槍は使いづらいの
「わーい!ぱじゃまぱーてぃー!」
真っ白いもこもこ猫ちゃん耳のついたパジャマを着た青年が、シルクのような手触りの布団を敷いてころころと転がり遊んでいた。粗末な家が其処だけ王宮の如くきんきらきんである。
「えーと…クオリ」
「なぁに、リンコ?ぼく食べる?」
「何故いつも二言目には食べるか聞くのか判然らないけど。君、お仕事は?」
「お休みなの!長期!」
とてつもなくいい笑みをしているけれど、宰相に休みってあっただろうか。それも長期に渡っての休みなどあっただろうか。
原始的キッチン(に見えなくもないレベル)から魔法式システムキッチンに変えられたと思えば、今度はこんなふわもふの布団まで持ってきたクオリ。特に刃物はかなり丁寧に研がれていて、それが怖い程に種類が豊富だった。
「リンコ、多い魔力。人間なのに、すごい」
「そうなの?」
「魔力は生命力。人間、生命力少ない。魔法使えない。魔法使えないと魔族に殺される。だから魔族殺す。生きる為に」
にこにこ微笑みながら言う台詞だろうかクオリ君。
「人間は、魔族の住処を壊す。人間は、魔族の宝を盗んでいく。人間は、自然を削って繁殖する。だから魔族は人間殺す。故郷を消されるのは悲しいの」
悲しそうな微笑みを浮かべるクオリの頭を、撫でてあげる。
べ、別に絆された訳じゃないんだからねっ!
「どっちもどっちな状況なんだね…私これあるから魔術を使えるけどさ」
「…凛子が魔族寄りで良かった。魔法を使える人間で良かった。でもね、それだと可笑しいよ。人間は魔力を持てないんだよ?魔石を持ってても人間から魔力を感じる事は普通ないんだよ?魔石は魔族から切り離された瞬間から変換する機能を失い、蓄積された魔力を消費していくだけなんだ。他者の力で使うのが魔術、自身の力で使うのが魔法。ひ弱な魔法くらいなら、ぼくが知らないだけで人間でも使える人がいるかもしれない。でも、凛子は強力な魔力を持ってるでしょ?魔術じゃなくて、自然と魔法を使っちゃってるでしょ?それなのに知識が覚束無い…それはどうしてなのかよく判然らないけど、ぼく以外の前で魔法を使っちゃダメだよ」
「え!?」
「もしかして知らな「クオリが超ペラペラなんだけど!!気持ち悪い!!」なにそれ!?リンコ酷い!!」
宰相なのに子供過ぎると思えば…かなり大人な事を言うとか!!目から鱗だわ!!
クオリの豆知識(意外にも細かい)を聞いて暫く後、ドアがこんこんと叩かれる音が響く。いやだわ誰かしら。
「あのね。もう、こんな時間。なのに来るの、可笑しい。あぶないよ!」
ひそひそと忠告してくれるクオリ。でもね、あのドア薄っぺらいの。蹴り倒されたら終わりなんだよ。そして今の君は人の事を言えないと思うよ。
「あの…ドア越しですまんが此処に勇者様来なかったか?」
は?勇者?なにその中2の子が憧れそうな名詞の人。あいつ勇者だったんだぜって指さされたら私なら死ねる。勇者様って崇め讃えられたり世界の末端にまで顔知られたりしたらかなり死ねる。死因は恥ずかしすぎて爆発して死ぬ爆死で。
「勇者様(笑)なら来てないよ坊や」
「そうか…こんな夜更けにすまんな。お詫びにこれ貰っといてくれ」
低い嗄れ声(クオリが怯えていたからもうやらない)で来てないと言っただけで、男が納得して帰っていった。
なんだか適当感が否めない男だわー。やんちゃわんこ属性のクオリと偉い違いだわー。…性格正義漢のシザリオンは。
なんでピンポイントで我が家に来たんだあの男は!!町からちょみっと外れてるのに!!なんでだよ!!
もう関わり合うメインキャラはクオリでいっぱいいっぱいだよ…
「槍、置いてったの。捨てる」
槍を立てかけて置いてったらしい。クオリの投げた槍がもの凄いスピードで空の彼方へと消えていくのが垣間見えた気がした。
「槍、使いづらい」
「確かに使いづらいけど君の言う使いづらいは私の使いづらいと違う気がするような」
「だって切れない。穴いっぱいのぼく、食べる気、する!?」
「いや、綺麗に切れてても食べないから!!」