緋色の記憶の断片
『どうしてわたしだけごはんをくれないの?』
『ちがうよ!わたしはやってない!』
『ひつぎがやったんだもん!わたしじゃないもん!』
『おなかすいたよ…おなかすいたよ…』
…これは、幼い頃の私?
ネグレクトにあってた時、私は柩にも嫌がらせを受けていた。
だから私は柩が大っ嫌いだった。
彼奴は何故かその憎悪の視線を喜んでいたけど。
でも、そんな時にあの子が隣りの家に引っ越して来た。
ぼろぼろになってた私を見てあの子は嘆き、結構な時間が掛かったけど助けてくれた。
頭を殴られていた所為で記憶が飛び飛びになっていても、あの子の事は忘れていなかった。
大嫌いだと思っていた柩の事を忘れていたのは、時が経つに連れて大嫌いとも思わなくなっていたからだろうね。
正直、どうでも良い。
柩はあの子の事も嫌いだったらしく、嫌がらせがしつこかった。
だから私は無視をした。だから私はいまあの子の援助を受けてこの家に住んでいる。
忌々しい記憶のある家だけど、まあ、離れるのも面倒だったしね。
まあそんな幼少期を送っていたからか、ご飯には煩いのよ私。
ルンルン気分で冷蔵庫を開けると、ヴァーデの頭部が入っていた。
震える手で頭部を掴むと、まだ生暖かかった。
冷たくなっていた田中市太郎の頭部と違い、新鮮な血が垂れ流しになっていた。
今度は流石に倒れなかった。
倒れなかったけどひたすらに、怒りが湧いた。
久し振りに此処まで感情を動かしたかもしれない。
止めれそうもない怒りに身を委ねたまま、身勝手な奴に吠える。
「ぶっ殺してやる!!」
クオリが私の抱えている生首を見て、実に嫌そうな顔をした。
「なにそれ。新手のダイエット?」
べちんべちんとヴァーデの頬を叩くクオリを止めて、キッと睨む。
「流石に今はそんな冗談を「ヴィヴァルディは生きてるよ。だってぼくの血肉たべたでしょ?」……あ」
そういえばそうだ。
あー…なんだか微妙な気分になっちまったよ。
シザリオンも元気にランニングして無事に帰って来たみたいだし、とっちめるのはご飯食べてからにしようか。
いそいそとヴァーデの生首を抱えて家に入る。
あ、思わず家を壊しちゃったじゃん。やべー。
(時よ戻れ!とか言えば戻ったらいいなぁ)
そう思った瞬間にギュルギュルと空間が歪んでいき、壊した壁が元通りになった。
ヴァーデも元通りになった。
ついでに田中市太郎も元通りになった。
…………あれ?
なんで君、此処に居るの?
ていうか私、こんなチート魔術使えるってわかってたならもう事件解決してたと思うんだけど!!
返せ!!
私の倒れた所為で食べれなかった昼ご飯を返せ!!
地団駄を踏んだ所で、あのカケルのクソ野郎は現れなかった。