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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第4部:心に秘めた恋情の狭間で
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第115話:いろんな意味で俺ってすげぇ


「で、大事な話って何なのさ」


 空気を変えて、猛は雅に向き合う。

 撫子は「私のチャンスを潰されました」とふて腐れて部屋を出て行ってしまった。

 その件に関しては彼も同意だ。

 無駄な覚悟を決めちゃっていた分、がっかり感が半端ない。

 

「んー。愛の行為を邪魔してしまった罪悪感が……」

「もういいっての」

「お姉ちゃん、空気が読めなくてごめんなさい」

「……タイミング的にはもっと後なら最悪だったよ」


 襲い掛かる前でよかった、と諦めた。


――襲い掛かってる最中を姉に見られたら死ねる。


 部屋の鍵をかけておかなかった猛も悪い。

 いろいろと撫子に流されまくっていた。

 浮かれていたのは認めざるをえない。


「話って言うのはお母さんの事なんだけどね」

「母さんの?」

「……この件を貴方に伝えるかどうか迷ってるのよ。私の口から伝えるべきか」

「どういうこと?」


 優子に何かあったと言うのか。

 不安になるようなことを言わないでもらいたい。


「母さんがどうした? 身体を壊したとか?」

「違うわよ?」

「何だよ、姉ちゃんらしくない。はっきりと言ってくれよ」


 いつもの彼女らしくない。

 こんな風に言葉に詰まるような言い方をするなんて。


「それが難しい問題だからぁ。お母さん、一週間後に帰ってくる話は聞いてる?」


 優子が帰ってくるのは猛と淡雪が双子だと発覚して以来となる。


「聞いてるよ。淡雪と会う約束があるんだ。俺もついでに参加してもいいって言うからさせてもらうつもり。あのふたりが定期的に会ってるって知ってた?」

「知ってるわよ? 淡雪さんとは面識がないけど、話は聞いてるもの」

「そっか。で、一週間後がどうしたって」

「その日、家族にとって大事な事が発表される予定なの」


 その発表って言うのがとても気になる。

 それが良い情報か、悪い情報かによって違う。


「具体的には?」

「知りたい?」


 彼が頷くと彼女は口元に人差し指を添えて秘密のポーズをとる。

 

――誰にも言わないで、と言うことか。なおさら、気になるじゃないか。


 いいニュースと悪いニュースのどちらか。

 そして、雅は神妙な面持ちをしながら衝撃発言をした。


「実は……お母さんが妊娠しました」

「は?」

「ちょっと前に発覚したらしいんだけど、『現在、妊娠3ヶ月なの』と昨日、電話で連絡もらいました」


 パチパチと小さく拍手する。

 

――ナンデスト?


 唖然とする猛をよそに彼女は笑いながら、


「家族が新しく増えます。私にとって20歳も年が離れた妹か弟ができちゃいます」

「マジっすか」

「マジです。お母さんもまだ若いし、子供が産める年齢だもの。十分にあり得る話ではあったけども、驚くしかなわいよねぇ」

「母さんってまだ30代後半だからなぁ」


 優子が結婚したのは高校を卒業して間もない頃。

 猛と淡雪の双子の兄妹を産んだのは20歳くらいのはずだ。

 

「確かに、年齢的にはまだ子供を望める年齢ではあるけどさ。マジで?」

「私と撫子にとっては異母兄妹、猛にとっては異父兄妹と言う非常にややこしい立場ながらも、夫婦にとっては待望の子供の誕生よ」

「……そうかもね」

「これで妹なら猛にとっては義理を含めて4人目の妹になるわ」

「いろんな意味で俺ってすげぇ」


 撫子、淡雪、結衣に続く妹だったらすごいことになりそうだ。

 

――俺としては弟でもいいけどな。


 どちらにせよ、血縁関係的には非常にややこしい兄妹になる。

 

