潜む黒い影と□□
「面白そうだからさ、協力してあげるネ」
ころころと笑う少年に、青年は笑って返した。
「良いのですか?貴方がそんな事をして」
そう問う青年に少年は小さく「だって」と呟く。
「神界って詰まらないんだもん。其処にいる奴らも詰まらないだもん。ワタシを理解してくれないんだもん。こーんなに、愉しいのにサ」
何かをカチンと叩いて満足そうに微笑む少年に、青年は「調子づいたら足元掬われますよ」と溜め息を吐く。
少年は気にした風もなく「××は抜けてるから大丈夫だよ」と返した。
「それにさ、××だけが人間で遊んでも許されるなんて狡い!」
少年の睨む先には凛子達が映っている。
「ワタシだって遊びたい!もっともっと遊びたい!××だけ許されてて狡い!狡すぎる!」
青年はただ黙って話を聞いていた。
少年はそんな青年を見て「ノリ悪いな君は」と項垂れるも、青年はうすら笑いを浮かべるのみ。
「大丈夫だヨ。凛子…だっけ?手を出さないようにするヨ」
「信用出来ません」
間髪入れずに返された言葉に、少年は酷いとけらけらと笑う。
「うわ…〇〇から妨害が入った」
そう呟いて顔を顰めた少年に、青年は「ほら見なさい」と呆れかえった。
少年の覗き込んでいる画面にはエラーの文字が大量に並び、これ以上弄る事は出来ないと悟る。
ロックが掛かったかもしれない。
現在地がバレると面倒なので、直ぐに接続を切る。
暇になった少年は足をぶらぶらとさせて不満そうだった。
「××を早く消したいヨ翔。君だってそろそろ回復してきたでしょ?」
翔と呼ばれた青年は、ニタァと笑った。
「××は私が吸収するのです。アレでも元々は私の一部ですからね」
「抜くのも中途半端になっちゃったお陰で、かなり偏ってるけどネ」
「誰の所為ですかねぇ?」
「誰なんだろーねぇ?」
くすくすと2人で笑った後、暗くなった画面を見つめた。
そこにはもう映っていない、彼女に想いを馳せて。
「ワタシはまた、〇〇をからかって来ようかな?」
「貴方様は…〇〇様にまた何をさせる気なのですかねぇ」
「君みたいな面白そうな事だヨ」
エンカウントするモンスターが急にクリーチャーになった為に、私は引きつり笑いしながら剣を振るった。
「振り方が違いますよ凛子達!脇を締めて下さいませ!」
映像処理?なにそれ。
なんてPTAに喧嘩売ってるとしか思えないグロ仕様になったこのゲーム。
楽しんでるのはカケル君だけで、クオリに至っては「このタイミングでまた巫山戯るとか神様って阿呆なの馬鹿なの」と罵詈雑言ばかり出る始末。
思考が確かに翔お兄ちゃんとは違うなって思ったよ。
だけど思いやりの1グラムもない感じなのに善の塊だなんて言うもんだから、蹴ったり殴ったりして全否定しておいた。
私の翔お兄ちゃんを汚すな!
翔お兄ちゃんはな…翔お兄ちゃんはな…美味しいご飯をくれる良い人なんだ!
こんなんじゃないんだから!
「忘れていたようですが」
「それはアレだよアレ。すっごく健気な私は悲しみメーターがオーバーしちゃったからだよ」
あの時は私、悲しみの余り何も食べれなかった。
市太郎ですら私に触れないようにしてたんだから、よっぽどだと思う。
余りにも深い悲しみだったからか、翔お兄ちゃんの母親がカウンセラーを用意してくれたし。
今思うと翔お兄ちゃんの両親にとても残酷な事をしちゃったな。
翔お兄ちゃんの事は何も言わずに面倒見てくれてたし、最後は呆気なく死んじゃったし。
全く孝行出来なかった。
「その心掛けはご立派だと、私は思いますよ」
「カケル…」
「ですから私をもっと楽しませ…早く魔王を倒しに参りましょうね、凛子様!」
畜生!そうだよコイツ、こんな奴だったよもう!
一瞬でもときめいた私の馬鹿野郎が!
「婚約者になんて酷い攻撃をなさるので御座いますか!目潰しなど…恐ろしゅう御座います…!」
私の目潰し攻撃を華麗に避けたカケルに、クオリが「あのね、恐ろしいのは君の自己中っぷりだと、ぼく思う」と言いながら蹴りを入れた。
わあ…カケルがモンスターに当たった。
しかも倒しちゃった上にレベルアップの文字が出た。
クオリも加わって初めてのレベルアップなので、ちょっとわくわくする。
クオリはレベルいくつなんだろうか。
《Lv up
リンコLv50→Lv250
クオリLv8200→Lv8201
カケルLv$5*+→Lv*9%4》
「なにそれ…なにそれ!」
「リンコ、どうしたの?」
私がorzのポーズで項垂れていると、クオリがにこにこしながら近寄ってきた。
いま、まあ、うん。
「私の戦う必要性を問いたくなっているのだよ」
「あのね、リンコはすっごく必要!ぼくに必要なの!ずっと横に居て!」
私が戦う必要ないと思うの。
魔王なんかクオリが殴ったらパーンってなって直ぐ終わるじゃない。
王子様もパーンってしそうだけどねうふふ。
「うわーん!リンコがいじけちゃった!あのね、カケルの所為だから死ね!死んで!死んで下さい!」
「攻撃止めて下さいませ!攻撃止めて下さいませ!」