるのかしら?」


 恋は人を成長させるとは言うけども。

 淡雪は自分が成長できている実感がいまだにない。


「猛クンの事が気になるのは認めるわ」

『大好きだとは認めない?』

「……私は恋をしてるのかどうかが分からないのよ」


 これまで初恋すらしていなかった。

 それゆえに、彼を思う気持ちが恋なのかどうかも分からない。

 経験がないのは、不安も多い。

 

『難しいことなんて考える必要なくない?』

「え?」

『好きっていいなぁって思ったら、それが恋じゃん。憧れとか、気になる人とか、悩んでるのも恋の悩みって感じでしょ。素直になりなよ』

「美織……」


 淡雪は友人の言葉を胸に留めておきながながら、


「そう言いながら、絶対に貴方は今、顔が笑ってるでしょ」

『……バレた? あははっ』

「この子、ホント性格がひどい」

『だって、あの淡雪が恋に悩んでウジウジとしてるのが可愛くて』

「それ、友人としてどうかと思うわ」

『ふふっ、友人だから、楽しんであげてるのよ。いい友達でしょ』


 なんだかんだで淡雪の心配もしてくれている親友だ。


『夏休み前さぁ、いろいろとお世話になりましたから。その借りを返したくて』

「……あれは貴方の自業自得です。優雨さんたちの恋路の邪魔をして怒られて」

『だって、人の恋を弄るのって楽しくない?』

「この子、ホントに根っからの悪女だわ。人の心配より自分の恋を心配して」


 美織の性格はともかく、淡雪はふっと口元に笑みを浮かべる。


「貴方の口癖、運命の相手に巡り合いたい。その言葉の意味が分かる気がする」

『巡り合っちゃった気分はどう?』

「……不思議なものね。今はその不思議な気分に酔いそう」

『酔って目覚めたあとには、ベッドの横には彼が?』

「そっちの酔いじゃないから。美織、からかいたいだけでしょ?」

『淡雪が素直に恋を認めたら、ちゃんと相談くらいのるわよ?』


 今はそうではないと見抜かれている。


「その時はよろしく」

『うん。ちなみにギブ&テイクで私が恋をした場合も相談にのること』

「それ、二十歳くらいまでないと安心できるわ」

『ひどくない!?』

「……だって、美織の場合、恋愛で悩む姿がまず想像できないもの」

『くっ。私も早く運命の相手と巡り合いますよ。覚えてなさい』


 悔しそう美織はそう呟いてから電話を切るのだった。

 自分の恋と違い、他人の恋ならアドバイスでも何でもできるのに。


――自分のことになると、誰だって臆病になる。


 それが人間というものだから。


――初めての恋。もしも、これが恋なら私をどう変えていくんだろう。


 見えない未来の先に待つもの。

 気になりながらも、彼の事を考えると胸が高鳴る自分がいた――。

 

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