「母さんだって再婚した父さんの事を愛していたし、ふたりの間に子供が欲しいと言うのも願望としてあったんだろ。とりあえずは、おめでとう?」

「それは言えてる。複雑な心境ながらもおめでたい事ではあるわ」

「でも、子供ができるのならもっと早くできてると思ってた」

「貴方達の事とか、いろいろとあったんじゃない。まぁ、それでも『ずっと望んでた彰人さんとの子供ができてよかった』って電話で嬉しそうに言ってたわ」


 優子にとって幸せな事なら良いことだ。

 ずっと猛達の事で苦労もかけてたし、子供としては応援してやるべきだろう。


「ところで、この話は何で撫子の前でしなかったの?」

「お母さんから彼女に言うのはまだやめてと口止めされてるのよ」

「なにゆえに?」

「さぁ、私も知りたいわ。とにかく、近々、正式発表があると思っておいて」


 あと、思い出しように雅は付け加える。


「ちなみに今回の件を説明するために、お父さんも帰ってくるのよねぇ」

「良いことじゃん。俺、何気に今年の正月以来会ってないぞ」

「私は車の免許を取った時に車を買ってくれたから、その時に会ったわ」

「それでも3ヶ月くらい前になるんじゃない?」


 父は忙しい人なので、子供でも年に数回会えるかどうかだ。

 政治家として今が一番忙しい時期らしい。


「なお、お父さんは貴方達の関係に興味がおありの様子です」

「マジで?」

「お母さん経由で話くらいは聞いてるみたい。ちゃんと説得しなさいよ? お母さんみたいに猛反対ってことはないかもだけど」

「……うーん。悩ましい問題ができました」


 基本的に父は厳しいが悪い人ではないので、話せば分かってくれると信じたい。

 気が付けば雅が目の前に立っていた。


「頑張りなさいよ、男の子」


 猛の頭をぐいぐいと乱暴に撫でる。

 これで励ましているつもりらしい。


「微妙にいたいっす。もう少し優しくしてくれ」

「えー。十分に優しいのに。猛って髪質が固いから撫でると刺さるから嫌だわ。まるでハリネズミみたいだもの」

「誰がハリネズミだ」

「ホントの事でしょ。撫子と同じシャンプーを使いなさい」

「フローラルな匂いをさせてどうする」

「さらさらな髪になるわよ」

「男の俺がさらさら髪を目指してどうする」


 そんなどうでもいいことを話しながら、猛は思うのだ。


「父さんか。ちゃんと話さなきゃいけないよなぁ」


 

 彼は来たるべき日に備える事となった。





「……兄さん。お母様が家にやってくるそうですよ」

 

 寝る前に廊下ですれ違った撫子が不機嫌そうな顔をして言う。

 先ほどの行為を邪魔されたことでまだ機嫌が直っていない様子だ。

 それはまた今度ということで。


「姉ちゃんから聞いたんだ?」

「ふふふっ。まだ私達の関係を認めてないようです。戦争ですかねぇ」

「戦争って……撫子は自分が気に入らない相手にかみつくのはやめなさい」

「私の人生、常に敵だらけですよ。戦ってばかりの人生です」


 その大半が撫子が吹っかけた戦いばかりなのだが。

 

――この子、自分の敵視する相手には好戦的だから。


 またもや、嵐の予感。

 

――知ってるかい、山から吹く風と書いて嵐って呼ぶんだよ。


 もう嵐だけはやめてほしい、猛であった。


「やめなさい。今の母さんをイジメちゃダメ。絶対にダメ」

「ん? どうしてですか? 敵ですよ?」

「お母さんを敵って平然と言わないであげて!?」


 今回は事情があるが、それ以外でもやめてあげて欲しい。

 

「撫子は本当に母さんと口げんかをよくするからなぁ」

「私、今回は勝てる自信があるんですよ。お父様も帰ってくるそうですから、この切り札を使う時が来ました。私が手に入れた切り札です」

「……何それ?」

「前回以上のお母様の弱みです。これで私達の関係を認めてもらいます」

 

 前回=高級ブランド品の買い物のレシート。

 相手の弱みを握り、相手を屈服させる撫子のやり方には異議がある。

 

「あの事件以上の戦争が起きると言うのか、恐ろしい」

「徹底的にやりあってもよろしいでしょうか」

「撫子、ホントにお手柔らかにお願いします」

「お母様が素直に私たちの関係を認めてくれたら許してあげるつもりですよ」

「……やばい、嵐が来るぜ」


 何度目かの嵐の到来。

 しかも、今度は複数の嵐が吹き荒れそうだ――。

 

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