□□のハッキング
「私、クオリ様を投入した覚えが御座いませんが…」
「ぼく頑張った!」
どう頑張ったら原理のよく判然らない此処に来れるんだ?
その問い掛けはカケルにやたらとイイ笑みを向けるクオリには出来なかった。
しかたないよね。クオリだもの。
「普通は頑張ったところで入れないもので御座いますが…まあ、来てしまったものは仕方ありません!魔王城へ向かいましょう!」
「…レベル上げとか村人助けとかそういうのはしなくていいの?」
「クオリ様も王子様を救出なされるのであれば、残念ながら必要御座いませんね。村人助け?なんですそれ?助ける必要性を感じられません」
カケルは…善の心を抽出してこれなの?こんなにどす黒い心をしているの?心まで大好きな黒色なの?
その問い掛けは、記憶の中の翔と全く同じ笑みには出来なかった。
「王子様?おんなのこじゃなくて?」
カケルの言葉を聞いて、眉間に皺を寄せたクオリ。
わあ…珍しい…
ただし顔はいつも通り(満面笑顔)なのでちょっと怖い。
「そうで御座います。これは恋愛戦闘ゲームで御座いますから」
「ぼく、あの女神さんからは侵略戦争的なものって、そう聞いたけど」
「な、なんですって!?誰かが仕様を変えたという事ですか!?道理でなにか可笑しいとは思いましたが…ストーリーをランダムにしたのが良くありませんでしたかね…」
良かった…乙女もぶち切れかねない酷い内容のこれが恋愛ゲームじゃなくて。
クオリが妖精の姿で項垂れるカケルを見下ろして、溜め息を吐く。
そして力を込めて掴んだ。
カケルは悲鳴にならない悲鳴を上げているけれど、クオリは一切力を弱めない。
なんか、怒って…る?
「リンコと2人きり、ずるい」
「ほんひゃふしゃひょひっひょへひゃひひゃふぁふふぃ!!」
「ぼくそんなの認めない!」
何言ってんのか解ったのクオリ君。
私全然解らなかったよ。
さっきまでクオリに全力で潰されていたほっぺをさすりながら、カケルが唸る。
そして無表情で「やべーで御座いますよ」と呟いた。
言葉が崩れるくらいの衝撃を、何かによって受けたようだ。
虚空を見つめ、困ったように手で頬を掻く。
悲しい事に、嫌な予感しかしない。
私もクオリも顔を険しくし、黙ってカケルを見つめる。
そしてぽつりと落とす。
「神界の誰かに乗っ取られたようで御座います。システムが書き換えられましたよ」
「え…ちゃんと帰れるの?」
私の怯えた声に気付いてか、カケルが慌てて「クリアすれば帰れます」と答えた。
クリア条件自体は変わっていないというらしい。
やっぱり王子を救出しなければいけないのか…
「話の仕様やらがお茶目なラブストーリーではなくなりましたので、気を付けて下さいませ。…まあ、私の元々の目的はあくまでも凛子様に死に狼狽えないようにして貰う為ですので問題ありませんし」
とても不吉な科白が聞こえた気がしたけれど、私は聞かなかった事にした。