沢山の花束と魔王
「中枢が近いです」
小さな声でリジェロがそう言った。
そういえば――ラムの姿が見当たらないのが気になる。
クオリとカケルとリジェロと王子は居るんだけど…何処に消えたのやら。
禍々しくも神々しいという絶妙なバランスの魔王城のインテリア(蝋燭立て)を見つつ、中枢とやらに続く階段をひた走った。
魔王を倒せばカケルの遊びは終わる。
終わったら今度はマルちゃんが逃した魂とやらを討伐しないといけない。
やる事成す事ハチャメチャな神々に付き合えるのは、きっと私が気にしていないからか。
いや、気にしていなかったからだ。
気に入られてはいるんだろうけど…私をなんだと思っているのやら。
ひた走る事数分。
王子がやっぱりバテた。
頑張って走っていたのだけど、やっぱりダメだった。
仕方ないので私が姫抱きをしてあげた。
顔を真っ赤にして嫌がっていたけれど気にしない。
私の好きにさせて貰うぜ。
ふよふよと適当に浮いていたカケルが、ぽすりと私の頭に乗っかった。
続いてもぞもぞと胸元に入り込む。
「余り男に触るものではありませんよ」
説得力皆無である。
「カケルも男じゃない」
言外に触るものじゃないよね離れろと言えば、カケルはふんぞり返って言い切った。
「婚約者ですから良いのです」
何時までその遊びを続けるつもりなんだろうか。
胸元でぬくぬくと温まるカケルに溜め息を吐いて、階段を一気に駆け上がる。
王子がもたついていたから合わせていたのだけど、最初からこうすれば良かったかもしれんな。
ラスボスの部屋に続く扉らしくない地味な扉が、先にぽつりと一つだけあった。
「あの扉の先に居ます」
ごくりと唾液を飲み込んで、ゆっくりと扉を開いた。
「ああ、漸く来ましたか」
男が居た。
落ち着いた、けれどやや冷えた眼差しを周囲にやってから、私の視線に絡め、途端に優しく微笑んだ。
ここ暫く私を悩ませる男と瓜二つなのは何故か。
弧を描く口元は記憶通りである。
認めたくはない。
認めたくはないが――6つの遺体と佇む柊翔が、ぽつりと置かれた椅子に座っていた。