正体はまさかの彼
全員がポチマロを包囲し、じりじりと詰め寄る。
仔猫を警戒しながらのその行動は、端から見たら滑稽な事間違いなしである。
けれどその仔猫が普通の動物だったら、の話であるが。
兎に角、謎の喋る珍獣を捕らえるべく、私が手を伸ばす。
すると、仔猫は白い腹を見せて待機した。撫でろと?
わしわしと撫でると嬉しそうな声で「ああっ!リンコ様!」と鳴いた。
…なんか…聴いた覚えのある声だ。
きっと気の所為だとは思うんだけど、なんだかこの感じは…そう、アレに似てる。
「殴ってみたら解る気がするわ」
そう言うと、クオリはアッみたいな顔をした。アレである可能性に気付いたようだ。
カケルも微妙な顔をしながら木の棒を持ち、それを私に渡してきた。
「アレであるならば、素手でやらない方がよいかと」
「グッジョブだよカケル君」
貰った木の棒でつつくと「嗚呼っありがとうございます!」やら「矢張りリンコ様でないと」やら口走った。
やっぱり…これ、リジェロだ。
ちょっと待ってちょっと待って!
まさかコレも私の家に滞在させなきゃいけないの!?
魔族のかたこと喋りが特徴的な白い宰相(腹は黒い)に、元女性現男性のオネエ言葉が特徴的な金持ち(色気が凄い)に、古風で特徴的な喋り方の正義馬鹿(最近違う意味で馬鹿っぽい)に、思考回路が可笑しい神様の一角の丁寧な喋り方が特徴的な愉快犯(今は人間になってる)でお腹いっぱいなのに…!
此処に仔猫姿でマゾな奴が入ってしまったら、我が家は大変な変人集団と化してしまうだろう。
もう既にそうだという意見は認めない。
「リジェロ…だよね?」
「そうですよリンコ様!俺、リンコ様に会いたくて、死に絶える瞬間に現れた神にお願いしたんです!」
いやーな予感がしつつも「凄いわね。神ってどんな姿してたの?」と訊くと、凄く嬉しそうに「少年の姿をしていました!」と答えた。
ばっとカケルを見ると、大変苦々しい表情で「シカク様でございますね」と溜め息を吐く。
成る程全く意味がわからん!
クエスチョンを浮かべるシザリオンとヴァーデに軽くカケルの所業を話して、それからもう一度リジェロを見た。
そして何となく納得した。
面白そうだからだろうと。
だからと大変危険な変人屋敷に仕立て上げられた我が家としてみたら、堪ったもんじゃない。
王子だったらまだ良かった。
あの王子は結構マトモではあったから。
だけどマゾヒスト…リジェロとは。
まあ面白さでいったらリジェロの方だよね。
だけども謎が残る。
リジェロがあの時王子を殺したのは、操られたからだろうというのは解った。
この態度は明らかにそうだ。
…ゲームの住人を連れて来れるというのは、どういう事だろうか。
ゲームと似た世界の住人という事なのだろうか。
平行世界が大量にあるというならば、そういった事が可能でも可笑しくないのかもしれない。
でもカケルはあれはゲームの世界だと言ったのに…
まあ、リジェロだけでも無事だったという事で良しとしようか。
にこにこと朗らかな雰囲気のリジェロが、そういえばと声を上げた。
「ラファル王子も仔犬になって此方に来ているんですよ。で、二日前に何やら怪しい集団が不気味な動く箱に入れて王子を連れて行ってしまったんですよね。…植物状態のまんまで」
「…え…?それかなり拙くない?」
「拙いですね」
私は慌てて速やかに保健所に電話した。