人間と魔人と女神
ハロー!私は凛子!ただの女の子だよ、きゃは☆
…只今じめじめした地下の中に居るので、とても陰鬱な気分になってきた。
前にクオリと一緒に行ったあのエレベーター(仮)で、クオリ君がラットランドのボタンをガン見しつつ押しそうなのを何とか止めて、恐山のボタンを押した。
本拠地が其処の下にあるらしいが、なんて恐ろしい所に作るのか。
お陰でガタはアシアシだよもう。
テーブルがいっぱい並べられている所を通過中な私達だけど、サバトをしましたというような内装にヴァーデがぷるぷる震えながら私にしがみついていた。
それをクオリ君が「こわい?こわい?ねえ、こわいのー?」と言いながら、嬉しそうに笑っている。止めたれ。
「リンコ…いざという時は私が貴女を守って見せるから見捨てないで…」
「リンコは優しいから絶対に見捨てないのである!」
ガチ泣きしてしまったヴァーデを、あわあわしながらシザリオンが慰めている。
ヴァーデは「そうよね、リンコだもの」という意味不明な信頼からかパァッと笑顔になる。
ヴァーデを泣かせてしまったクオリは、やたらと辺りを叩き割ったりしている。
多分、何かしら意味はあるんだろうけど…不良にしか見えないよクオリ。
更に進んで行くと、数多のすすり泣きが聞こえてくる。
それは老若男女問わずに重なり合っていて、まるで地の底から響くようなぼやけた声だった。
俗にいう、亡霊の声のようだった。
ビクッと体を震え上がらせたヴァーデは、しかし、何ともなかったように「うるさいわね!もう!」と叫んだ。
ちょっぴり声が震えていたけれど、体もぷるぷるしているけれど、私を安心させようと平常心を保とうとするその姿に感動すら覚える。
成長したわね…ヴィヴァルディちゃん。
ヴァーデを怯えさせる声の元を絶とうというのか、シザリオンは闇の中へと疾走して行った。
…大丈夫なんだろうか?
改造チート2人(私とヴィヴァルディ)と天然チート1人とは違い、シザリオンは普通の人間である。
当たりどころが悪かったら………
ぞわりと肌が粟立つ。
死ぬ?シザリオンが?
それはいけない。
幾ら私がそれをなかった事に出来るとしても、死なせたという事実は許せそうにない。
シザリオンを追って走ると、びくびくしながらもヴァーデが併走してきた。
チラリと辺りを伺えば、破壊された剥き出しの混凝土の壁ばかりが並んでいた。
その先にちらちら見えるのは、背後に居た筈のクオリだった。
…走った様子もなかったのに、いつの間にあんな先に?
いや、愚問だったわね。
だってクオリだもの。流石だわ。
シザリオンに追い付いて止まる。
辺りは鉄臭く、それとは違う据えた臭いが鼻に付く。
肥溜めのような臭いも混じった其処の空気に、私は吐き気を催した。
整列されたものはなんなのか。
それは何かに食料かのように咀嚼された後、捨てられたのだろうか。
ぐにゃぐにゃのピンク色の破片がそれにこびり付いている。
その整列されたものの横には、謎の肉塊が転がっていた。
恐ろしいことにそれは、普通の生物と同じく脈打っている。
余りの凄惨さに距離を置くと、クオリに目隠しをされた。
「大好きな歌でもうたってて、此処を抜けるから」
ぐちゃぐちゃという音が聞こえたかと思えば、また耳栓をされて何も聞こえなくなった。
あの肉塊…少し誰かに似ていた。
あのもの達は…私の学校の制服らしきものを…
ガンガンと頭が痛くなり、何も考えられなくなる。
ねぇ××、こんな状況なのに、見てて楽しいの?
神様ってろくな奴がいないの?
半泣きの少女を確認して、女神はふうと溜息を付いた。
「やりすぎかしらね~」
それを聞いた隣りの黒いのは「明らかにやりすぎで御座いますね」と返した。
暫くして黒いのは小さく欠伸をすると、小瓶を片手に出掛ける準備をし出した。
「助けに行くの?」
「ええ、この展開は私の望んだものでは御座いませんし」
そう言う黒いのを見てから、女神はにっこり笑った。
「昔から大したお兄ちゃんぶりよね、あなたは」
「おや、何の事やら?私、人間の時の記憶は御座いませんので」
「私も無いわ」