悪意に満ちた配置
このお野菜の絵が王子様の似顔絵だというのは残念ながら間違いない様で、クエストクリアの文字が浮かんだ。
これが乙女ゲーなら今すぐ制作した会社に乗り込むレベルだ。
息する時間もなく直ぐに新たなクエストが発生したらしく、カケルが慌てて読み上げた。
「ええと…《緊急クエスト! 街中に現れた四天王の1人 緋のラルゴを倒せ! 報酬 緋緋色金のアーマードレス》だそうです」
もう四天王!?
つーかやっぱり中ボスも用意されてるんだ…
「ひひいろかねのアーマードレス?なんでこいつ、ドレス持ってるの?着けてるの剥ぐの?」
ドロップという概念が一切無いクオリ君が、至極当然な質問をカケルに向けた。
それに微妙な顔で答えた。
「緋のラルゴとやらは…厳つい御老体の姿を為さっている様で御座いますが…。それと異変が起きた後のこの世界には、どうもドロップというシステムがないようで御座いますね」
私とクオリは同時に答えた。
「「無視しようか」」
それは心の底から同意した瞬間だった。
だがしかし…殆どのゲームが《だが逃げられない》やら《しかし先回りされてしまった》やらの表示が出るだけで、重要な中ボス戦は逃げる事は不可能だったりする。
これは誘発的に起こる重要な固定イベントだった様で、テントから出るとやや歪なハートの形の顔をした老人が立っていた。
二人してその外見を凝視し、ほっとした。
ピエロみたいな服を着ている御老体に、とてもほっとした。
だがそれを相手は自分を舐めて掛かっているとでも取ったのか、此方をにやにや嗤いながら「ただの老人如きかとでも思ったのか?だがしかし、我は最強にして最高の御方に仕えし四天王、緋のラルゴであるぞ!その間違った認識を――」と宣っている。
長いし五月蝿いので端折らせて頂いたが、まあ取り合えず要約すれば「老人だからと油断してるみたいだけど我はすっごい強いよ。だから死んでね!」って感じかな。
我等の母は慈悲深いその優しき母なる闇に抱かれ安心して死ぬがよい――とかそんな感じで本当はすっごい長かったけど、そんな感じ。
取り合えず武器を怠そうに構えるクオリに倣い、私も棍棒を構える。
にたにたにやにやした老人VS若者2人という構図が出来たわけだが、決してこれは苛めとかそういう類ではない。
あれだあれ。
正義のヒーローだってよってたかって悪を殺すじゃん。そんな感じ。
切り裂く行為が苦手なので棍棒をチョイスした私は、ハート爺をぶん殴った。
余裕綽々で避けるハート爺だが、まさかこれは読めなかったのだろう。
巨大な棍棒の先が割れて吹っ飛び、中の鉄球付きの鎖が8本飛んでいった。
8本の内3本が見事に命中し、ハート爺が吹っ飛ぶ。
それをクオリが何だかよく判然らないけど異様に禍々しい魔法を使い、追い討ちを掛けた。それも命中。
そのよく判然らない魔法の効果なのか、赤白黄の色の気色悪い花を咲かしたハート爺。
最後は全身の穴という穴から血とピンク色のようなヘドロを撒き散らし、負け科白を上げ様とするもクオリにナイフを突き刺されて吠える事すら出来ずに消えていった。
考えてはいけないのだ。
本当に私って要るのかななんて事は。
ハート爺の消えた地面は異様にピッカピカの赤い宝石で埋め尽くされていて、その上には赤い可愛らしいデザインのドレスが鎮座していた。
「もしやあのハート爺がそのドレスになったのかな…」
ハートのデザインの可愛らしい服を見て、なんとも言えない気分になった私を、クオリはにこやかに見守っていた。
そうか、そうだ。
「クオリが着れば良いんだ」
「…………え?」
その後、クオリを小一時間以上追い掛け回した事は言うまでもないだろう。