魔王が降臨した!!
「何処だ此処は」
冷や汗をかきつつ、辺りを見回す。
悪趣味な程に豪奢な作りの部屋に、これまた家具職人が魂を込めて作ったような箪笥にテーブルが置かれている。
どれもファンシーで可愛い猫足が付いてる。
フリルがたっぷり付いたレースのカーテンとか色々見つけてしまい、がくぶるとする。
たた、大変だあぁぁぁぁ!!
これを盗んで売ったら滅茶苦茶美味しいレストランに行けちゃうよぉぉ!?
なのに盗む為のものが……瓶!
瓶を取り出し、悩む。
吸い込んだら取り出せないのだろうか。
皇帝…ティオの私物っぽいので、帰って来る前に掻払いたい。
泥棒?
いえいえ、ただちょっとお借りして返さないだけですよぉぐへへ。
ディープな何かをされた気がするけど、きっとアレは私の白昼夢だろう。
本当は涎とか垂らして寝ていたに違いない。
唇が妙に濡れた感触がするもの。
ついーっと唇を指で拭ってみると、異様に赤かった。
そして思い出す。
あの妙に赤い唇を。
「う、うぼぁぁああああ!!」
ま、まま、まさっ、まさか!!
この赤色の染色はまさか!!
口紅!?
ティオは口紅を塗っていらっしゃった!?
口紅!!あの顔で!!く、ち、べ、に!?やめっ、止めてくれ皇帝様!!私の腹筋の体力がスペラ〇カー並みにまで落ちてしまったじゃないか!!
思わず変な悲鳴を上げてしまったと、額の汗を拭った。
それにしても…
「これはもしや、趣味なのかな」
ティオ…どんな顔してこの家具を選んだんだろう…。
ぷ、ダメだ!
想像してはいけない!!
散々笑った後に、溜め息を吐く。
……なんだか虚しいや。
部屋を出ようと立ち上がり掛け、ふらりと体が沈む。
力が入らない。
何度も立ち上がろうとしても、力が入らずに崩れ落ちる。
何かされたのだろうか?
魔術で体の補強をして、立ち上がる。
うん、全然大丈夫だわ。
扉を開けようとするも、ガチャガチャという音がするだけで開かなかった。
面倒なので扉を蹴破り、妙に静かな廊下を見る。
おお…!!
売ったら高そう!!
何故か涎がだらだらと流れそうになる。
欲望に正直過ぎる体だわ。
頑張って誘惑から逃れ、細く豪華な廊下を走って行く。
一本道なので迷いなく、気配もないので驀進あるのみだ。
やがて何個か気配のする場所が見えてきたので、スピードを落とす。
気配を絶ってから、問題の場所まで近寄った。
んー?
かなり開放的なお家の玄関かな?
剥き出しの柱がお洒落だわ。
柱に隠れて、気配――クオリ達を見守る。
余裕綽々のティオに対し、人外2人以外はへとへとだった。
まあ、シザリオンと柩は人間だからねぇ。
ヴァーデは人間だった気がするんだけど気の所為だったようね!
取り敢えず、応援を送っておく。
頑張ってーー!!
その時、チラリとクオリが此方を見た。
ニタァァアア
う、うわぁあああぁぁぁぁぁぁ!!!!
邪悪過ぎる笑みだった。
ちびるかと思った。
あれは宰相なんてレベルじゃない。
あれは…魔王レベルの禍々しさだった。