危険人物は無視で
「はぁ…はぁ…」
少年は走っていた。
太った体はお世辞にも早いとは言えず、そしてアレは身体能力になんら影響を与えるものではなかったのだ。
少年は悲鳴を上げる事も出来ない程に疲労困憊している。
肺は酸素を欲している。
それでも止まる訳にはいかなかった。
遠くからはサイレンの音が鳴り、思った以上に警察も動いているらしい。
少年はサイレンの音から逃げるように走る。
それは罪悪感からか、それとも恐怖心からか。
少年は泣きそうな顔で走り去った。
「こんな筈じゃなかったんだ!こんな筈じゃ…」
その科白を拾うものは居なかった。
「今日も学校休みとか嫌になるわー…」
クオリとヴァーデとシザリオンを引き連れて、取り敢えず路地裏を歩く。
カツアゲされ掛ける度に逆にカツアゲしてるシザリオンは無視をして、買い物袋を死守している私。
ほら、私か弱い乙女だからさ。スプーンより重いの持った事ないのよ。
「リンコ、いま、お米50きろ、持ってる。か弱いとか、絶対ない」
クオリに断言された!
「それよりリンコ、クオリ」
神妙な顔でヴァーデが携帯電話の画面を見せてきた。
その画面に映っているのは――
「ん?殺人の疑い在り?でもこれびびりの田中君じゃん」
小学校でよく隣の席になった男子、田中市太郎君だった。
無理無理無理!田中君ったらチワワにもびびるし子猫にもびびるような奴だったんだから!
まあコンプレックスは抱いてたけどさー。
「これがどうしたの?」
クオリの言いようは相変わらずだ。
「田中市太郎は行方不明だって。危ないからリンコ、出歩く時は絶対に1人じゃ駄目よ!危ないから!」
どっちが危ないんだか。
「田中くん!」
はい、クオリ君のスマイルありがとうございますいらねー。
でも行方不明かぁ…。
何があったんだろーな…田中君。
「何にしてもさー…容疑者だからって顔写真流出するのは酷くない?確定してから出しなさいよね」
「わぁ!!リンコ優しい!」
「きゃー!!リンコイケメン!」
「流石はリンコである!!」
「…止めなさいよ。此処、人が少ないとはいえ近所なんだから」
厳つい顔の人が見てるじゃない。何故かガクガクと震えてるけども。
「やだな…。なんか、嵐前の静けさが長く感じるんだけど、まだ君達がこっちに来てひと月程度なのよねー」
その私の言葉に、クオリが元気よく手を上げた。微笑ましいなぁ。
「ぼく、馴染んだ!とっても!」
「馴染んでないじゃない害獣!」
「ぼく、可愛いから、親しまれやすいの!いっぱい!ヴィヴァルディはその顔面工事止めなきゃ無理じゃない?ぷふっ…真っ白おばけちゃーん!」
「きーー!!」
あ、やっぱ微笑ましくないや。
チラリと静かなシザリオンを見ると、何事か小さく呟いていた。
「疑わしきは刺すべき、出た血の量で罪を計るのである。やはり我が輩の愛剣で勢い良くが良いであろうな…」
魔女裁判か!
「アイアンメイデンは余り刺さんないって、ぼく聞いた。野うさぎがいいよ!オススメ!」
それ昔見た拷問リストにあったような。
「殺しちまえば良いじゃない。ほら、疑わしきは殺せっていうらしいじゃない」
其処まで過激な言葉ではなかったような。
ていうか…なんでこの男達は過激なんだろう。
神様出てこいよ!クーリングオフするから出てこいよ!
後、この面倒事なんとかしろよ!
そろそろ巻き込まれそうな予感がすっげーするから嫌なのよぉぉおおお!!