シリアスは要らん
「満を持して登場したのはいいけど、世界の何が不満なんだよ」
ぐにぐにとカケルとやらの化けの皮を剥ごうとすると「私の頬を摘まないで下さいませ」と、嫌そうな顔をされた。
が、構わず引っ張る。
「痛いで御座います!痛いで御座います!」
なん…だと…皮が取れないなんて…
まさか本当の本当にコレがラスボスなのか?
「本当に何が不満なんだよカケル君は!」
「私はそんな名前では御座いません!!不満?ありますとも!!私とても!」
グッと掌を握り締めてカッと目を見開くカケル君を、アロンソとシザリオン以外はポリポリとポップコーンを食べ固唾を飲んで見守る。
そして手を大空を羽ばたかんとする鳥のように広げ、清々しい程に良い笑みで言い切った。
「暇で仕方ないのですから!!…なんですかその拳は」
「私、お前、殴る。私満足。お前暇無くなる。みんな満足」
「ちょ、やめ」
しばらくお待ち下さい▼
「なかなか良いパンチじゃねぇか!」
「貴方様こそ、なんて素晴らしいキックで御座いましょう!私、感嘆致しました!」
ガシッと手を握り合って、カケル君と私は友情めいたものを互いに抱いていた。実に80時間にも及ぶ壮絶な戦いであった。
流石に私も疲れてしまったよ。
そこで正気に戻って辺りを見渡すと、緑が全く無くなっていた。わお。
シザリオンとアロンソとヴァーデが地面に埋まっていて、どうしようか悩む。何が起きたんだ。
ていうかクオリの奴がいないなと思って何気なく背後を見ると、クオリがシャベルを持ってにこにこしていた。なにこの子相変わらず怖いわ。
「なかよくなって、よかったね」
ナンテコッタ。君の片言がこんなに怖いだなんて。
無垢なわんこの顔をしているクオリを無視し、カケル君が満足げに頷いた。その表情は難しいゲームを楽しくクリアした時の子供の表情に似ていた。
そして彼は言った。
「とりあえずゲームはお仕舞いで御座いますね…まあ、結構楽しかったです!仕事もイイ感じにサボれましたしね!」
ストイックでめっちゃ固そうな仕事出来そうな美青年の言う台詞だと、私は暫く頭に入って来なかった。
そして彼はお辞儀をすると、凄い事を言った。
「ではここでの逆ハーを目指すゲームは終わりという事ですので、貴方様を元の世界に送り返させて頂きます!楽しく操作させて頂きましたよ、クオリさん、シザリオンさん」
「え?」
クオリがびっくりしてカケルを見ると、カケルは些し意地悪げな顔で笑った。
「凛子様に対し好感度が高く上がるように設定致しました。まあ、正直其方の方まで凛子様を好くとは予想外で御座いましたが、終わってみると素晴らしく面白い状況で御座いますね!」
「…え?」
訳が判然らないという顔しているクオリ。頭の良い彼が判然らないという訳はないのに。
ちょっとだけこの面白おかしい関係が作られたものだと断言された事に対して、寂しいなんて感じてしまった私はどうかしている。
わかっていた筈なのに。
どう考えても、私は良い反応をした訳じゃなかったし。
見た目なんて全然私の本当の姿じゃないし。
チラリとクオリを見ると、迷った子供のような顔で此方を見ていた。
…なんとも言えない気分になるけど。
「まあ、面白おかしい記憶自体は偽りって訳じゃないでしょ?楽しかったわよ!だから――」
バシンとクオリの肩を叩いて、ニコリと私らしくなく笑ってやった。
「さようなら!元気でな!」
私は湿っぽい空気に耐えられずカケル君を見やると、彼が頷き直ぐに光に包まれた。
そして私は呆気なく帰還した。
本当にあの世界に行ったのか解らなくなる程に鮮明に、今日やった出来事を思い出せる。
あんなイケメン共にモテるなんて、夢だったのかもしれない。だとしたら痛いな私。
人生最大のモテ期があれ(夢)だとしたら、私可哀想過ぎじゃないか。
ていうかカケル君ってあの巫山戯た紙を置いていた神様って事で良いんだよね?殴り損ねたなー…。
感傷的な気分を押し込む為に沢山考え込む。
幸い、今の時間は夕飯を食べた後の自由な時間だ。
風呂にも入った後なので、ほかほかしている。
なんだか変な気分だなと思いつつも、夢?の事を沢山考えれる。
だから直ぐには気付かなかった。
――魔石が私の髪の毛に絡まっているなんて。