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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第5部:クローバーの花言葉
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第6話:私、撫子さんに嫉妬してる?


「猛クン、今の時間、お話してもいいかしら?」


 その夜、携帯電話で淡雪は猛に電話をしていた。

 自室でのんびりとした雰囲気の中、彼と話をする。

 

『大丈夫だよ。どうしたんだい、淡雪さん? 日曜日の予定の話?』


 淡雪と彼は日曜日になると、デートを繰り返している。

 ただ、今回はそのことではない。


「デートの話はまた明日に」

『では、何のお話?』

「それより、仲がすごくよろしい妹さんについてよ」

『……あー、はい。そっちですね』


 猛としても触れられたくない話題である。

 気まずさを感じつつも「お騒がせしてすみません」と謝罪した。


「とりあえず、噂が出るのはよろしくないわ」

『誰に見られていられたのやら』

「とにかく、私としても面白くない」

『あの、淡雪さん。実は怒ってる?』

「……怒ってませんわよ?」

『お、怒ってますよね』


――不愉快なだけで、面白くないだけで、怒ってはいない……と思う。


 少し不機嫌なため、声が低いのは気のせいか。

 

「撫子さんとずいぶん仲がいいみたいだけど、実際はどうなの?」

「どう、とは?」

「愛があって、ラブラブなの? ぐすっ、私との関係は遊びだったのね」

「誤解を招く言い方をわざとするあたり、意地悪だと思うんですが」


 彼女は猛に対して電話越しに不愉快さをあらわにする。


「誤解かどうかは事実関係を含めて不明だわ」

『何もありませんよ』

「ホントに?」

「前にも言ったけど、仲のいい妹なだけでラブラブではありません」

「ホントかしら。恋人繋ぎしてデートする相手なんでしょ?」


 淡雪と一緒にいるときも彼はよく妹の話をしていた。

 意識していなかったけども、今回のような事件が明るみにでると話は別だ。


――思えば、この人の口から女の子の話題が出ると妹さんだったような。


 人って言うのは一度、意識してしまうと中々、忘れられない。


『軽はずみなことをしたかな。言い訳させてください』

「聞きましょう」

『先日のデートは受験勉強にストレスを感じていた妹のストレス発散のためのデートであり、それを見られてしまったことに対しては注意不足だったと反省してます』


 淡雪が「それで?」と、冷たい言葉を返すと焦った声で言葉を続ける。


『あ、あの、本当に誤解を招いてるけど、恋人関係ではないし』

「ふーん?」

「し、しばらくはデートの予定もないので、これ以上は問題にはならないかなぁ、と希望的観測。なので、許してもらえませんか』

「あのねぇ、猛クン」

『は、はい』

「普通の世の中のお兄ちゃんは妹とデートしないものなのよ?」


 根本的な所で彼は認識がすこしおかしい。

 妹と一緒にお出かけ。

 それはいいとしても、デートとは呼ばない。


――あ、この人、完全にアレだわ。


 彼女は内心、ある事への確信を抱く。


『うぐっ、それは……』

「おめでとう、猛クン。私の中でシスコンが決定したわ」

『やめれ、マジでやめて! シスコン扱いは堪忍してください』

「今後、貴方をシスコンだと認識したうえで、これからの関係を考えていかないといけないみたいね。……恋人ごっこでよかった。恋人なら別れる、別れないの窮地よ」


 彼はきっと顔を青ざめさせているのだろう。


――実際に付き合ってたら修羅場だったわね。


 ある意味で恋人ごっこで救われている。

 これが本当に恋人同士ならば、お説教をしなければいけないところだった。

 責められて、ものすごく落ち込んだ声で、


『ごめんなさい』


 と、深い反省と共に呟いたのだった。

 今後、誤解を招くような軽率な行動は控えると彼は明言して電話は終わった。


「……少し意地悪だったかしら?」

 

 電話を切ってから淡雪はふとそう思う。


「私、意地悪なタイプだったっけ?」


 そんなに責めなくても、と少し反省。

 ふと見た、部屋の鏡に映る淡雪の顔。

どこか面白くなさそうな、どこか嫉妬心にあふれた顔だった。


「――え? 私、撫子さんに嫉妬してる?」


 自分でも気づかないほどの心の変化。

 小さな嫉妬心の芽生え。

 気づかないうちに、淡雪の中での猛への想いが変わりつつあった――。


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