チートの本領発揮
嫌な予感がしつつ学校に登校すると、人が私たち以外に誰もいなかった。
今日は休みにするなんて連絡を受けていない筈なんだけど…
成る程。彼方も痺れを切らしたという事かな。
鞄に入れていたトンファーを取り出し、腰に装着する。
ほら、何事も先手必勝って、いうでしょ?
装着して直ぐに、誰かが教室のドアを開けて入ってきようとした。
ぶん殴ったので、入って来れなかったけど。
しかし加減したとはいえ避けられるとは。
「いきなり殴るなんて酷いのです」
「ああ…セコムか」
「セリムなのです!」
入ってこようとしたのは、怪しさ抜群の黒い転校生セリムだったようだ。
セリムはくすくすと嗤いながら、中2病臭い動きでこう語る。
「君たちなのでしょう?私たちカオス神の信徒の集う、カオティックルーン永久機関を攻撃したのは」
臭いじゃなくて中2病だこいつ等…
まさか超能力持ちってみんな中2病…いや、怖い想像は止めておこう。
敵は敵だ。
敵はぶん殴ればいい。
「おっと…それ以上動かない方がいいのです。学校に誰もいないでしょう?実は信徒達に一カ所に集めさせたのです。あなた方が動けば、あなた方の御学友は嬲られる事になり「関係ないね」ぐがっ!?」
マウントポジションを取り、頬をぶん殴る。
結構頑丈なのか、破裂はしなかった。しても困るけど。
「ふはは…あはははは!!攻撃しましたね!?これで御学友は木っ端微塵!あなたの所為で死ぬのです!」
「そんなの、ぼくがさせる訳、ないでしょ?リンコを、人ごろしにさせたく、ないもん」
いつの間にか糸が切れたような表情をしたクラスメート+αを連れたクオリが背後に居て、不敵に嗤っていた。
セリムはそんなクオリに唖然とし、そして小さく「アメリカに集めさせておいたのに、あの一瞬でどうやって…」と呟いた。
それにはニヤニヤと嘲笑うヴァーデが答える。
「私の知り合いは多いのよ。不穏な動きがあれば教えて貰えるように、頼んでおいたの。後は…そうね、クオリとシザリオンと逐一情報を交換して、あなた達の本拠地を探していたのよ」
「そんな…」
予想よりも相手が悪かったと漸く気付いたのか、セリムの顔が青ざめた。
それに構わず、ヴァーデは続ける。
「まあ、クオリ曰く…幹部の脳味噌を弄れば、記憶を辿って情報を得られるらしいけど」
その言葉の意味がよく判然らないのか、セリムは何も言わなかった。
ただ、口をぐっと閉じている辺り、拷問でもされると思ったみたいだ。
シザリオンは怒りをかみ殺した表情で、はっきりと言った。
「人を殺すってことは、殺されてもいいってことなのであろう?我が輩は思うのだ。正義のない者を嬲り殺していけば、世界は平和になるだろうとな。更正?囚人?罪無き人を意味なく無惨に殺しておいて、どの様な扱いに堕ちていようと生きている価値などないのである!」
「あのね、シザリオン。簡単にそーいうことするの、よくないよ?」
可愛らしくそう説くクオリに、シザリオンはしかしと怒りを和らげる事はなかった。
私の下に居るセリムに至っては顔が真っ白になっていて、かちかちと歯を鳴らしていた。
ついでに頬は真っ赤に腫れている。
嫌がらせとして、針付きのトンファーを腫れた頬に軽く押し付けておいた。
痛いのか身動ぎをして、その身動ぎで掠った針が痛くて更に動いて、その動きで針は更に刺さっていき…を繰り返す。
因みに針の先はやや丸いのでぶっ刺さる事はない。
完全にただの嫌がらせだけど何か?
まあそれは置いといて。
可愛らしく説いているクオリが、不意に此方を見た。
その表情はこの場では似つかわしくない子供みたいな無邪気な表情で、その表情のままこてりと首を傾げた。
「どーして、楽にさせようと、そうするの?ともぐいさせればいーのに」
「ひ…ひ…そんな…なにそれ…ひ…」
衝撃的なクオリの科白に、セリムは言葉もマトモに出せないくらいに怯えた。
かく言う私もやや怖くてクオリの方を見れなかった。
多分、まだ無邪気な、子供が虫の手足を千切って遊ぶように残酷な、そんな表情をしていると思うの。
…さ、宰相怖い。クオリ君ったらマジ宰相。
「そ、それはどういう意味なのであるか?クオリ」
やや引き気味の声を上げるシザリオンに、クオリは晩ご飯の時にみんなを呼ぶ時のような朗らかな声で答えた。
「あのね、こいつらをね、なにもない迷宮にいれるの。ちょっとのごはんと、のみものをわたして、あえて他はなにもせず、放りこむの。生き物って、おなかがすいたら、なにをすると思う?」
それを聞いて絶句したシザリオンに、クオリは尚も続けた。
「ね?リンコは手をよごさず、ぼくたちも見ててたのしく、運がよければはれて生きたままお日さまを見れるよ?」
「もうやっといたからダイジョーブ」というクオリの言葉を聞き、セリムは恐怖のあまり失神したようだ。
「な、成る程!恐怖心を煽る作戦だったのだな!我が輩、てっきり本当にやったのかとおも」
シザリオンが不自然に止まった。
不審に思ったヴァーデは、シザリオンの見た方向を見て絶句したようだ。
私も見ようとしたら、クオリに持ち上げられてしまい、何も見えなくなった。
「ちょっと、何があるというの!?気になるんだけど!!」
身動ぎしてなんとかクオリの顔を見ると、凶悪な程に晴れやかな顔で言った。
「ぼくの趣味が、さくれつしただけ。…見たい?」
うん、やっぱ良いです。
チートというより魔族の本領発揮?
とりあえず、時間がなかったので中途半端になっちゃいました。