赤銅色の洞窟内で
「凛子様、まずはレベルを上げなければなりませ…きゃうっ!?何をなさるので御座いますか!!」
「ごめん羽虫にしか見えなくてつい…」
ぐりぐりと足で小さなカケルを踏みにじると、じたばたじたばたと藻掻き苦しむ。
その様は正にゴキ「流石にその生物に例えないで下さいましっ!」ちっ。
嫌がらせとしか思えないタイミングで更に嫌がらせとしか思えないゲームの中(此処は電脳世界らしい)に放り込まれたので、私はとても機嫌が悪い。
思い出に浸る隙をくれないとか本当にKY(空気読めない)な。
翔お兄ちゃんも結構KYだったけれど、理性というリミッター的なものが消え去ったっぽいカケルはもはや無敵だった。
もう本当に、売り物の剥き出しのパンを手掴みして戻す老人並みに無敵だった。
敵は時々変な敵が出てくるけれど、大抵は可愛い生き物だった。
可愛らしいうさぎに可愛らしい猫等…倒す度に悲痛な鳴き声を上げて倒れていく小動物達。
きっとクオリが居たらマジ泣きすると思う。彼は結構可愛いもの好きだから。
それを倒して経験値を稼げと言うカケルは、鬼畜以外の何者でもないと思う。
取り敢えず私は、カケルの首に首輪を付けて引き摺った。
「婚約者になんてことをなさるので御座いますか!鬼畜!」
「お前が言うな」
さて、所変わってもの凄い森の中。
赤銅色の妖しげな洞窟を見つけてしまった。
「この中には仲間になる人が捕まっております!」
…との事なので、嫌々ながら入る事にした。
割と広くて暗くて長い洞窟内は、ひやりと冷たかった。
一寸先も闇で見えない中、唯一の光源はカケルだった。
発光…してる…
「私キュートなサポート妖精さんで御座いますので☆…ひっ!!や、止めて下さいませぇっ!!猫掴むみたいに首を掴まないで下さいませっ!!」
だって、すごく、むかつく。
そのまま歩いて行くと、何やら血なまぐさい臭いがした。
とても…嫌な予感がするんだけど。
行かなきゃ駄目かい?
ダンディな誰かが脳内で『まあ行かなきゃ駄目だろうな』と囁いた。
ゆっくりとゆっくりと臭いの元に辿り着く。
其処には明らかに魔術師っぽい格好した真っ白いにこにこ笑顔の見覚えのある男性が立っていた。
ク、クオリーー!
走って行こうとするその準備を脳はしてるけど、身体は本能からか動かなかった。
私の身体さんはチェーンソーを持ったクオリに近付きたくないみたいだ。
Uターンをした。
「行かないので御座いますか?」
「なんだか勢い余って血祭りに上げられそうで」
怖い。そう言い切る前にクオリがチェーンソー持って駆け寄ってきた。
「リンコーー!」
にこやか笑顔に片手にはチェーンソー。
極めつけは斑に赤い背の高い男性という恐ろしさに、嘗て無い程に身体は素早く動いた。
やたらアクロバティックにクオリのハグを回避したのち、洞窟の外へと向けて走った。
が、直ぐに捕まった。
「追いかけっこ、ぼく得意!えへへー、リンコ捕まえた☆」
チェーンソー当たってる!チェーンソー当たってる!チェーンソー当たってる!チェーンソー当たってる!
すりすりとわんこの様に懐いてきたクオリを引っ付けたまま、洞窟の外へと出る。
そこで思い出す。
カケル、やけに静かだなって。
ちらりと見ると、青くなってた。
あ…掴んだままだった…
まいっか、カケルだし。