犯人は誰だろう?
「何か悩みでもあるのか?ずっと引きこもって…」
心配そうに覗き込んでくる知り合いに、少年は泣き腫らした顔で声を絞り出した。
「見返してやろうって、思って、たんだ。だけど、いざ行動に移そうとしたら、手が震えて…!怖くなったんだ!」
知り合いの大きな手が少年の頭を撫で、優しく続きを促した。
少年はしゃっくり上げながら座り込んだ。
もう、限界だった。
「ただ、俺はただ認めて欲しかっただけだから…だから…だか…ら…」
「そうかそうか…だから」
不自然に言葉を止める知り合いを、少年は訝しかげに見詰める。
少年は警戒するべきであった。
殺人犯の疑いのある少年に平然と話し掛けてきた、知り合い程度の者を。
「だから泣いたんだね?アハハッ」
「え?せ…じゃない…?え?そん、な…そんな筈っ!だって、だって、あんたは確かにあの時」
ぐしゃりと首をねじ切られ、少年は目を見開く。
信じられないものを見たという、そんな顔を浮かべたまま。
その者は玩具の頭部を少年の首の代わりに胴体にねじ込み、満足げに嗤った。
「今、会いに行くよ…待っててねぇ凛子」
おぎはらりんこと書かれた玩具の胴体を、大切そうにポケットに仕舞った。
「うわ…今、ぞわってした」
ハロハロ。
みんなのラブリーチャーミーなかたうわなに止めろクオリ君。
「今のは、かなり危ない、そんなネタだよ!メッ!リンコ、メッ!」
クオリ君、可愛い『メッ!』有難う御座います。
学校も物騒だからって休んでいられないからか、今日から学校閉鎖は終わりらしい。
けれど警察官がびっしりと見回りしているので、よっぽど狭い裏道に行かない限りは大丈夫らしい。
けれどこのぞわぞわした感覚は拭えない。
「ふむ…大変であるな。リンコの世界は」
シザリオンがそう言いながら、せっせとクオリ君手作りの弁当を鞄に詰めた。
まあ、確かに殺人事件は向こうの世界じゃ良くある事だったよね。こわい世界やわー。
「日本は結構平和だものねぇ。私の住んでた所は…Hallowe'enの日に留学中の人が友達の家と間違えて他人の家に訪問してしまってね、その所為で不審者と思われて射殺されてしまったのよね」
なんて狂気的なのかしらね。
日本人で良かったかもしれない。
それも今脅かされそうな勢いだけども。
「さてはい、今日のお届け物~」
ポストを蹴り上げるように開けると、がらがらと何かが出てきた。
さて、一昨日はアイスの棒、昨日は使用済みのナプキンだったが…今日は一体何だろうか。
昨日より凄いのじゃなければいいけど…
「あれ?玩具?首が無いね」
横で私にしがみつかれているクオリが、そう呟いた。
ていうか私クオリにしがみついちゃってたんだね。
ぽかぽか子供体温が結構気持ち良い。
「もう!リンコ、それよりこの玩具見覚えある!?」
グイッと差し出された玩具は……昔私も買って遊んでいた、懐かしのりかちゃん人形の胴体だった。
頭部どこ行った!
それをぐるりと裏返したクオリは、とんとんとある部分を指差した。
「おぎはらりんこ…あの子の字だ」
昔、私には幼なじみが居たんだ。
親にネグレクトされていた私を見てくれていたのは、おばあちゃんとその幼なじみの両親だった。
私にとってあの子は美味しい物をくれケフンケフン…優しいお兄ちゃんだった。
忘れてないよ、あのオムライス。
嬉しかったよ、あのカレーライス。
お兄ちゃんと言えば炒飯ってイメージがある。
…まあ、うん、よく飯くれる人だったなぁ。
ていうか子って歳じゃないよね、明らかに。今年で26歳だもん。彼は。
「私より十歳年上のあの子にあげた筈なんだけどな…りかちゃん人形…」
「胴体だけ?」
「そんなわけない」
見れば見るほど私の持ってたりかちゃん人形だ。
チョコレートの染みまであるし。
ヴァーデが嫌そうな顔をしてから、携帯電話を弄った。
そして私に突き出す。
おや?え?うそ、本当に?
…田中市太郎の死体に突き刺さる玩具は、古いりかちゃんの頭部、だと。
いや、まだ彼が犯人とは決まってない。
そんな狂気的な様子はなかっ…あったよそういえば。
だって私をよく殴ってたお母さんとネグレクトしてたお父さんを、知り合いの弁護士に頼んで裁判起こしたの彼だもの。証拠も沢山集めてたみたいだし。
そんでもってなんか慰謝料だかなんだかもくれるようにしてくれたのも彼だった…と、思う。
まだ小学校の低学年で理解出来てなかったからよく話聞いてなかったからあやふやだけども。
今思うと末恐ろしい人だな。彼は。
だってその時まだ16歳だぜ。
あの演技力はマジで怖かった。
でも彼が犯人だとはやっぱり思えない。だって医者だもの、彼。
でもなー…うーん…他にも誰か居た気がするけど…私結構忘れっぽいからなー…
まあそんな悩みは置いといて、学校へ行くことにしよう。
クオリのお弁当、最近こわい物質入ってないから楽しみだわー!