又怪しい宗教団体
「――そろそろロックバレーという谷にある小さな街に着きます」
迷路となっている霧の森も、リジェロの案内ですいすいと進んで気持ちが良い。
やんややんやと遊んでいたカケルも飽きてきたのか…神聖魔法とかいうのを使って戦いだした。
長い沼地が全部抉れる程の威力であるにも関わらず、今のはメラゾーマではないメラだ的に全然本気の攻撃ではないらしい。
危ないので普通に物理攻撃で戦ってもらったけれど、その凄まじい戦い振りに私ですら引いた。
あの小さな体にあんなパワーを秘めてるとは…流石は腐っても神か…
「腐っているのは△△様で御座いますよ。私は香しい花のままで御座います」
「自分で言って恥ずかしくなって頬染めるなよ…確かにサンカクさんはもう駄目だ腐ってやがる遅すぎたんだ」
くっだらない話して幾ばくかすると、絶壁に沿って立てられた街が見えて来た。
ここがロックバレー…か。
岩肌が剥き出しのその街には、人間は全然いなかった。
居ても奴隷だったり貧民だったりと、不遇な扱いだった。
私達をじろじろ見る住民に不愉快になりつつ、宿屋を探して歩いて行く。
幸いにも、大金を持ち歩いてるお財布さん…いや王子が居るので金の心配はない。
リジェロの知り合いが居るらしい宿屋へ案内されて直ぐ、野次がとんだ。
「よう、リロイ!お前とうとう奴隷買ったのか?」
そんな失礼な事を、宿屋のカウンターらしき場所に居る爺が言ったのだ。
リジェロはとんでもないと高速に首を横に振ると、知り合いらしき爺に紹介してくれた。
「素晴らしく美しく優しくも鬼畜な理想の女王さゴホン…お嬢様はリンコ様。この白い美形さんは俺の尊敬する人で名前はクオリさん。この金髪碧眼はラファルさんです」
ちょ…王子の説明だけちょっと酷い。
「そうか!宜しくな!」
深い事は気にしない性格なのか、爺はガハガハ笑ってそう言った。
まあ別に良いけどもさ…ちょっとはリジェロ君の可笑しい所を突っ込もうぜ。
一泊分の金を払うと、友人だからと夕飯と朝飯をただでご馳走してくれると爺が言った。
この宿屋には食堂があり、朝昼晩と解放されているのだが…宿泊代と飯代は別料金らしい。
ただ宿泊代にちょっとの追加料金で朝昼晩と貰えるので、かなりの激安のようだ。味がちょっと心配だなぁ…
「大丈夫ですよリンコ様。わりと美味しいですから」
「流石にクオリさんの料理には負けますが」と言うリジェロの言葉を信じ、私は夕飯が待ち遠しくて仕方なくなった。
お腹いっぱい食べてやるのよ。
――で、風呂入りーの服着替えーのしてうだうだしてる内に夕方。
夕飯の時間である。
この宿屋&食堂は二階建てになっていて、二階が宿屋で一階が食堂になっている。
二階から降りて食堂へ行くと、店内はかなりの賑わいを見せていた。
…ていうか…客人がみんな黒頭巾なのはなんなの?
「…あと少しで…邪神様はお目覚めになるのだ…」
「…おお…我等が邪神様よ…」
「…生け贄は…まだなのか…」
「…しくじって居るのだろう…あのくずは…」
以上の科白が卍と目のマークが描かれた頭巾をしている集団の口から漏れていた。
「邪神いるの?」
密かにカケルに訊いてみたら、なんとも言えない顔して答えた。
「居りますよ。…邪神ポルポルが」
ポルポル…なにそのネーミングセンス…
「まあ…徹夜明けのテンションでしたので」
崇めてしまっている人達が不憫でならない。
例えデータの存在だとしても、なんだかいたたまれない。
そっと、見なかった事にしておいた。
頼んで出てきたご飯を夢中で食している最中に、店内が騒がしくなった。
気になって見てみると、邪教徒?が王子を生け贄に決めたと叫んで取り囲んだ所だった。
王子が迷惑そうな顔でそれでもご飯を食べていた。
結構図太い奴だよな…王子。
クオリは完璧に傍観を決めていて、カケルに至っては賭けをしていた。
カケルお前…
「我等が神ポルポル様の為に貴様の命貰い受けた!」
明らかに60歳の爺の声で真面目にそう言うものだから、私の口から水が吹き出そうになった。
まじでひっどいネーミングセンスだ。
カケルは我関せずという顔をしているが、作り出したお前がそもそもの責任だろと睨むと高速で逃げられた。
なんて野郎だ!
その間にも王子が狙われていて、余りにも可哀想だった。
ていうかなんだか両方が可哀想だった。
なので私は、暴力で以て争い事を鎮圧したのであった。
「リンコ…た、助かったと言ってやる」
姫抱きで助けてやった王子がそう言って照れていた。
「気にするな」
「リンコ……ありがとう…」
私の言葉に感動したらしい王子が、頬を赤くして小さな声でお礼を言った
初やつめ。
…あれ?なんか普通逆じゃない?普通私が助けられてポッとなる所じゃない?
考えたら深みに嵌る気がしたので、何も考えない事にした。
その後――目覚めた邪教徒からポルポル様扱いされた私は本気でキレた。