激闘後一先ず段落
「ぼくに捕まってて」
クオリが片手で私を抱いたまま跳躍した。
もう片方の手で握る剣で急降下して来たドラゴンを受け流しつつの跳躍なのに、妙に滑らかに着地した。
受け流し方が凄く上手いんだろう。
勢いを殺されたドラゴンはよろめき、其処を賺さずシザリオンとヴァーデが挟撃。
両側を抉られたドラゴンは、攻撃しようとした姿勢のまま踏鞴を踏んだ。
どうやら迚も痛かったらしく、隙だらけだった。
それを更に攻撃しようと地を踏み出したヴァーデに「深追いはだめだよ!」とクオリが叫んだ。
それを聞いたヴァーデは、素直にステップでクオリと私の元まで素早く退却した。
その直後、そのヴァーデが踏み込んでいた場所を呑み込むような凶悪な魔法が展開し、小規模とはいえ核爆発かのような衝撃波で森の木々を押し倒した。
う、裏山が大破してしまう。
何か考えていたクオリはやがて、厳ついデザインの剣ではなく、妙にポップな銃を取り出した。
何をする気だろうか。
ドラゴンが何やら大口を開けて炎を吐き出そうとしている所に、クオリは銃弾を放った。
パシュッというサイレンサーが付いてるっぽい銃にしては静かな音を立てて、ドラゴンの口腔に入っていった。
瞬時に倒れたドラゴン。
鼾をかいている辺り、どうやら眠らせただけのようだった。
「随分と呆気なかったですね」
空間が裂けて、其処からカケル君が現れる。
こいつ避難してやがった!
どう調理してやろうかと思って見ていると、慌ててドラゴン市太郎に向かって手を振り翳した。
キラキラしい光を浴びて元に戻っていく市太郎。
「分離させておきました。…本来ならば他世界にいる存在を一体化させる事など出来ないので御座いますが…情報を書き換えたようで御座いますね。所謂ラスボスの方が」
「しかも抜かりのない方なのか、居場所が全く解りません」と朗らかに言うカケル君をぶん殴りたくなった。
なんだこいつ。
「でも生産する機能は徹底的に破壊致しましたので、今までのような事態にはならないと思われます。まあ…RPGに例えますと、魔王軍が消え失せ後は魔王のみという状態ですが、その魔王自体もHPを極限にまで減らしましたので、暫くは動けない事で御座いましょう」
「お疲れ様で御座いました」と、言いたい事を言って直ぐさま消えた。
この振り上げた手をどうしたら良いんだ。
「ねえリンコ…疲れたから帰りましょうよ」
その振り上げた手をそっと握って、ヴァーデが呟いた。
その声からしてすごく疲れているみたいなので、頷いておいた。
「タナカイチタロウ殿は我が輩が背負って行こう」
シザリオンが市太郎を片手で持ち上げた。
どちらかというとそれは人を背負うというより荷物を背負うという感じだったけど、まあ市太郎だしいっかと思ったので何も言わないでおいた。
「私、今日の夕飯は味噌汁がいいなぁ」
「あら、みそしるって日本のスープよね?私、お豆腐とジャガ芋入ってるのが大好きだわ!」
「学食で食べた事あるが…我が輩はトウフとワカメが好きなのである!」
「わかった!いっぱいがんばる!」
「…頑張るって何を頑張るのクオリ」
「何故かしら…嫌な予感がするわ」
「我が輩もちょっと嫌な予感が…」
「とうふつくって、わかめ取ってきて、味噌えぐるの!」
「「「絶対それ味噌違い!!」」」
「止めてそんなえぐいの流石にクオリ死んじゃうし」
「そうよ!トラウマ残さないで死になさいよ!」
「頼むから売ってるふえるワカメちゃんとトウフとあかみそを使って欲しいのである!」
「ぼく別にしなないし美味しいのに…わかった!すり潰してバレないようにする!」
「そ、そんないい笑顔で言われても…くっ付いて邪魔するから」
「ふ…ふつうにっ作る…だから、おんなのこが、おとこに、くっついちゃだめだよっ!!」
「ヘタレめ」
「ヴィヴァルディうるさい!」
「宰相殿(笑)からはよくくっ付いているではないか」
「シザリオンのくせに、生意気!ぼく作るとき、うなぎをいれちゃうよ!?」
「ウナギは嫌だ!!あれは悪魔の食物なのであるっ!!」
「鰻は煮ても焼いても生でも美味しいのに…」
「リンコ…生は止めておきなさいね…」
「え~…わかった…」