悪意と情報と溜息
「情報を、せいりします!」
ビシッとデコったごつめの薄い赤のラメ入りフレームというお洒落な眼鏡をしたクオリ君が、黒板をたしたしと叩いた。
まるで機械で打ったかのような凄まじく綺麗な文字を、これまた凄まじい速さで書いた後に、クオリ君は冒頭の科白を言ったのだ。
場所は誰もいない教室内で、しゅみがさくれつしたらしい何かは結局判然らないまま、片付けられてしまっている。
物質だったのかもよく判然らないけれど、怖いから何も聞かない。
世の中には知らなくて良い事がいっぱいあるのだよ。
「ひとつめ、黒いエクトプラズムについて」
オプションの眼鏡をくいっとさせ、指付き棒でとんとんと黒板を叩く。
「黒いエクトプラズムは恐らくは意思を持つ魔力の塊だと思われる。魔力を微量取り入れさせる事で、力を与えると共に昂揚させている。これは実際に取り入れた人間の証言により、確実性は高い」
そう言ってバンバンと“さとし”という文字を叩く。
誰ださとしって。
「ふたつめ、その動向については……リンコが詳しく知ってる。せつめーおねがいね、リンコ」
「お…おう」
パチッとウィンクをされて、何とも言えない言葉が掠れて出る。
女としてアレな返事になってしまった気がするが、気にしたら毎日風呂上がりにバスタオル一枚で彷徨くという習性の方がよくない気もするのでなかった事にした。
「女神曰く、囚人の魂とやらが混じってしまったらしいわ。後は…忘れたZE!」
「あらあらリンコったら可愛いんだから!!流石は私のリンコね!」
「ちがうよ!ぼくのリンコなの!きみはあっちのはぶられ気味なシとザとリとオが付く男にしときなよ!」
「我が輩に男色の気はないのである!!それなら彼方の柩殿を…」
「えぇ!?おれぇ!?だめだめぇ!!だって男同士とか気持ち悪いもぉん!!」
男同士じゃなきゃいいのかお前は。
全国の腐女子の皆様に謝りなさい。
まあ…私も男同士のじゃれあいを見て楽しめる性格はしてないけどもさ。
ぎゃいぎゃいと騒ぐ4人を後目に、黒板に書かれた残りの文字を見た。
「…三つ目、本拠地は日本全土にも及ぶ壮大な地下世界、か」
セリムを揺り起こし、クオリは良い笑みを浮かべる。
現在地は学校から我が家に移り、今は拷問…いや、自白させている所だ。
クオリの後ろにある謎の機械が気になるけれど、私はとても賢いのでアイスに夢中になっておいた。
クオリの作った無駄に豪華なアイスうまー!
「あのね、リンコ、そのメスを取って?おねがい」
何も考えずにメスを渡すと、向こうから「あの美少女の名前は荻原凛子なのですか…?そんな筈は…」という声と「リンコを視姦しないでね?」という声が聞こえ、悲痛な絶叫が響いた。
私はなにも見ていない聞いていない大丈夫大丈夫ダイジョーブあそこにいるのは何時ものニコニコした顔が可愛いクオリ君だから!!
「リンコ、お代わりあるわよ?食べる?」
「うん」
「あらあら…口元にアイス付いてるわよ」
ヴァーデに甲斐甲斐しく口元を拭われる。
そのシルクのハンカチめちゃくちゃ高そうで勿体無さ過ぎる。
そのハンカチを何故かジッパーに入れて、懐に仕舞ったヴァーデ。
ちょ、なんでジッパーに!?
「出来るだけ情報を搾り取るのは当たり前であるが…なんて…惨い…」
な、何をやっているんだろう。
正義の為なら殺しを厭わないようなシザリオンがドン引きって、本当に何を!?
暫くした後、良い仕事をしたという笑みをしたクオリが言った。
「黒いエクトプラズムはクリスタルの中に設置してあって、電波を通して魔力を送っているらしいよ!だからかな、一日中パソコンとかに向き合う人が掛かりやすいの」
「ほう!機械という機械全てをぶっ壊せばもうおわりではないか!で…壊すのであるか?」
そう言うシザリオンに、クオリ以外のみんながそれだけは勘弁してくれと頭を横に振った。
あれは…本気の目だった。
友達来てるので、ちょっと文字数少なめの更新。