紅月の照らす花畑
暫く彷徨い歩いていると、花畑に辿り着いた。
「そろそろ街に着きますが…可笑しいですね」
轟々と赤く街が燃えていた。
遠くの家も滑車も赤黒い見えた。
「人間の、女の子がいる」
そう言ってクオリの指差した先には、ぷるぷると仔兎みたいに震えている女の子が居た。
近寄ろうとするとびくりと震えるので、カケルに向かわせた。
見た目は人畜無害な妖精さんだから、きっと怯えないだろう。
「こんばんはお嬢様。紅月の花畑は綺麗で御座いますね。所で…どうして街が燃えているので御座いますか?貴方様のお母様とお父様が「きみ、ずけずけと訊きすぎ!酷い!」蹴らないで下さいまし!私はただ婚約者のお強請りを聞いただけで御座いますぅ!」
あんまりにも(カケルが)酷かったので、クオリのドロップキックが炸裂。
綺麗な放射線を描き木に刺さる――事はなく、何故か私の頭に跳んできた。
余りにも物理法則を無視した動きだった為、反応出来なかったのが悔やまれる。蹴り返したかった
そして、変な妖精に絡まれた女の子は、呆然としていた。可哀相に…。
頭上にぺたりとくっつき虫になってる小動物は置いといて、茫然自失となっている女の子に声を掛けてみた。
「大丈夫?怪我はない?」
しゃがみ込んで出来るだけ優しく問い掛けてみると、女の子がカッと目を見開いて「天使さまだ…」と呟いた。
天使?もしかして…私のこと?もしくはアルビノ色したクオリ君のこと?
カケルは…ないな。うん、どっちかというと羽虫だもの。
「可愛らしい私を羽虫扱いとは…凛子様は見る目ありませんね」
女の子はカケルを見てびくっとした後、私を見て言った。
「この真っ黒黒助は…なぁに?」
「ふはっ」
背後に立つクオリが思わず噴き出す。
それで漸くクオリに気付いた女の子は、クオリを見て「光の聖霊王さま…」と呟いた。
成る程。
女の子の中では、私が天使で、クオリが光の聖霊王で、カケルが真っ黒黒助か。
カケルだけ真っ黒黒助(笑)とか神々しさの欠片もありゃしない。
憤慨して手をパタパタとするカケルを見つて、女の子が恐る恐るカケルの頭を撫でた。
「さらさらしてる…けっこう可愛い」
あ、カケルったら上機嫌になったな。
緊張を解いたみたいなので、改めて問う。
「怪我は大丈夫?してない?」
あ、という顔をした女の子は、次の瞬間大泣きしだした。
「お母さんとお父さんがね、怪物に襲われちゃったの!どうしよう…私なにも出来ない…」
とりあえず「よしよし」と女の子の頭を撫でてから、服の袖を捲った、
「任しときなさい。怪物をこてんぱんにしてくるから」
パッと女の子が明るくなり、だが直ぐに暗くなった。
「駄目よ!天使さまと光の聖霊王さまは…戦いには出ちゃ駄目だって神様に言われてるお方なの、私知ってるの。だから駄目なのよ!嬉しいけど…でも…」
ぼたぼたと泣く女の子を見ながら、カケルが「こんなに作り込んだ記憶はないので御座いますがねぇ」とぼやく。黙れシリアスクラッシャー。
「私は天使じゃないし、あっちのお兄ちゃんも聖霊王じゃないの。だから大丈夫だよ」
任せろとサムズアップすると、女の子の目が真ん丸になった。
「ぼく達、ただの人間。それにうんと強いから大丈夫!理不尽ばかりする神様だってぶっ殺せるよ!」
握り拳を作るクオリを見て、ぷるぷる震えるカケル。
あのねカケル君、こういうのって自業自得って言うんだよ。知ってた?
「ありがとうお姉ちゃんお兄ちゃん!すごく綺麗だから…私てっきり天使さまと聖霊王さまだと思ってた。あの…気を付けてね!」
そう言って女の子がくれた薬草十枚とエリクサー二つを貰い、私達は目の前で轟々と燃えてる街を目指した。
…のは良いのだけど、目の前に見えるのにけっこう遠い。
「最初のクエストの様で御座いますね。内容は…《街を襲うゴブリンの殲滅 報酬、薬草10枚、エリクサー2本、王子様の似顔絵》で御座います」
「倒したら王子様の似顔絵が貰えるという訳かぁ…」
「やる気失せる、そんな報酬してる。ぼくせめて姫助ける方が良かった」
2人して微妙な顔をしていると、カケルがニパッとウインクをした。
「私の笑顔も付いてきます!」
無視したら丸まって泣き出しちゃった。
人の旋毛辺りで泣くなうざい!