××は面倒臭がり
「出来ました…やっと出来ました!!」
嬉しそうにディスクを持つと、黒い男は歓喜の声を上げた。
くるくると舞い踊りそうな程に喜ぶ上司(但し無表情)に、ゴツい天使はドン引きした。
(あ、ロクな事じゃないな)と思った天使だが、間違ってはいない。
少なくとも荻原凛子にはよくない事だろうし。
「凛子様の倒すべき敵!!で御座います!!この倒すべき敵と世界を巻き込んでの壮大なバトル!!嗚呼、私、とてもドキドキ致しますっ!!」
「…そうすか」
天使はもうそれ以上なにも言えなかった。
上司は構わずスキップをしそうな勢いのまま宣う。
「凛子様の元に戦士を送ったのは勿論主人公である凛子様のサポートの為で御座います。そう、私は今回は逆ハーではなく戦場で芽生える的な熱い友情ゲームをしたいので御座いますよ!!解りますかサマエル!!」
「そうすか」
ゴツい天使――サマエルは強張った顔をしないようにするのが精一杯だった。
怖い。無表情なのにテンションが異様に高いのがめちゃくちゃ怖い。
そんな何とも言えない空間に、突如として何かが現れた。
それは美しい髪を靡かせた、美姫も霞んでしまうだろう美貌の――
「ヤッホー!来たわよグヘヘっ」
――残念な女神だった。
「おや、ようこそいらっしゃいました〇〇様」
「その様付けやめなさいよぅ××キュン☆」
一瞬嫌そうな顔をした上司を見て、サマエルは相変わらず女神すげぇと思った。
そのくらい上司は表情を変えないのだ。
女神はそれをまるきり無視して、どこか罰が悪そうに言った。
「あー…そういやね、ビールぶっ零しちゃってさー…」
「零した…何にでしょうか?」
黒い男は嫌な予感がしつつもそう問うと、女神はキリッとした顔で答えた。
「罪人No.966が入ったのにぶっ零しちゃってさ~、仕方ないからって拭いてたら壊れちまって~、またケースに収めようとしたら…発動ちゅーだったテレビ画面に突っ込んじゃって其処を中継して凛子ちゃんの世界に行っちゃった。きゃはっ☆」
「な、何しているのですか貴女様はぁぁぁぁ!!!!」
慌ててテレビを付けて、いろいろ場面を切り替えながら確認する。
場面が切り替わる度に彼は顔を真っ青にしていった。
「私の作った敵と融合してやばい事になっているではありませんか!!」
「あちゃまー」
女神は、黒いもやもやを指差して起こる黒い男に喧嘩を売っているとしか思えない言葉を返しながら、少し誇らしげに言う。
「大丈夫!私が輪廻転生させたトリップ転生のチート少年が居るから!」
かちかちと弄る黒い男が嫌そうな顔で女神を見る。
それはそれは凄まじい殺気を放っているので、サマエルは出来るだけ目を反らした。
「貴女様の適当な仕事の所為で少年に憑いてしまっていたもののおかげで酷い事になっておりますが!!弄る真っ直中のとてもデリケートな時にそんな事をなさったから…アレが変な感情を持ってしまったではありませんか!!」
「良いじゃない。敵にめちゃくちゃ愛されてて嫌がる凛子ちゃんとか垂涎ものじゃない?無理やり(不適切な発言なのでカットさせて頂きます)とか(不適切な…以下略)とか(略)とかされて孕むとか…私…私見てみたいわ!!」
「わ、私は見たくありません!!」
「本当に?」
たっぷりと時間を開けて、黒い男はこくりと頷いた。
どっちの意味だろうか。
サマエルは女神の発言にドン引きしながら答を待った。
「ま…まあ、もうやっちまいました事はどうしようも御座いませんし、このまま進むしかありませんね」
(凛子ちゃん強く生きてぇぇぇ!!!!)
見捨てられた荻原凛子に、サマエルは深く同情したのだった。
「何故か酒臭い黒いもやもやを纏った美女に襲われる夢を見た…怖かったー」
「わ、わあ!だからってリンコ、ぼくの布団に、入っちゃやだ!」
「いいではないかいいではないかクオリ君」
「ねむれない!ぼく、ねむれないよ!」
「黙れ脱がすぞイイコだから黙れ握り潰すぞ」
「リンコ…目がすわってるよ……やめて!だまる、ぼく、黙るから!脱がさないで突っ込まないで、きゃーーー!!」