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ただ見て欲しくて

学校に登校すると、春山先生が普通に居た。


念の為に名前を確認しても、荻原柩という名前ではなかった。


…何だったんだろうか。


学校が終わり、私は三人を連れて歩いて帰る。いつも通りだ。


ただ、背後から物凄く視線を感じる。


疑惑と苛立ちに満ちた、そんな眼差しを。


私だってお前が嫌いだ。


せっかく、嫌いでもなんでもない他人になってたのに。


そして遂に、彼が現れた。


私の目の前に回り込んで来たので、その顔がよく見える。


かなり中性的な美貌をした、私の義弟。


東洋人らしい顔付きだが、それにしては掘りの深い容貌。


どうして私を嫌うのかは判然らない。


昔の私は弟だからとまだ優しくしていたような気がするが、それも最早いまは関係ない。どうでもいい。


私はお前が嫌いだ。


「凛子…そいつらは何なの?もしかして恋人?ははっ!阿婆擦れめが!」


相変わらず軽薄な奴めが。


私はその柩の言葉にただ、一言だけ返した。


「邪魔」


トンっと軽く押せば、簡単に退いた。


こんなに淡々としてるのはただ、怒ろうと思っていたけれどそれの為に消費されるカロリーが勿体無いと感じてしまったからだ。


「おまえ…こんな事言われても怒らないなんて、本当だからなのか!?家に男を住ませてるし!!何も感じないなんて相変わらずだな!!」


嫌いだから関わりたくなくて、私はそれにも一言だけ返した。


「他人に興味ないだけ」


そのまま家に帰ろうとすると、いきなりクオリの魔法が発動した。


何かと思えば、クオリの発動した魔障壁の外側にへばり付いて泣くあれの姿が見えた。


何か言っているが、よく聞こえないや。


「大丈夫?リンコ、震えてる」


ああ、確かに私、震えてるや。気付かない程、私は動揺していたようだ。


クオリを抱き締めると、何やら妙に安心した。

きっと絶対に裏切らず、美味しいご飯をくれて、死なないからだろうか。


横からシザリオンとヴァーデもくっ付いて来て、歩き辛くなった。

賑やかなのは苦手だけど、嫌いじゃない。


そのまま帰る事にした。


…泣き喚く柩を無視したまま。


「ざまぁ」


頗る冷たい眼差しでそう言うクオリが、何故か少し怖く感じた。

まあ、これは流石に気のせいだろうけど。





朝になり新聞を取りにポストまで行くと、ぐすぐすと泣く男が玄関の前に居た。


柩だ。


よく私の目の前に来れるなと思いながら、無視して新聞を取る。


そして家に入ろうとすると、柩が抱き付いてきた。


は?


なんで?


ぎゅうぎゅうと抱き付いてきた柩がぼそぼそと何事か呟く。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


…なんか怖いので続きを促す事にした。


「何に対して謝ってるの?」


「無関心に思われるのもただの弟と思われるのも嫌だったから、悪い事しちゃった…だからおれ…ごめんなさい…」


酷く弱々しく謝られ、どうしたらいいのか解らなくなる。


取りあえず普通に返してやった。


「謝るなら私にじゃなく、死んだ田中市太郎に謝る事ね」


え?なんて顔をした柩に、私もえ?という顔を仕返す。


何か私間違えてる?間違えてた?


「おれ…あの幼なじみの人を殺しちゃったけど…田中市太郎は知らない…」


え?


ど、どういう事!?


あの子、死んでるの!?


えぇっ!?


「もしかして忘れてるの?…そんなに、ショックだったの…?好きだったから?だから?おれなんかよりずっとずっとずっと好きだったから?だからなの?」


何か言っているけれど、私の耳には何も入って来なかった。


誰が私の光熱費とか出してくれてるんだろう?


…私はどうして忘れてたんだろう?

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