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粘っこい視線と猫

「…またか」


最近になって、粘っこいような視線を感じるようになった。後野良猫が増えた。


観察するような視線ではなく、なんというか下心満載してそうな視線である。


特に胸が見られてるような…


兎も角、気持ち悪い視線に私は辟易していた。


猫が増えたのは良いんだけどね。


ただ、猫は妙に私にすり寄ってくるので少し苦手だ。


可愛いんだけどもさ…


「にゃー!」


急に茂みから飛び出してきた猫が私の胸に挟まる。


スポーツブラと服の上からでも挟めるくらいに大きい私の胸は、さぞかし気持ち良いのだろう。


カケルが戻らねば私の姿は戻れないらしい。


マルちゃん曰わく、そういう細かいのは苦手らしい。


クリーチャーにされるのは嫌なので、私も戻してとは口にしない。


胸に挟まる猫を抱っこして、地面に置く。


足元には大量の猫が足にスリスリとしてきているのでくすぐったい。


登ってくるので困ったものだ。


「リンコー!あ!ねこさん!」


クオリが可愛らしくテコテコ走ってきた所で、猫が私から離れ綺麗に整列した。


そして「にゃにゃにゃーにゃにゃにゃにゃ!にゃにゃ!」と綺麗に揃えて鳴いた。


何故だろう。


おはようございますボスって言った気がする。


そしてそのまま散っ!と消えてしまった。


流石クオリ。


猫まできっちりかっちり躾ているとは。


最早感動すら覚えてクオリを見ていると、彼はこてりと小首を傾げた。


「ねこさん、なんで逃げたのかな?まえは遊んでくれたのに!」


躾たのは無意識、だと!


そうか、遊びと称した躾をしたのか。


その無意識の行動に恐れおののいた。


もしかしたらクラスメートのも無意識に躾たのかもしれないからだ。


なんて恐ろしい子…!


私の気持ちを知らないクオリは、満足そうに私に飛び付いてきた。


ああもう…ケーキ食べたくなってきた…なんで甘い匂いをぷんぷんさせているんだクオリ君は。





「視線、人間じゃない感じがするのだが」


柩とごろんごろんとカーペットに転がっていた私に向かって、シザリオンがそう言った。


むう…確かに人間ならば私がもう犯人を見つけ出しているとは思うんだよね。


まあその前にクオリが見つけ出しているかもしれないけど。


ヴァーデもやって来て、微妙な顔して「もしかしたらシカク?とやらかも知れないわよ」と言う。


刺客…誰からの差し金だ!


「ぼくからのさしがね!リンコのハートをずっきゅんぱりーんするの!」


「なん…だと…」


ていうか割れてるぞソレ!


いつの間にか生クリームを口元に付けたクオリがぴょいんと跳んで来ていた。


何時もながら鼻と鼻がくっ付きそうな至近距離で話すの止めて欲しい。


生クリームくっ付く。


指先で掬ってから、シザリオンの頭部に練り込んでおいた。


「リンコ!何をするのであるか!」


「さらさらヘアーが疎ましいからやった。後悔はしていますん」


「どっちだ!」


怒りながら髪の毛をタオルでわしゃわしゃとするシザリオンを、にやにやにたにたした顔で見詰めるヴァーデさん。


どうしたヴァーデさん。


そんな悪戯成功みたいな顔して…


「ん…?なんだかこのタオル色と匂いが可笑し………髪の毛がピンク色になっているのである!」


頭部のみがまだら模様なピンク髪を、悲鳴を上げて見詰めるシザリオン。


私はそれでタオルに付いた着色料に今更ながら気付いた。


何時に用意したのか判然らないが、着色料がもの凄くべったり付いていた。


もう乙女泣きしているシザリオンに向けて、クオリは水の塊をぶつけた。


家の中が汚れる!と思ったが、水の塊はシザリオンを飲み込んで空中に漂っていた。


まるで洗濯機のように高速で回転し、水の塊はピンク色に濁る。


クオリが手を翳せば水は透明な色に戻り、そしてまた更に回った。


そして最後に凄く綺麗になったシザリオンを吐き出して、水の塊は消えてしまった。


すごい…洗濯機要らずじゃない!


やっぱり嫁に欲しいなクオリ君!


「えへへ!ぼく、いいお嫁さんになる!」


ヴァーデに挑発的な笑みを向けてから、私を見て天使スマイルをしたクオリ。


なんて計算高い天使だろうか。


生クリームまた付けてるし。


それも綺麗に口端にだけ。


何を食べているのか気になって手元を見ると、生クリームとチョコソースたっぷりのクレープだった。


「そ…それ…」


「食べる?はい、あーん!」


差し出されたクレープをそのままかじり付こうとすると、ヴァーデが奪い取ってあーんと促してきた。


それをそのまま食べ終える。


凄く美味しい!


勝ち誇った顔をしたヴァーデに、クオリはにやにやした笑みを返す。


「間接キス、阻止しなかったね?」


「クオリ…テッメェ!」


「わーい!らんぼーお馬鹿なヴィヴァルディちゃん!こっちだよー!」


生クリームはもう口端に付いていなかった。





「やっぱり視線うぜぇ」


「もう視姦というlevelにいってるわよねぇ」


やぁねぇと言いながらも、元女性のヴァーデに風呂場の前に居て貰っている。


流石の私も、無防備な状態では何も出来ないと思うんだ。


その為の保険である。


ちなみにクオリ君は物分かり凄く良い子なので、納得いかなそうな顔しつつもヴァーデが番をする事に賛成した。


ヴァーデがとても優越感たっぷりな顔をしていたのに対し、クオリは笑みを引っ込め真面目な顔して言った。


『女の子の事は結局は女の子にしか判然らないと思うんだ。だから、何かあった時はお願いするね』


ヴァーデもたじろぐ程のイケメンっぷりを晒しておきながら、その後可愛い顔して『よろしく!』と笑っちゃう小悪魔天使っぷりが怖いわ。


「流石に風呂には視姦してこないようね」


「もうそれ犯罪だから。流石の凛子さんもそれされたら泣くから」





「凛子様…流石にそそ、そ添い寝など」


「一昨日なんかカケルから求めてきた癖に」


「ちがっ違うのです!私は私は…!」


カァァァと真っ赤な顔をしたカケルを布団に敷いて、安眠を謀る私。


隣にはいつの間にか潜り込んでいたクオリが居る気がするが、きっと気の所為だ。


可愛いうさぎぬいぐるみに擬態してる気がするが、きっと気の所為だ。


私は私を慰めた。


でもやっぱりギュッと腰に引っ付いてくるうさぎの抱き枕が気になる。


抱き枕に抱き枕扱いされてる私って一体…


思考の渦に飛び込んでしまいそうなので、それは大きなペットのくっ付きうさぎさん(但し全長180は越えている)だと思う事にした…かった。


流石に無理だ。


なんでうさぎの着ぐるみの格好しているんだクオリ君は。


「にゃーん」


いや、鳴き声間違ってるよクオリ君。


「にゃーん」


どうしてもその鳴き声で通すつもりらしい。


そもそもうさぎさんは小さい声でしか鳴かないんだけどな…


「にゃーん」


そういえばやけに通る鳴き声だなと思って見やると、うさぎクオリの脇辺りに仔猫がぷるぷると挟まって震えていた。


可愛いなぁ。なんで其処に居るんだろう。


ジッと見ていると、仔猫もジッと見てきた。


既視感のある粘っこい視線で。


あ、あれぇ?


まさか犯人って…仔猫?

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