意外と使える短剣
「このお野菜ください」
「あらリンコちゃん!はい、新鮮なカラパヤ入ったからおまけしちゃうわ!」
「ありがとうございます、ゴンゾーラさん」
りんごに似た果物(味は遺憾ながらフルーツトマトだが)を貰った私、萩原凛子と申します。
年は残念ながらもう2Xになりましたが、どうやら14程度の娘に見えるようです。
果物と野菜にお肉と加工前の食品を扱うお店の店長さんのゴンゾーラさんは、毎回毎回買う度に理由を付けてはおまけをくれます。
ちなみにおっぱい(顔は地味にしてもこれはメロン並みにあるまま)がなければもっと下…10歳に見えるとか。
私は身長が145くらいしか無い。だから、それくらい下に見られても仕方ないかもしれない。
つまり今の私はロリ巨乳…少女に脂肪と乳腺の塊がついているのだ。運動し辛い。
たくさんの野菜と果物を持ってえっちらおっちら歩いていると、高速でシザリオンが走ってきた。
ぶつかりそうになったのでささっと避ける。
すると何故か彼が避けた私の方へ曲がってきた。
更に避けると、彼の武器である大剣が飛んできて私にぶつかった。
なんという伏兵。
痛みに悶絶は(腐ってもチートなので)する訳もないが、それを見ていた町人はそうもいかない。
親切にも剣のぶつかった頭を撫でて心配してくれるので、痛いけど我慢してにっこり笑う健気な移民の少女の演技をした。
流石チート。演技力がまじチート。
ちなみに何故私がクオリとシザリオンの名前と顔を一致させて分かっているのかというと、名前が上に表示されているからである。
ONOFF可のこの名前表示機能とメインキャラ(攻略可能キャラ)の愛情度機能(ハートの形で表示されていて高ければ高い程に赤に近い色になる。最高は真紅)は常にON状態にしてある。
まさに乙女の為のゲームのようだ。
余談だが、クオリは何故か最初から愛情度機能のハートが真っ赤だった。シザリオンは真っ白(出会ってもいないからだと思われる)だったが。
「すまなかったである」
筋骨隆々な腕が見える。
迂闊にも見上げてしまうと、如何にも武人な顔付きの男が見える。いや、漢というか…なんというか…。
漢臭い精悍な顔立ちに体躯をしつつも爽やか系の笑みを浮かべているので、頼もしい兄貴という雰囲気だ。
切れ長の目と三白眼がやや怖いものの、メインキャラだけあって美形である。
「我が輩としたことが…このような少女………」
シザリオンの目がおっぱいに向かった。
ガン見である。
「い、いえ…たいしたことないので気にしないで下さい」
胸を隠しつつそう言うと、彼は照れたように「ああ」とか「だが」とか唸る。
私も内心唸る。
ハートが…ハートが黄色いよ…不吉だよ…。
「このような物を拾ったのだが…我が輩大剣使いでな、使わぬのだよ。良かったら護衛にでも使って下さらんか?可愛いお嬢さん」
「でも、怪我はありませんし…」
妙に魔力の籠もってる短剣を「よいからよいから」と私に渡してくるシザリオン。
心なしか断りの言葉を入れる度にハートが赤みを帯びていってる気がするので、仕方なく貰っといた。
なにこれ怖い。
もうオレンジだよ。
「ではなお嬢さん。ご達者でな!」
シザリオンは風のように去っていった。
もう遭遇しないといいなぁ…あの無理やり過ぎるイベントの連続を避けるのは、なんだか無理くさいけど。
とりあえず短剣どうしようかな?
魔力があるし、普通じゃないから売りづらいなこのきらきら短剣…。
「ただいま~。まあ、誰もいないけど」
がらんどうな我が家に帰る。
そして固まる。
敷き布団がベッドに進化していて、明らかに小屋のサイズを超える程に中が広かった。
システムキッチンは更に大きくなっていて、家庭菜園まで付いていた。
【たべてね!】という紙が貼られたお料理は暖かく、さっきまでクオリがいた事を語っていた。
「ちょっとちょっと…本当に住み着く気なの?」
あのクオリが着ていた可愛らしいパジャマが脱ぎ散らかされていて、隣にピンクのうさちゃんパジャマが置かれている。
まさかこれは私のだろうか。
可愛すぎてちょっと着こなせそうにないんだけど。
食べる前に、恒例になりつつあるサーチを使ってみる。
クオリのが混じっていた。
うん、臓物って君…流石に臓物って君…。
ちなみに料理はウインナーとかでした。
食べれないなどうしようと悩む私。
だってこの料理は魔族の体の一部だもの。
下手に捨ててこの町の虫とかが進化したりしたら怖いし、かといって簡単に燃えないし。
短剣を料理の近くに置いて考えていると、短剣がカッと光った。
なんと、料理の一部が消えた。
サーチを使ってみると、クオリのだけが消えていた。
…ありがとうシザリオン!!
もしかしておっぱい星人かこのむっつり正義馬鹿めがなんて思ってごめんなさいね!!
まさかこんな良い物くれるなんて!!
その日の夜、何故かちゃんと帰ってきちゃったクオリが、置いといてあった短剣に気付いた。
「ぜったい愛情示す…ぼく、そう決めた!こんなのに、負けないんだから!」
ぷりぷり怒りながら短剣を掴んだクオリは、何をするかと思えばそれで自分をぶっさした。
なんというホラー。
「たべて!新鮮!夕飯!」
「落ちは結局それかよ!!いらん!」