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情緒不安定なひと

「もう死にたい」


「だめだよリンコ!あきらめたら、そこで終わりだよ!」


取り敢えず良く解らないこの場所から帰ろうとしたけど、ゴキブ…黒い魔物が出入り口にだけ沢山いらっしゃったので一気にやる気が失せた。


ただでさえほら、私って叫んだりとか余計なカロリー使うの嫌いなのに、今は沢山使わされてるじゃない。


グロいのはクオリだけで良いのよもう。


横で青ざめているヴァーデに「気分悪い?大丈夫?」と問い掛けると、儚げな笑みで「大丈夫よ…」と答えてくれた。


ちなみにシザリオンはもう全快して元気である。


…それにしても、どうして私に粘着質に絡んで来るんだろう。


あんな見てるだけで疲れそうな美形と関わり合いになった覚えはないのだけど。


眉を寄せて考えていると、クオリに横から可愛く「そういえばリンコ、ひどい事されなかった?」と訊かれた。


酷い事、ね…。


瞬間的にあの情景を思い出した。


「な、なにも、なかったぜよ」


ぴくりとクオリが動く。

そしてにこにこした何時もの顔で私にずいっと近寄って来る。


何故だろうか。すっごい鳥肌が立つのは。


「ふぅん…本当に、何も、なかったの?」


「なにもなかったよ」


「そぉなんだぁ」


ひぃっ!

柩と同じ喋り方をクオリはしないでなんか怖い!!


「…言うなら今の内だよ?」


「舌突っ込まれました!」


即答した私は最早羞恥心を捨て去っていた。

だって、だってだよ。つい先程まで魔王レベルの邪あ…コホン…ニヒルな笑みを浮かべてたクオリに、其処まで言われて騙し通せると思う?

絶対アレだよ…私の夕御飯とか貧弱なメザシとかになると思う。


ご飯さんは私の唯一無二の娯楽にして生き甲斐にして恋しい嫁さんなのに無理だよ。


乙女心<<< 越えられない壁<<<食欲で戦わせたら食欲の圧勝だよ。

ノーダメージで圧勝だよ。


形容しがたい悪夢だと思いたい程の、グロ耐性すら付いてきた私を気絶させかねん程の、そんな顔をクオリは一瞬浮かべた。


般若?可愛いよね!そんなレベル。


クオリはズボンのポケットから歯ブラシと2Lの水のペットボトル(物理的に可笑しいだろ!)を取り出して、私の頭をガシッと掴んだ。


そしてそのまま怖くて微動だに出来ない程のスピードで口の中を洗われた。


は、歯医者のドリルと同じような音がしてないかい?手動の筈なのに。


その後水を全て使い切る勢いでうがいをさせられた。


仕上げに妙に高そうな純白のハンカチを取り出して、私の口元を上品に拭う。


「あ…ありがとう?」


「どう致しまして?」


にこにこと笑みを浮かべているクオリ君。


怖いよ…なんか怖いよ君…


「消毒しなきゃ駄目だね、雑菌だらけだもん」


ちょ、猛烈な勢いでファブらないで!!


ああ…一気に体中からファブ〇ーズの匂いが立ち込めてきたよ…


「駄目だこんなんじゃだめだよちゃんと洗わなきゃ落ちないよ落ちない落ちないんだよあの男の穢らしい匂いが早く落とさないと早く綺麗にしないと早く此処から出ないとあの男の吐いた二酸化炭素を凛子が吸う羽目になっちゃうそんなの僕が許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないぃ!!」


私を片手に抱き、もう片方で無理やり2人を掴んだクオリは、全員をがっしりと掴んだまま高速で移動した。


もう舌を噛みそうな程の高速移動だった。


しかもその移動中、ずっとノンブレスでクオリ君は呟いてる。


「――大体いい加減頭にキてたんだよ僕の凛子につきまとって誰だか知らないけど勝手に部屋に入ってずっとカメラ使って見張ってても何故かカメラに映らないし何の罪もない可愛い鳥さんとか使って来るし本当におちょくってるとしか思えないなんて言ってたら今度は怯えてる凛子を汚して――」


こわいよくおりくん!!


いつの間にか妙な知識を蓄えている所も然る事乍ら、その相変わらずのノンブレスな科白をかれこれ一時間は吐いてる事が超怖いよ!!


家が見えて来て、多分落ち着いてきたんだろう。


クオリ君…いや、クオリ様は無言になった。


ピタリと笑顔のまま表情が固まっているのがピエロみたいで怖い。


魔法で玄関を開けてから、ヴァーデとシザリオンをぶん投げる。


わあ、ストライクだね!


痛そうな音と共に玄関の床に突き刺さる2人。


ガクブルしつつも、大人しくしておいた。


ほら、私、まだクオリに抱かれてるし。


どうでもいいけど抱かれてるって単語ってなんか卑猥だよね。


その2人を踏んで家の中に入る。


シザリオンの頭にクオリと私の靴が置かれていくのを見て、内心謝っておいた。

多分きっと臭い。臭くて御免よ。でもクオリのはフローラルだと思うよ。良かったね。


「さて」


風呂場の前で下ろされて、冷や汗が流れる。


だって…彼の赤い目に怪しい光が入っているんだもの。


「…何をしたいか、わかる?」


「わかりますん」


「わかってくれるの?ありがとー!」


私の精一杯の拒否(?)をスルーして元気いっぱいにお礼を言うクオリ。

ただし目は笑ってない。


う、うわぁぁ…どうしたら良いんだこれは!?


怯えていたら、クオリは困ったように言った。


「体、きれいに洗ってきてね?…おいしーの、作ってくるから。ぼくを…きらわないでね?」


捨てられまいとする子犬の様な表情をしてそう言うと、タオルと着替えを渡して去った。





「…危なかった」


てっきりクオリに洗われるのかと思ってたからか、顔が熱い。


多分私の思考を読んでない…よね?


………長い風呂になりそうだ。

飽きてきたので、多分もうそろそろ終わらせると思うのです。

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